友達作戦
「まぁ、ドンマイ」
千紗は彼の背中に手を置いて励ます。
当の本人と言えば、なんでこうなったのか理解出来ていないようだ。
「は、はぁー!?なんだよあいつ!」
「まぁまぁ」
私も落ち着かせようとしけど彼の怒りは収まらなかった。
「ぜってー友達になる。こうなったら意地だ」
地団駄を踏む彼であったが、諦めが良くないのはいつもの事だ。高架橋を渡って改札を出ていく彼を目で追うけれども彼は振り返ることは無い。
「今日は、帰ろうか。まぁきっと彼にも何かあるんでしょ。ちょっとは落ち着いてさ。まだ1回目だろ?頑張れって」
まるで彼女に振られた時のような慰め方をする千紗であるが、瑞希は落ち着きを取り戻すと「帰る」といい音を立てて階段を上る。
私と千紗は向かい合って、笑いを零す。
日が沈んでも暑さは引くことがなく、海の湿った風のせいでベタつきを感じる。
「アイス食べようぜ」
昔からずっとある古びた光を放つコンビニに顔を向ける瑞希。最近はあまり買い物もしていなかったので、私もアイスを買うことにした。千紗は金欠だと言うので私のアイスを一口分けてあげる。
「うわっ、お前人のなのに食いすぎだろ」
「いいのいいの、今度鈴ちゃんにはもっといいものあげるんだから。それで勘弁してくれますよね?」
手を合わせて懇願する千紗に苦笑いしながらもいいよと言ってアイスを頬張る。「ありがとー」と頬を寄せてくる彼女と私の様子を瑞希が見守る。
「やっぱいいなぁ」
「何が?」
「だからそういうのだよ」
私は彼の思い浮かぶ情景が何となく分かった。きっと彼は本当に彼と友達になりたいんだろう。こうして私たちみたいに寄り道をして帰ってみたいんだ。歳の近い男子がいなかった彼なりの夢見る青春。それを思うと、叶えてあげたいという気持ちが強くなる。
「じゃあここでお別れだな。また来週」
「じゃ〜ね〜」
二人と別れて、私は家路に着く。街灯の少ない道路は見上げると満点の星空が明るく輝く。昔ながらの木造建ての家が見えてくる。
「ただいま」
「おかえり。もうご飯できてるから食べましょ」
食卓には既にみんな揃っていた。ちょうどよく私が帰ってきたみたいだ。父が漁師ということもあって、料理にはたいがい海鮮ものが1品はある。今日は大きな牡蠣。父は食べすぎて普通と言っていたけど、私はいくらでも食べちゃいたいくらい好き。あの苦味がたまらない。
「ご馳走様でした」
食器を洗面台において茶碗に水を溜める。私は自室に戻ってベッドに座った。
「あんなにあからさまに断んなくてもいいのに。なんか嫌うようなことしたのかな?」
私自身もどこかに気にかかっていた。だって、彼の目には何か強い意志のようなものを感じたから。
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