第14話

区域名称:C-17航路帯 グラスパイン〜スローパー 90NM付近


以上に示す惑星間航路帯にて貴軍所属機、PA-50型哨戒機(機番号TJ7647)及び、機内より3名の隊員のご遺体を揚収いたしました。

上記事実を以て航路公団にて回収した当該物件を軍当局に引き渡すものといたします。


恒星歴189年7月9日

航路公団 回収部長(公印省略)



「こんなもんかしらね」

報告書をコンピュータで書き上げたエリーは全体を見返す。

「物件」とは随分な書きぶりなのだが、法律上の記述がそうなのだから従うより他はない。

なんだって自分でもわざわざ下っ端文書係の仕事を引き受けたのかよくわからないが、なんだかこの報告書の作成が終わった段階で過去の出来事にケリが付くような気がするのもまた事実だった。

一通りの定型文書の作成が終わったところでエリーは立ち上がり、航海科事務室を出る。ラッタルを降り、回収区画に向かうと、回収区画に隣接した倉庫にエリーは入った。

臨時の遺体安置所になった倉庫では、3つの急拵えの簡素な白木の棺がただ静かに横たえられ、その上にはそれぞれのヘルメットが載せられている。

入室すると、エリーは脱帽し、左右の棺に対し敬礼する。

「お久しぶりです、ウィラー中佐、バリー兵曹長」

そして、とアニーの棺に向き直る。

「あんたには話があるわよ、アニー」

ずかずかとアニーの棺に近寄る。

「あんたねえ、昔からそうだけど、毎回毎回唐突なのよ、帰ってくるにしても、何するにしても」

そうして口火を切り、アニーの棺にエリーは話しかける。

「そんでレーダーといい、姪っ子といい、あんたの遺したものには振り回されっぱなしだわ、ホント」


それから。

一体どのくらい話をしていたのだろう。

ふとエリーが腕時計を見ると、間も無く立直の時間が近付いていた。

「じゃあ悪いけど、あたしはそろそろ行くわ」

去り際にもう一度振り返り、アニーの棺にあらためて向き直る。

「何はともあれ、おかえり、アニー」

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