第7話 喫茶店①

 「ナポリタンとオムライス。ホットミルクはすぐに。珈琲は食後ですね。かしこまりました」


 街外れの小さな喫茶店。オシャレなカフェが嫌いな彼女に合う店を探すのは大変だった。ホットミルクがおいしいオシャレでない店。


「ありがとう」


「ん?」


「ホットミルク。先に頼んでくれて」


「ああ。冷ますまで時間がかかるから。ゆっくり待てばいいよ」


「優しいのね」


「そう? 温くなったホットミルクが好きなんだよね」


「うん。……まーくんに初めて貰ったのが、ホットミルクとツナ缶だったの。猫にツナ缶よ。油ぎったツナ缶。お腹壊したわ。……でもホットミルクは……。おいしかったの。優しさに溢れていたの。少し熱かったけど」


 彼女が猫だった時の思い出を話し始めた。すらすらと紡がれる言葉は、嘘を付いているとは思えない。本当に猫だったの? そうだとしたら、どれほど辛い思いをしたんだろう。


 静かに流れる時間。柔らかな哀しみを含んた空気の中で、黙々と食事をする。静かに静かに、サティのピアノが流れている。


「おいしいね」

「そうだね」


 僕を見て微笑む彼女。消えてしまいそうな儚さに、僕は口をつむぐ。


 食事も終わり、コーヒーが来た。彼女のホットミルクも程よく冷めた。コーヒーを一口すすって、僕は言った。


「ミヤさん」


「なに?」


「好きです。正式に、僕と付き合って下さい」


 彼女は大きく息をはいた。大きな目でじっと僕を見つめる。にっこりと笑って、彼女は言った。


「好きだよ。大好き。……でもね、付き合わない方がいいの。私、普通じゃないから」


「普通じゃないのは知ってるよ! そんなミヤさんが好きなんだよ」


「あのね……聞いてくれる? 少しだけ黙って」


「……分かった。聞くよ」


 そうして、彼女のモノローグが始まった。

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