プロローグその4(説明回のため長い)

「…で、ここどこ?」

いつの間にか気を失っていたらしい私が目を覚ましたのはどこかの会議室のような場所だった。大きな円卓を囲むように椅子が並べられ、それぞれの椅子の後ろの壁には一つずつドアがついてる。その数は、15。そしてその机の中心には大きなディスプレイが置かれていた。

「…こんな場所、学校の中にあったかしら…」

「私は知らないなぁ…」

美桜先輩と菜月先輩が、周りを見て首をかしげてる横で

「なにこれ!!集団誘拐?私たち誘拐されちゃったの?」

「…良いから落ち着け。」

言葉とは裏腹に楽しそうにはしゃいでいる璃華ちゃんを碧夜ちゃんがため息をつきながら首根っこをつかんでいる。どうやら、見慣れない場所でも璃華ちゃんは通常運転のようだ。

「本…、せっかく借りた本…」

「いやいや、心配するとこそこなの?」

「予約して、やっと借りられたから…。今日中に読み切ろうって…。」

「あ、なるほどね。…まぁ、どんまい?」

「…ぐすん。」

どうやら会議中にこそっと本を読んでいたらしい愛美ちゃんは、何よりも先に読んでいた本がなくなってしまったことを嘆いて、香澄ちゃんにつっこまれている。

「なんだかよくわからないけど、ここ雰囲気あるね…」

「あら、怖いなら私の腕の中で震えてていいのよ?」

「じゃあ、遠慮なく♪」

杏里ちゃんと杏奈ちゃんが相変わらずいちゃついている隣では

「なんだか見たことない部屋ですね」

「なんか会議室みたい。でも、うちの学校の会議室ってこんなハイテクだったっけ?」

「うーん…。私の記憶が正しければ、こんな部屋じゃなかったと思う…。」

「じゃあここは…」

「どこなんです?」

と、颯希と優佳、七美先輩が割と建設的な話をしていた。

「私達はいったい…。」

『ふふ、ようこそ「集会場」へ。才能豊かな文芸部の皆様

灯里ちゃんの呟きに答えるように第三者の声がした。私達は弾かれるようにその声がした方、机の中心にある巨大なディスプレイに視線をやった。映し出されているのは、どこかの部屋。部屋自体は暗いようで時折ちかちかと何かが光っている。そして、その中心に映し出されている女性。黒いスーツのようなものに身を包み、顔の上半分は鮮やかにペイントされた道化師の仮面に隠されていた。

「え…?」

言葉をこぼしたのはだれだっただろうか。この場にいるだれかであることは間違いないのだが。

「あの。意味が分からないのですが…。」

少なくとも、理解が追い付いていなかった私を現実に引き戻したのは美桜先輩の言葉だった。

「そ、そうだよ!!ここどこ?元の場所に反してよ!!」

「というか、おまえだれだよ!!」

「どういうことか説明してよ!!」

美桜先輩の言葉が皮切りになったのだろう。みんなくちぐちに言葉を発する。

『まぁまぁ、落ち着いて。あ、ジュースでも飲みます?』

「「けっこうです!!」

なぜか画面越しに橙の液体の入ったコップを渡そうとしてきた女性に杏里ちゃんと杏奈ちゃんの声が重なる。

『まぁ、今から説明するからさ。とにかく席に座ってくれないかな?』

「席?」

『そう、円卓の席。名前書いてあるからその席に座ってね?』

最初とは打って変わって喋り方がフランクになった女性に半信半疑になりつつ、席へと向かう。ちかづいているとたしかに、席ごとに私達の名前が書いてあった。

『さて、座ったね。じゃあそうだな、まずはこの場所の説明からしよっかな。』

私達が全員座ったのを確認した女性は再び口を開く。

『ここはさっきも言ったと思うけど集会所だよ。君達には今からあるゲームに参加してもらう。もちろん拒否権はないからね。』

「ちょ、ちょっと!!どういうことですか!わたしまだ読みたい本たくさんあるんですよ?!」

「…だから、なんで…。もういいです」

香澄ちゃんは愛美ちゃんへの突っ込みをあきらめたようで、机につっぷした。

『いやぁ、まったくもって光栄な事だ。彼の高名な文芸部の皆々様をこうしてお迎えする事が出来たのだから。』

「きけよ、人の話。」

女性の言葉に碧夜ちゃんがキッとディスプレイを睨み付け言葉を発する。

「…ちゃんと私達は元の場所に帰れるのかしら?


部員がみんな、おもいおもいに喋っている中でその声は、何故かよく響いた。一気に話し声は静かになり、全員の視線が言葉を発した本人である菜月先輩に集まった。

『おやおや、部長様。さすが落ち着いていらっしゃる。』

「話を逸らさないでもらえないかな?」

『もちろん、こちらが出す条件をクリアしてもらえればお出ししますよ。』

ニコニコと言葉を返す女性と硬い表情でそこを睨み返す菜月先輩の言葉の応酬は続く。

「…その条件とやらを聞かせていただいても?」

『あなた方の誰か一人でもこれからやるゲームで生き残っていただくこと。それがこちらの条件です。』

「…それが必ず守られるという保証は?」

『私は出来ない約束は致しませんよ。ゲームが終わった時点でこちらの条件を満たしてさえくだされば、きちんと元の場所にお返しすると約束しますよ。』

にっこりとほほ笑んで女性は言葉を返す。 

「…分かったわ。」

「菜月先輩?!」

「あなたの思惑にのらないとここから出られないという事であれば、私達にはのる以外の選択肢はありませんから。」

『ふふ、さすが個性的な文芸部をまとめる部長様、決断が早い事ですね。』

「茶化さないで。というか、さっきからなんなの?」

『あなた達の事は何回も話に聞いていましたから。輝くほどの才能をもつ文芸部の皆様。あの方は聞いているこちらが嫉妬してしまいそうなほど、とても楽しそうに話されるので一度お会いしたかったのですよ。』

賛辞を口にしているのに、わたしにはなぜか女性の背後にほの暗い炎が見えたような気がした。それに呆けているとポツリと千乃が女性に問いかけた。

「…それは私達の知っている人物なのでしょうか?」

『さぁ、どうでしょうね~?』

「真面目に話していください」

おどけたようにとぼけてみせる女性にいつもふんわりとニコニコしてる美桜先輩も声に怒気がはらませ、言葉を発する。女性の態度に苛立ちを感じているようだ。

『聞き出したいならゲームに勝ってごらんなさい?』

「…。」

「…早く内容を教えなさいよ。」

難しい顔で黙り込む美桜先輩をみた七美先輩が女性に先を促す。

『おぉ怖い、そんな顔しなくてもお教えしますよ。今回、文芸部の皆様に行っていただくのは『汝は人狼なりや?』というテーブルロールプレイングゲームですよ。』

「え。それって…。」

部員の視線が私に集まる。

「ちょ、ちょっとなんで私を見るんですか?!」

「いや、奇妙な符合だと思ってね。歌音が出した小説の題材と同じゲーム…。一応聞くけど、あの女性と知り合いなんじゃないよね?」

「もちろんです!!初めて会いましたよ!!」

菜月先輩に問いかけに私は即座に答える。変な疑いを掛けられるなんてまっぴらごめんだ。

「そう、ならいいのだけど。あ、続きお願いできる?…えぇっと…」

『あら、そう言えば名乗るのを忘れていたわ。私はゲームマスターの「ベル」。今回の進行を担当させていただくの。』

「じゃあ、ベルさん。続きの説明を頼む。」

『はいはい。そうね、舞台設定も合わせてお話ししましょうか。』

モニターの女性、ベルがそう言うと画面が切り替わる。

絵本のようなかわいらしい絵だ。

『ここは村の集会所。この小さな村に、人狼が紛れ込んだという情報が入った。どうやら村人の一人に手引きをされ、人になりすましたようだ。人を食うという恐ろしい人狼だ。放置しておけば村人は全員殺されてしまう。さらに人々に絶望を与える情報が入ってくる。なんと、人狼に怯え錯乱した村人が「狐」と「猫」を呼び出し村に潜ませたというのだ。その際に村人の一人が「狐」に魅了され配下になったというのは仔細な情報だとして、集会所に集まった村人は覚悟を決めたのだ。仲間を殺してでも、人外たちを殺すと。』

画面が変わり、再びベルが現れる。

『まぁ、舞台設定はこんな感じかしらね。ここまではいいかしら?』

『次は役割の説明。陣営は全部で四つよ』

再び画面が切り替わる。またも絵本のようにかわいらしい絵が画面の中でぴょこぴょこ動いていた。

『まずは<村陣営>「村人」「占い師」「霊能者」「狩人」の四つ。勝利条件は人外を駆逐する事よ。』

『「村人」はなんの力も持っていない。自らの知恵を絞ってこの村を生き抜いてね。「占い師

は人々が寝静まった時間に、月から力を借りて村の集会所に集まったひとのなかから一人、狼か否かを知ることができる。まぁ、それを仲間たちに教えるかどうかは本人の自由ね。「霊能師

はその日死んでしまった人から真実を聞くことができる。基本彼等は貴方に嘘はつかないけど、あなたは彼らの示す真実の重みに耐えられえるのかしらね?「狩人

は長年の狩りの腕で狼から仲間を守ることができる。でも、倒すことは出来ないのよ。狩人も所詮はただの人だもの、人外には勝てないのよ。』

『次に<狼陣営>「狼」「狂人」の二つ。勝利条件は自分たちの陣営とほかの陣営ののこっている人数が同数またはそれ以上になることよ。』

『「狼」は村に現れた災厄よ。人々が寝静まった時間に人を食い殺すことができる。また、仲間内では遠吠えで会話できるの。「狂人」は村に狼を手引きした本人よ。ただし誰が狼かわからないし、内に秘めた狂気以外は村人と変わらないわね。』

『次に<狐陣営>「狐」「背徳者」の二つ。勝利条件は<狼陣営><村人陣営>の勝利条件が達成された時に「狐」が生き残ってることよ。』

『「狐」は狼に怯えた村人が呼び出した人外よ。狼に噛まれても死なないけれど、占い師に占われてしまうとその不思議な力が毒となり死んでしまうの。「背徳者」は狐に魅了され狐の為に動く村人よ。基本は村人と変わらないのだけど狐が死ぬと後を追って死んでしまうわ。』

『そして最後に「猫又」。これも狼に怯えた村人が呼び出したモノね。勝利条件は自分が生き残る事。自分が死んだときに生きているものを道連れにすることができるの。化け猫の恨みは恐ろしいのよ。』

再び画面が変わり、ベルが現れる。

『役職の説明は以上よ。ちなみに、騙りと言って別の役職を装う行為は村人のみ禁止するわ。』

「…「村人」「占い師」「霊能師」「狩人」「狼」「狂人」「狐」「背徳者」「猫又」。役割はこれですべて?」

『そうよ?』

ベルは話してる間、ずっと優佳と灯里ちゃん、そして美桜先輩はペンを走らせ何かをメモしてるようだった。

「…内訳を教えてくれたり、は…。」

ちいさく手を上げ、顔は突っ伏したまま香澄ちゃんが質問する。

『そんなサービス、優秀な文芸部の皆様にはいらないでしょう?』

「だからって、ノーヒントは何から考えたらいいかわかんないよ!!」

ベルの言葉に璃華ちゃんがバンバンと机を叩いて抗議する。

『…ふむ、ならば人外の数だけならお教えしましょう。』

「え。」

ベルの言葉にきょとんとする璃華ちゃん。まさか聞き遂げられるとは思わなかったようではた目から見てもぽかーんとしている。

『なんです、その胡乱気な顔は。』

「え、え、え。」

すう、とベルが璃華ちゃんを睨み付ける。わたわたと慌てる璃華ちゃんをちらりと見て、碧夜ちゃんが言葉を続けた。

「…意外だっただけだ。教えてくれないものと思ったから。」

『私は気まぐれなんですよ。さて、人外の数でしたね。狼が3体、狐が1体、猫又が1体。人外はこれで全部ですよ。』

「…多いね。」

『適正だと思いますよ?さて、そろそろ始めましょうか。まずは…「その前に。」

ベルの言葉を遮ったのは美桜先輩だった。先ほどまでとっていたメモの紙をぎゅっと握りしめてベルの映されてるディスプレイを睨み付けるように真剣な顔で見つめていた。

「…「汝が人狼なりや

のルールをおさらいさせてください。そちらが実施しようとしているルールと私達が認知しているルールに差異があって、後でそれが表面化するとお互いに困ると思うのです。」

『それもそれで面白いと思いますよ?』

美桜先輩の意見をベルは微笑みを浮かべて返す。

「…相互の確認は重要だと思います。小さなミスが大きな誤解につながるとも限りません。」

『そう言うものを楽しむのも楽しみ方の一つだと私は思いますが?そもそもの話、大した理屈を並べてはいますが、要は不安を取り除いておきたいのでしょう?』

「えぇ、そうですよ?私達は今あなた達に誘拐され、押しつぶされるような不安の中でこうやってあなたとお話ししてるわけです。私達はか弱い女子学生なのです。みたところそちらの方が年上のようですし、ここは大人の余裕を見せて頂けませんか?」

『…そんな不安の中だというのに大した口が回るものですね、副部長殿?』

全くだ、それに対しては全面的にベルに同意したい。そしたやれやれと言ったように首を振ると呆れたような口調でこう言った。

『わかりました。そこまで言うのであれば譲歩しましょう。』

「あらがとうございます、言ってみるものですね。」

真剣な顔を笑顔でほこばらせた美桜先輩はくるっとこちらを向いて…ん?こちらをむいて?

「という事で、基本的な説明をおねがいできる?歌音ちゃん。」

「…え、は、えぇぇ!!!」

「あらどうしたの?」

「いや、まさか今の話の流れで私に振られると予測できなかっただけです…。というか、皆さん知ってるはずですよね、何回もみんなでやりましたし。」

そうなのだ、わたしがそもそもこの「汝が人狼なりや」というゲームを知ったのは文芸部で何回もやったから。もちろん私も小説をして書く際にいろいろ調べたりしたのだけど、確実にほかのみんなの方がルールを把握してると思う。…いやぁ、今思い出すと毎回なかなか壮絶だった。主に先輩方の人外率と、後輩組の演技力が。

「小説を書くために色々調べてたの知ってるからね。ね、おねがい。」

「…分かりました。」

くそぅ、上目遣いの美桜先輩には勝てねぇ…。あとによによしてる七美先輩と菜月先輩はともかく、颯希はあとでボコる。

「…むむ、なんか不穏な思考をキャッチしたぞ?」

「…汝が人狼なりや、略して人狼ゲームは人々が討論をする「昼」と狼の行動時間である「夜」が交互に来る事で進みます。狼は村人たちに気付かれないようにかつ自分の都合の良い場を整えられるかが肝要で、村人たちはそれを看過して仲間を殺さず人外だけを殺すかが肝要となります。裏切り者には死を、過信は禁物、差し出された手には毒の塗られたナイフが握られてると思え。村人は騙り禁止。占いは「夜」の時間に一人狼が否かと知れて狐を殺せる。霊能は吊られたものが狼か否かわかる。狩人は狼の襲撃を妨害できる。狼は夜の時間に一人を襲撃できるが狐を殺せない。狂人は狼を知ることは出来ないが騙ることができる。狐は狼に噛まれないが占い師に殺される。背徳者は狐の生存を知ることができ死んだら後追いをする。…これで間違いないかな?」

『えぇ、相違ないわよ。副部長さん、これで満足?』

「…えぇ。ありがとう。」

『ではさっそく、自らの役割を知ってもらうとしましょう。それぞれ座っている場所の背後に扉があると思います。それぞれ個室になっておりまして、そこに皆様の役職を書いたカードを置かせていただきました。くれぐれも一つの部屋に複数ではいられないように。…どうなっても保証は出来ませんよ。』

そう言ってニコリとほほ笑んだベルだが、なぜか寒気を覚えた。…あれ絶対仮面の奥は笑ってない。あと、たぶん最後の言葉は璃華ちゃんと杏奈ちゃんと杏里ちゃんに言ったんだと思う。璃華ちゃん、碧夜ちゃんにくっついていようとしていたみたいだし、杏里ちゃんと杏奈ちゃんは同じ部屋に入ろうと相談していたのが私にもかすかに聞こえていたから。

…ベルの話も終わったようなので菜月先輩に話しかけようと近付こうとしたんだけど、どこからかあらわれた全身真っ黒の服を着た人に引き離されて部屋に押し込められた。相談もだめってことなのか…。私はとりあえずそこにあったベッドにすわり込み、ため息をついた。


<<夜の時間です。>>

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