第21話 明け方――side玲奈


 バイト先のバーにて太一は飲みまくった。


 最初から酔っていたぽいから、どんどんお酒がすすんでいる。さっきも他の客と一緒にテキーラをショットで飲んだばかりだ。


 もっと静かに飲めないかなぁ。


 私はグラスを拭きながら苦笑した。でも本来お酒の場はこんなものでいいと思っている自分もいる。現に隣の常連さんも今日は楽しそうだし。


「玲奈次はウイスキー。アルコール、氷ましましで」


「ちょっとウチはラーメン屋じゃないよ」


「玲奈ちゃん、堅いこと言わずに……」


 常連さんから嗜められた。


 結局、閉店間際まで太一は飲んでおり、ほとんど泥酔状態だった。


「玲奈ちゃん、この人駅まで送ってやんな」  


 常連さんからのパスが出された。バッグを取り返してくれた恩人だし、送っていくくらいしたいので頷いた。


「起きなよ」


 揺すられた太一は間の抜けた表情で起き上がると、トボトボ歩いて行った。本能が駅にむかっているのか。この時間は始発が出る時間だから、それに乗って帰れるだろう。


 酔いが回って千鳥足になっている。


 私は心配だから横で付き添うことにした。


「もうっ。奢りって言ってもこんなになるまで飲まなくたっていいでしょ」


「まだいけるぞぉぉぉ」


「今日もあるでしょ?」


 黙ってこくり頷いた。太一はうつむきながら気力で歩いている感じに見えた。


「玲奈は頑張ってるな」


「突然どうしたの?」


「バッグ取り返したとき見えた……鉛筆のあと」


 頬が熱を帯びるのがわかった。


 見られた? 台本を?


 私は台本にびっしり鉛筆で書き込みを入れていた。抑揚や原作での背景などあらゆる限りの情報を書き込んだ。たまに声優さんで真っ白な台本の人がいるけれど、私はそこまで器用じゃない。受かるためならなにかしておきたかった。それが気休めでも……。


「私……声の仕事がしたい。そのために頑張ることしかできない」


「いいな。夢があって……」


「地元の友達や親には笑われたけどね」


「それは……気の毒だ」


「知ってる? ある人から聞いたんだけど、人間四種類にわかれていてね。何かに挑戦して成功した人。そして、失敗した人。なにもしなかった人。なにもせず批判ばかりしている人。私はなにもしない選択だけはしたくなかった」


「玲奈は成功する。してほしい。俺なんでもするから」


 太一は私の夢にも笑わずに向き合ってくれた。さっき会ったばかりの彼のことが少しだけ気になってしまった。


「じゃあ甘えようかなぁ」


「どんとこい。泥舟に乗ったつもりで」


「まさかの共倒れ。ホントに何でもいいの?」


「ああ、なんでもいい。なんとかなるだろ」


 酔ってるところに漬け込むのは悪い気がしたけれど、今の私の現状はそんなこと言っていられなかった。ここは甘えるしかない。


「じゃぁ一緒に住まない?」

 

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朝目覚めたら、隣で美少女が寝てた件 えびちゃ。 @hatiware0104

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