一日目。
一日目ー朝
<<朝の時間になりました>>
翌日、と言っていいのは分からないけどいつの間にか眠っていた私達は、謎の放送で目をさまし再び広間に集まった。
「…みんなそろってるよ、ね?」
「初日の犠牲者はなかったのかしら…?」
菜月先輩と美桜先輩はそう言って首をかしげ、
「えへへ、碧夜!ハニー!おはよ!!」
「?!い、い、いきなり抱きつくなこんのバカっ!」
「ひぎゃっ」
「いつでも璃華ちゃんはげんきだね、うらやましい…」
璃華ちゃんが碧夜ちゃんと灯里ちゃんに抱き着こうとしていつも通り阻止され、
「あれ、その本…」
「頼んだら持ってきてくれた。」
「え。」
「聞いたら、変な動きさえしなかったら快適に過ごせるように取り計らうってさ。案外話が分かるみたいだよ。」
「えぇ…、というか誰と話したのさ…。」
「えっ…と、黒子さん?」
「なんで疑問形…」
愛美ちゃんがいつの間にやら手に入れていた本について香澄ちゃんと話している横で
「歌音~っ」
「ふわぁ?!って千乃、びっくりしたよ…」
「真っ黒な部屋で一人ってのが、心細すぎたの…。」
「…んもう、よしよし。」
私は独りでさみしかったらしい千乃を慰めていた。
「見知らぬ場所で不安だけど、杏里がいるおかげで心はぬくぬくだよ、ありがとう。」
「人狼ゲームが始まる前だけど、杏奈とくっついていられるからぽかぽかするよ、ありがとう。」
「幸せだね」
「うん、すごく幸せだ。」
杏里ちゃんと杏奈ちゃんは今日も楽しげにいちゃついていた。なんか、この状況でいつも通りって少し尊敬しちゃうかも。
広間のあちらこちらに固まっては、声を潜めて相談したり、いちゃついたり、惚気たり。我が文芸部の面々は今日もいつも通りだった。
と、ポーンと軽い音がすると、広間に声が響いた
<<不運な行商人の死体が見つかりました>>
<<討論を始めます。席についてください>>
それはベルの声とは違う無機質な声。いわゆる、電子音だった。
「…行商人?」
「つまり実質的に、初日の犠牲はなしか。」
「とりあえず席にすわろっか。」
「…そうね。」
そんな会話があちらこちらから漏れつつ、私達はのろのろと席に着く。するとディスプレイが付き、ベルが姿を現した。
『おはようございます、文芸部の皆様。よく眠れましたか?』
「大した皮肉ね。」
『あらあら、部長様の威勢に陰りはないようですね。よろしゅうございました。』
くすくすと笑うベルにそれを睨み付ける菜月先輩。しばしの睨みあいが続く。
『まぁ、こうやって見つめあいをしていても進みませんし、早速討論に入らせていただきますね。私は基本介入しませんが、用がありましたら呼んでくださいな。投票時にまた会いましょう。』
ベルは言いたいことを言い切ったのか、ふっと画面が消える。しばしの沈黙、それぞれが難しい顔をしたり、にこにこと笑っていたり、やっぱりいちゃついていたり。…そういえば、なんであの二人はこんな非日常の中でいつも通りいちゃついていられるのかな。ふと疑問を覚えた私はそれを口にしようと口を開いた。
「ねぇ、な<<討論を始めます>>
しかし無機質な音声がそれを遮る。そして、私はその疑問を口にする機会を逃してしまったのだ。
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