第11話
<<Rapier18,this is Rapier23 over(レイピア18、こちらはレイピア23)>>
司令の座上した18号機がヒルボウルを出発し大気圏を離脱、航路帯の巡航に入ったその頃、ステアーマウントを出発して6時間ほど経過した23号機の機内では、フォード中尉が隊長機を僚機間通信系で呼び出していた。
<<Rapier18 laud and clear,go ahead(レイピア18、音声明瞭、送れ)>>
エリーの声で18号機から応答が戻る。
「通信取れました」
「よし、じゃあちょっと送っといてくれや」
短い機内交話を挟み、フォード中尉は引き続き通信を取る。
<<レイピア18、ブレイク、本機、本隊との衛星通信システムが現在不通、通信系確保のため、貴機をクリアした後で一旦ヒルボウルへのインバウンド航路に近接したい、ブレイクオーバー>>
<<レイピア18、了解。本機は貴機をレーダーコンタクトするも現在ロスト。機上レーダーにて本機をロストのタイミングで一旦通信取られたい>>
レーダーロストした、ということは、どちらかの機体がどちらかの直下を通過したことになる。両方がロストすれば、どちらが上にいるかに拘らずお互いが通過したことを示す。
「じゃ、クリアしたタイミングで航路帯に近接する」
了解、とフォード中尉が言いかけた矢先に、計器板の注意表示と共に警報が鳴る。
「なんだ?」
「コーション・・・・・・?」
「あー、左右指示誤差か」
「こっちは035です」
「うーん、021だな」
「正しいのは多分左側の計器ですね」
「だと思う」
かちかちとリフエ少佐が計器の出力スイッチを切り替えるが、状況の改善はない。
「コンピュータ・インフライト・リスタート・プロセジャーに移行します」
「あー、了解。珍しいなこんなところで・・・・・・ナビゲーター、よくモニターしとって」
「はーい、あっ、レーダーロスト。多分本機の上か下に潜りましたね」
「あ、そう?なら特に問題ないな。じゃスコークだけモニター。向こうの航路帯に近接するから」
「了解」
スコークモニターと復唱しかけたナビゲーター、エドワード2等兵曹の腕を副官が掴んだ。
「待て、仮想目標を走らせろ。侵入禁止エリアを設定してモニターを続けるんだ」
鬼気迫る様子の副官にエドワード2等兵曹は呆れたような顔を浮かべた。
「何言ってるんですか。もう失探したんですよ」
それより先にプロセッサの再立上げ手順でしょう、とエドワードは取り合わない。
「レベル飛行セット、スタビライザーチェック、オッケーだね。慣性レートチェック」
「はい」
「ちょっと減速する・・・・・・サーキットはもう抜いた?」
「はい、これから」
その言葉と共にコンピュータがブラックアウトする。
「記憶が正しければ、この辺デブリの情報ってなかったよね?あったっけ?」
「いや、運航班からは聞いてないですね」
リフエ少佐の質問にフォード中尉が答える。字面通りに受け取れば、この空域に航行を脅かす要素が存在しないことを意味する。その言葉の傍らでエドワード2等兵曹はコンピュータの再立上げを黙々とこなす。
「10秒経過、サーキットイン」
特に警報もなく、正常に電源が投入される。
「ん、異常なし。じゃあプロセッサの再起動継続、後は18号にコンタクトしとって」
「ラジャー、プロセッサ再起動間もなく」
レーダーには引き続き何も写っていない。
<<Rapier18 this is Rapier23,radar contact lost,close to Hillbaul outbound course(レイピア18、こちらは23号、貴機のレーダー失探、ヒルボウルアウトバンドコースに近接する)>>
<<Rapier18 roger(レイピア18、了解)>>
「再起動完了」
「了解、旋回開始」
「ラジャー、スコーク後方」
その時、立ち上げ直したばかりのコンピュータが近接警報を吐き出す。
「なんだ?」
「レーダーはなにも・・・・・・」
鳴り止まない近接警報に副官が焦りを募らせる。
「誤作動か?」
「あ、アレです!」
フォード中尉の叫び声と共にコクピット窓全体に映ったPA-50は、きっと相手からも同じで、そして司令官のいたキャビン窓からもよく見えたに違いない。
「マズイ!」
がんっ、と音が聞こえるくらいに、リフエ少佐が操縦桿を大きく右に切ると同時に、大写しになったPA-50がすぐ横を斜めに掠めて行く。
<<Rapier18 this・・・・・・this is Rapier23・・・・・・this time fly over you(レイピア18、こちら・・・・・・レイピア23・・・・・・たった今貴機を通り越した)>>
<<Rapier18・・・・・・roger,out(レイピア18、了解)>>
すう、はあ、と誰のものとも付かない深呼吸の音が機内の静寂に響く。
「レーダー、映ってなかったっスね」
「スコークは?」
「とっくにはるか後方のはずですが・・・・・・あ、本機の真後方に移動してます」
「マジか、危ねえな・・・・・まあいい。ぶつからなかったから、次からはよく見張り頼むぞ」
「了解」
「・・・・・・やっぱ近距離では失探しやすいみたいだな、この新型レーダー」
「ナビゲーター了解、気を付けます」
落ち着きを取り戻し始めた機内の、どこか事態の割にのんびりとしたやりとりに副司令が怒りを爆発させる。
「お前ら、あっちの機上には司令官が座上されているんだぞ!」
「よろしいではありませんか。結局、接触しなかったんですから」
「そういう問題ではない!お前たちなあ・・・・・・!」
そのとき、計器類をリチェックしていたフォード中尉が座席の座り心地と見比べながら口を開いた。
「あ、機長、もしかしてラダー踏んでます?」
「あー、すまん悪いクセなんだ」
さっ、とリフエ少佐がラダーペダルを中立位置に戻す。
「頼みますよ、機首方位と進行方向に差異が出続けているとプロセッサはエラー出やすいんですから」
副司令官の表情が怒りから焦りに変わる。
「お前ら、まさか・・・・・・!」
「さて、向こうでも同じ不具合が起きて無ければいいですが」
副司令官の血相が変わる。
「どうかしました?」
コクピットで正面を向いたまま、副司令にリフエ少佐が質問する。「司令官に状況が露見した」。大方頭の中はそれで一杯になったんだろうとリフエ少佐は睨む。
「パイロット、ナビゲーター、本隊との衛星通信復帰しました」
ナビゲーター席の脇に設置されている衛星通信機が相互通信可能状態を指す、緑の灯火を光らせる。
「よし、ナビゲーター、「以後本機引き続き予定通り飛行、到着予定変更なし。以後ヒルボウルとコンタクト」で通信文打ってくれ」
「ナビゲーター、了解」
何かを言おうとして何も言えない状態になっている副司令と副官に、エドワード2等兵曹は通信装置のキーボードを叩きながら質問する。
「結論ぶつからなかったんですよ。結論が一緒なら、過程は些細な問題に過ぎないでしょう?副官殿?」
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