第3話 ファミレス①
水曜日。駅で待ち合わせ。僕は彼女を待たせないように、30分早く着くよう家を出た。駅の待合室に着くと、半袖の白いブラウスに小さな花柄のロングスカートを履いた彼女が僕を待っていた。いつもは長袖にジーンズ、店のエプロン姿のボーイッシュな彼女が、女の子らしい格好をしている。束ねてる髪もほどいて。
「待たせた? ごめん、遅くなって」
「大丈夫。遅くないわよ。まだ30分も前じゃない」
「こんなに早く来てくれると思わなかったから」
「……別に……やることなかったから。たまたまよ」
照れてるの? もしかして?
「ほら、こういう時普通の女の子ならオシャレして遅れて来るもんじゃない。早く来たのは気のない証拠よ」
いつもよりカワイイ姿の彼女がそう言った。
「香水とか好き? 残念でした。キツイ匂いは動物たち嫌がるから。そんなオシャレはする気がないの。メイクだって最低限よ」
なんでわざわざ駄目なとこあげつらうかな。
「香水とか別にいいよ。ミヤさんはどっちかって言うと、お日様の匂いがしてるよ。僕はそっちの方が好きだな」
「なっ!!!」
彼女は後ろを向いて悶えている。可愛い。可愛い過ぎて倒れそう。
「じゃ、じゃあ行くよ。ご飯食べたら帰るからね」
「はいはい。どこか行きたいお店ある?」
考えてあるオシャレなカフェはあるけど、一応彼女に聞いてみた。
「そこのファミレスがいい」
ファミレス? デートでファミレス? ファミレスでいいの?
「せっかくのデートなんだから、もっとオシャレなお店に行かない?」
「いいの。オシャレなお店は苦手。長居できないし。……大体デートじゃないし。……今日は私の話を聞きたいんでしょ。だったらファミレスが一番。気兼ねしないしね。ホットミルクがないのが難点だけど」
彼女にとっては、デートじゃないのか。まあでも、彼女なりのオシャレをしてくれたり、待ち合わせに早く来てくれたり、僕にとっては嬉しいことばかりしてくれている。
僕達は青空の下、ファミレスに向かって仲良く歩いた。
◇
彼女はサンドイッチ。僕はピザとポテトを頼んだ。ポテトはシェアしよう。
「飲み物何がいい? 取ってくるよ」
「ありがとう。じゃあオレンジジュース。氷抜きで」
コーヒーと氷抜きのオレンジジュースを取りに行き、ストローと一緒に彼女に渡した。
「ありがとう。優しいのね」
そんな些細な言葉でも、僕にとっては極上の褒め言葉だ。料理が来るまで他愛のないおしゃべりをしていた。
「ピザ、一切れ貰っていい? サンドイッチあげるから」
「いいよ。どうぞ」
「ありがとう。じゃあこれ、どうぞ。……なんだか彼氏彼女みたいだね。デートしてるみたい」
もうこの娘は。無自覚? わざと? 弄ばれてるの? なにこれ? 可愛すぎ! ドキドキが止まらなくなる。
「もっと食べる?」
「ううん、もういい」
彼女も恥ずかしかったのか、無言でサンドイッチを食べ始めた。無言で食べ続ける二人の時間。
―― 気まずい。――
「……ジュースおかわりする?」
「ありがとう。お願いね」
彼女から離れ、ドリンクバーの前で一人深呼吸をする。落ち着け、僕の心臓。子供たちが後ろに並んだ。僕は子供たちに順番を譲って、ゆっくりと席に戻る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます