第16話 告白
「わたしはね、多くは望まないんだよ」
なっちゃん先輩が吐き出すように言った。
展示会の見終えて、ロビーの椅子に腰掛けながら二人で自販機で飲み物を買った。
俺はコーラで、なっちゃん先輩は似合わないブラックコーヒー。飲んでるところ初めてみたなぁ。
「わたしは普通に食べていけて、普通に結婚して普通に死ねればそれでいいんだよ、意外だったかい、少年よ」
なっちゃん先輩は少しトーンを上げながら言ったのち、ぐっと缶コーヒーを飲んだ。
「リアリストなんですね、先輩」
「あはは、二次元には理想を求めるけど、三次元には現実しか求めないよ。ほら、牛の乳袋なした女の子なんて所詮二次元の中だけじゃない? 実際リアルに見たら反応に困るし」
「パブリックスペースで乳袋言うなや」
「絵を描いてたときは楽しいよ。どんどん上達していくのが自分でも分かるし……エッチで可愛い女の子を錬成できるし」
もうツッコまないぞ。
なっちゃん先輩は俺の心の声など知る由もなく話し続ける。
「でも仕事にはできない。だって一回も賞すら取れたことないから……太一君は一回でもプロとして活動できている分だけまだマシなほうなんだよ」
確かに俺のように創作を初めてからすぐにデビューできるのはよっぽど運が良くないと無理だ。
「俺は確かに恵まれてるのかもしれないな」
「でも太一君は私と違って実力あると思うよ。もう一度書かないの?」
なっちゃん先輩への返答に迷った。あれから、別に書くことが怖くなったとかそういうのはない。特にきっかけもないまま、気がつけば大学二年生。
俺は叶わない夢を見るのをやめたんだ。
一瞬、玲奈の顔が頭をよぎったが振りほどくように頭を振った。
「……俺は止めたんだ」
気がつくと手をぎゅっと握りしめていた。肩にも力が入っている。らしくないじゃないか。
俺はカラカラになった喉を潤すべくコーラーを流し込んだ。
「だよね。太一君ならそういうと思った。ねぇこの間カフェで言ったこと覚えてる?」
なっちゃん先輩が覗き込むように俺の顔色を伺った。冗談だと思っていたそれは本気だった。
えっなんて言った? とラノベの主人公のようにかわすことはできるが、それはしたくなかった。
「覚えてますよ」
「私達やっぱ似てると思わない? 同じクリエイターを目指してた者どうし。彼女の乳袋が大きくないと嫌とかあった?」
「おいっ最後」
「そっか太一君、お尻のほうが好きなのか」
「勝手に俺のフェチズム探索やめましょ?」
「私なら期待に答えられるかもよ」
なっちゃん先輩は流し目でちらっとコチラを見ると微笑んだ。
「あれ? 変な方向話がいってません?」
「私はハムストリングスが好き」
「ここにきてフェチ暴露。そして範囲が狭すぎる」
俺は頭をガシガシとかいた。この人も玲奈と似てあまり真面目な話を好まないタイプだ。なにせ今まで一年ほど付き合って内容のない会話を繰り広げていたからな。
「ホントに俺でいいんですか?」
「うん。君がいいんだよ」
「少し時間をください」
「もちろんすぐに決めてとは言わないよ」
こうして俺は人生初の彼女ができるチャンスを得てしまった。
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