第10話

恒星暦158年12月15日 ヒルボウル宇宙基地エプロン地区


<<Hillbaul Ground, Rapier18 proceed to Stearmount(ヒルボウルGND、こちらはレイピア18、飛行要求、ステアーマウント)>>

<<Rapier18,Hillbaul Ground roger,standby for clearance(ヒルボウルGND了解、許可発出まで待機せよ)>>


「ルート承認要求、エンジン起動手順に移行します」

「はい、了解」

「イグニッションスイッチ、ノーマル」

オーバーヘッドパネルをチェックリストに従い操作する。

「燃料ポンプスイッチ、プライム」

「セット」

「スターター、エンゲージ」

「ラジャー、No.1エンジン始動、コンタクト」

「スターター回転数増加、油圧上昇中、排気温度正常・・・・・・スターターディスエンゲージ、ノーマルスタート」

目まぐるしくエンジン計器の各パラメーターが上昇するのに合わせて、燃料圧力コーションやエンジン停止状態を指すライトが次々と消灯していく。

「計器安定」

「ラジャー、No.2エンジン始動」

同じ手順を繰り返し、何事も問題なくエンジンが起動した。

あと数分後にはタキシングが開始できる状態になったところで、グランドから呼び出しを受ける。

<<Rapier18,Hillbaul Ground,clearance ready to copy?(レイピア18、こちらヒルボウルGND、クリアランス送る、よろしいか)>>

<<Rapier18,go ahead(レイピア18、送れ)>>

<<Rapier18,cleared to Stearmount HillbaulTwoDeparture,Obile Transition,maintain airway route,sqawk5231(レイピア18、ステアーマウントまで飛行許可、ヒルボウル・ツー・デパーチャー、オービル・トランジション、以後航路帯を維持して飛行計画通りのルートで飛行、スコーク5231)>>

手元のフライトプランの写しと見比べ、承認されたルートと齟齬がないことを確認したエリーはそっくりそのまま復唱する。

<<Hillbaul Ground roger,Readback is collect(ヒルボウルGND了解、復唱内容間違いなし)>>

「ルート承認降りました、プリタクシーチェック」

クリアランスが降り、地上滑走準備を始めてしばらく経った辺りでエプロン地区に司令が現れる。


「司令官、間も無く機内に入られます」

「了解、インサイト。ナビゲーター、キャビンドア開け」

「了解、キャビンドア開け」

ナビゲーターのジャクソン3等兵曹が指示に従いキャビンドアを開放する。

エスコートに連れられた司令が、キャビンドア脇まで来たところで、ジャクソン3等兵曹のエスコートに切り替わる。

「司令、着座されました」

キャビンからの報告を受け、飛行隊長がキャビンドア閉鎖指示を出す。

「司令、おはようございます。機長の飛行隊長バーバス中佐です。ステアーマウント航空基地までは概ね7時間程度で到着予定です。飛行経路上、顕著な航行警報等はなく、飛行に問題はありません」

「うん、よろしく頼むよ」


コクピットでの手順が進む傍らで、飛行隊長がエリーに質問を飛ばす。

「コパイロット、先般の事故を受けて発出された飛行中のプロセッサ不良時の対策は?」

「「目視見張りを厳として、レーダーでの見張りも実施しつつ、可能な限り早急にシステムを再立上げせよ」ですね」

エリーが答える。儀礼的なものに過ぎないが、部隊としてのポーズを見せる形になる。

「その通り。では、タクシークリアランス受領」

「ラジャー」

<<Hillbaul Ground, Rapier18 Request taxi(ヒルボウルGND、レイピア18、タキシング要求)>>

<<Rapier18,Runway24,taxi to holding point via D3 taxiway(レイピア18、滑走路24番、デルタ3誘導路経由、待機地点までタキシングせよ)>>

「地上滑走クリアランス受領」

「ラジャー、タクシー開始」

地上滑走を開始し、ブレーキチェック、ターンチェックを挟み、ランナップエリアに向かう。

「次回D3タクシーウェイ、手前から2本目を右旋回しランナップエリアへ」

「ラジャー、標識確認、D3」

<<Rapier18,contact Tower when ready(レイピア18、準備出来次第TWRコンタクトせよ)>>

<<Rapier18 roger,contact Tower when ready(レイピア18了解、準備出来次第コンタクト)>>

エリーの通信の傍らで、各種エンジンチェックが進む。

ひとしきりチェックし、最後の項目、フレームアウトチェックが終了した。


「チェックコンプリート、いずれも作動ノーマル、タワーコンタクト」

「ラジャー」

<<Hillbaul Tower, Rapier18,ready(ヒルボウルTWR、レイピア18出発準備よし)>>

<<Rapier18 wind230 at 12kt,runway24,cleared for takeoff(レイピア18、風230度から12ノット、滑走路24番、離陸許可)>>

「RWY24離陸許可発出」

「ラジャー、滑走路進入」

「テイクオフ・チェック、コンプリート」

「ラジャー、司令、機長です。間も無く本機は離陸いたします。遅れ進みなし、定刻通りです」

司令からは了解の他、特に応答はない。


「パワーハーフ、ブレーキ・リリース」

飛行隊長の合図と共にブレーキが解放され、急加速し前進する。加速度の増加に合わせて身体がシートに沈み込む。

「エンジンノーマル、フルパワー」

出力が最大まで使用され、更に加速に拍車がかかる。

「V1、ローテート」

主脚が滑走路を離れ、機体が浮揚し始める。

「V2」

計器類は異常なく離陸が出来たことを示している。

「アフターテイクオフチェック」

PA-50は離陸時の勢いそのままに、高レートの上昇率をマークしながら、高高度を目指す。

空気密度が下がり、エンジン燃焼効率が上昇すると、より加速度は増し、そのまま惑星内旅客機の航空路帯を通り抜ける。

「間も無く大気圏離脱」

空の色が徐々に深い青から黒に変わる。

「大気圏離脱後は引き続き航路帯に向けて飛行、コースバー、マーカーセット」

「ラジャー、リチェックノーマル」

変わらない上昇率で大気圏を離脱する。


<<Rapier18,contact Obile Control(レイピア18、オービル・コントロールに入系せよ)>>

航路帯管制コントロールへの入系指示に従い、エリーがコンタクトを取る。

後はコントロールがモニターしてくれるはずだ。

「航路帯に入りました。巡航状態」

安定状態に入り、緊張が解ける。ここまで来れば後は航法システムに任せて半自動で目的地まで辿り着けるのだ。

「機長ーいや、隊長、司令です」

「はい飛行隊長です」

「先日の会議、私もメディア対応があったので、中々オンライン参加できなくて申し訳なかった。副司令任せにしてしまったところがあるが、議事録を読ませてもらったよ」

待ちかねていた話題である。

「先日の会議は「部隊葬の都合で止む無く中座した」とか」

「ええ、「こちらの都合で」中座いたしました」

司令にこの言葉の意味は伝わっているだろうか。飛行隊長が反応を伺う一方で、司令は話を続ける。

「どうかな、会議自体は有意義なものだったかな。当事者不在だったが、会議の結論は納得のいくものだったかな」

まだ、時期的にも質問内容が不適切なのは承知しているが、現場からの反応を知りたくてね、と司令。

「まだなんとも言えませんが、事故の調査結果が出ないことには私個人は納得も不満もお答えできませんよ」

やはりか。答える傍らで飛行隊長は考える。睨んだ通り、副司令は司令の耳に不都合な出来事は何一つ報告していないらしい。


そのとき、機上レーダーが新たなトラックを探知した。

「レーダー・コンタクト、本機の1時方向。スコークチェック・・・・・・レイピア23号機のようです」

隊長とエリーが目配せをする。さて、司令には申し訳ないがほんの少し、副司令にはたっぷりと怖い思いをしてもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る