最終話 ペットショップ 

 「いらっしゃいませ。あぁ、また来たの? 久しぶりね。……あの明日で最後よ。ゆっくり見ていってね」


 彼女は、笑顔でそう言った。淋しげな笑顔で。


「あの……ミヤさん」


「なに?」


「抱いていいかな」


「えっ?」


「猫。……抱かせて」


「あ……うん。いいよ。最後だしね」


 僕は彼女に檻を開けてもらい、猫を手渡された。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 僕は、成長した猫を抱えた。最初に見たときは本当に小さかったのに。

 猫は緊張してるのか、体を強張らせている。警戒されてるのかな? 初めてランチ誘ったときの彼女みたいだ。


 僕は、そんな彼女を好きになったんだ。


「かわいいね」


「……そうよ。かわいいのよ」


「あのさ…………この、僕が飼ってもいいかな」


「えっ?]


「このの飼い主になりたい」


「…………本当に? 買ってくれるの。……うそ……」


 彼女は立ちすくんだまま、ポロポロと涙を零した。


「ごめん、遅くなって。金策と親の説得に時間がかかって……。君と別れた後、売れ残った動物がどうなるか調べたんだ。……ネットの情報が正しいかどうかなんて分からない。鵜呑みにする気もない。…………でも…………。この君に似てるから。……愛想がないところも、本当は寂しがりやなところも。……君を見捨てられないようにこのも見捨てられなかった。……ミヤ、君が好きだよ。どんな困難があっても僕は君を見捨てられない……。よかったら、一緒にこの育ててくれないかな」


 彼女はポロポロと涙を零しながら、僕に抱きついてきた。驚いた僕は猫を手放してしまった。たまたまいた店長が猫を捕まえ、


「猫は売約済みにしておく。お前らもう帰れ。仕事の邪魔だ」


と、僕達を追い出した。店長なりの優しさだったんだろう。



 僕は彼女に言った。


「君が猫でも、何も持ってなくとも、僕は君の側にいるよ。だから、僕のこと名前で呼んでくれないかな」


彼女は頷いて、


「名前? うん。……あれ、なんか照れるね。……うん。……ジュウト。……ジュウト。……好きです。」


「僕もだよ、ミヤ」


 照れながら僕の名前を呼ぶミヤが愛おしすぎてたまらない。僕は思わずミヤを抱きしめた。


 きれいな夕焼け空の下で、「君を守るよ」と、僕はミヤにもう一度誓った。


            (完)


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