第17話 インザラブホ



 俺たちは気づけばラブホにいた。


 なんでやぁぁぁ。


 部屋の中央には大きめのダブルベッド。


 照明灯も薄暗く、なんか雰囲気がでている。おまけに前の客が吸ったのかタバコの臭いが充満してて妙に生々しさが感じられた。


 おい……。

 

 俺は隣の玲奈をじっと見つめる。


「しょうがないでしょ? 原作にもあったんだから」


 玲奈はあっけらかんとした態度で言った。


 なぜ真っ昼間から玲奈と二人でラブホの中かというと――


 玲奈は今回もオーディションを受けるため、事前にテープ審査があるとのこと。その審査をするため、事前に原作を読み返してイメージを固めていくらしい。


 そのプロ意識は大したもんだが……。


 その原作『佐藤君の恋人計画』に問題があった。


 主人公佐藤君がとある事情からヒロインと偽の恋人関係になるというベタな設定だが、佐藤君はヒロインのことが好きで偽の恋人から本物の恋人になれるようにアプローチしていくというラブコメだ。


 原作を読み終えた玲奈から佐藤君とヒロインがラブホで一夜を過ごすシーンのイメージがつかめないということで、連れてこられた。


「なにこれ?」


 玲奈が枕元にあるモノをひょいと引っ張り出すと――


「ちょっ。それッ――――」


 俺の静止など間に合わず、コンドームがこんにちはしていた。


「あっやっぱりあった。ないとどうしようかと思った」


 玲奈は興味津々にコンドームの包装をわさわさと触った。


 コンドームないとって……おい、まさかな。


 だが、俺の予想は早くも杞憂に終わった。


「原作でヒロインが間違ってコンドーム開けちゃうシーンあるから後で再現したくてね。普通に包装をむけばいいんだよね?」


「あっ。そうだが……」


 ほぼ童貞の俺に聞かないで欲しい。経験なんて一人しかないのだから。


「じゃあ、部屋に入るシーンから読むから。太一本貸して」


 俺はリュックからラノベを取り出すと、目的のシーンのページを開いて玲奈に渡す。


 そのまま玲奈が音読を始めた。


『ここってそういうところだよね……』


 玲奈が横目で俺を促す。おそらく主人公のところを読んでほしいということだが、本は一冊しかないのに無理言うなや。


 玲奈の持っている本を覗き見ると、続きの部分を読む。


『ああ、そういうことろだよな』


 棒読み。さすがにうまくいかない。それを玲奈もわかってたのか特に指摘はない。


「うーん。この部分ってどういう気持ちなんだろうね。やっぱ緊張してんのかな?」


「二人で遠出をした帰りに終電を逃して仕方なく入ったのがラブホだろ。普通男女出入るっていったらそうなるよね」


「まぁエッチしかないよね」


「……」


 なんで言っちゃうかな。俺気をつかって言わないようにしてたのに。


「じゃあ次、気まずくなる二人。ごまかすようにテレビをつけるとそこにはアダルトビデオが映ったシーン」


 ベタなシーン。まぁラブコメあるあるだよな。


 玲奈はテレビつけるが、なかなかチャンネル操作に手間取っている。


「なんでないの。アダルトビデオッ」


「ラブホで積極的にAV探すヒロイン嫌だわ」


「仕事のためだから仕方ない。普段エッチなのみないから」


 玲奈はカチカチと何度もチャネルを操作しては煩わしそうな顔をする。


「太一も探してよ」


「面倒くさいな……」


「じゃぁ、家から太一のコレクション持ってくる?」


 さっとリモコンを、奪い取るとアダルトビデオを探し始める。


 こいつ……同人誌のみならず、俺のもう一つのグッズの在り処も知ってるだとっ。


 ようやくアダルトビデオを見つけると、原作に合わせてシーンの再現を行った。


 玲奈も満足したようだ。原作のほうはラブホでのシーンだけでなく、公園やカフェなどいろいろな場所でのシーンがあるため早く回らないと日が暮れてしまう。


 というより、ラブホにこれ以上いると変な気を起こしそうで早く出たいんだが。


 普段同じ空間で生活する分には問題ないのだが、ラブホにいるとそういった空気に当てられてしまうのだ。実際、一回ヤッてるしな。


 玲奈はそういう気にならないのか?


 当の本人は本に目を落としたまま何やら考え込んでいる。


 そして、玲奈はぱっと顔を上げると言った。


「じゃあ、次はベッドシーンね」 


 なんですとっ……。

 



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