第18話 実践ですか
布切れがこすれる音。
きしむベッド。
俺たちはベッドの上にいた。
原作通り、お風呂に入った二人が背中合わせに寝ることろだ。
俺たちはホントにお風呂に入り、白いガウンに着替えている。あれだな。洗面台から浴室はガラス張りになっていて透けるんだな。
掟その四により、エッチいの禁止。一緒にお風呂に入るという展開はなく、交互に入るとそのままベッドインだ。もちろん、着替えを覗くといったベタな展開もない。
ガウンごしにかすかな体温が伝わってくる。
普段部屋で布団を並べている時と一緒だ。ただ境界がないだけだ。
俺は心に言い聞かせた。
玲奈からはいつもと違ったフローラルなシャンプーの匂いがした。こっそり振り返ると、髪もしっとりと濡れている。
こいつ……気分を上げるために、わざと髪の毛洗いやがったな。
『ねぇ、こっちきてよ』
声のほうを向くと、玲奈はくしゃっと笑ってみせた。
『こういうことするのはじめて?』
玲奈が俺に覆いかぶさると、そのまま馬乗りになる。
いろいろあたってる気がするのだが。
玲奈の白いガウンは肩のあたりで少しはだけており、ちらりと胸の谷間がみえる。
そのまま―――
玲奈の唇が近づいてくる。
二人の息遣いさえも聞こえてくる距離。
俺の鼓動はどっと高まった。
いや、それはまずいだろ。
互いの唇は触れ合うことなく、玲奈の頭はそのまま俺の胸へと沈んだ。
すやー。すやー。
残ったその場には寝息だけが聞こえる。
「―――――はい。カット」
ガバッと顔を上げて起き上がる玲奈。先ほどの妖艶な雰囲気とは似ても似つかぬ様子。
それもそのはず、さっきのは『ヒロインが寝る前に飲んだものにアルコールが入っていて、泥酔。そのまま主人公佐藤君を襲う寸前で寝てしまう』シーンだ。
ヒロイン酔ったらキャラ変わる属性もあるのか……。
「今のいい感じだった? エッチだった?」
「ああ……」
答えに迷ってしまった。いや、良かったと思いますよ……。どこがとはいわんが。そしてそろそろ馬乗りを解除しないとやばい。健康男児ならわかってくれるよね?
そんな俺の気持ちなど知らず、玲奈は馬乗り状態でウンウンと唸りながら、体を揺らしていた。
「もうちょい、酔ったヒロインはエッチだと思うんだよね。一応、このシーンもテープ録音のセリフあるからもうちょい確認したい」
「勘弁してくれよ……」
やっとのことで馬乗りシーンを終えると、玲奈は着崩れたガウンを整えた。
「他にもシーンあるのか?」
「いや、ラブホのシーンはこれで終わりだけど、休憩3時間も取ったからもったいない気がして」
まぁそうなんだが。さすがの玲奈も原作通りにお泊りにはしなかった。お泊りになると金額上がるし、それに家で寝るかラブホで寝るかの違いしか正直ない。
はよ帰りたい俺とは真逆にあちらこちらを物色し始める玲奈。
「興味持ちすぎだろ」
「だって初めてきたんだし。ちょっとはね」
「へー経験豊富って言ってたからラブホくらい行ったことあるのかと思ったわ」
「………えっ。そうそう。私家派だから」
物色する手を止めて答えた。
家派、ホテル派あるのか。俺にはわからん。にしても、なんで今少し間があったんだ?
「いいのあった、これ見て」
玲奈が持ってきたのはカタログみたいな冊子だ。ご丁寧にラミネートまでされている。
そこには『コスプレのご案内』と書かれており、いろんな種類の衣装が写真つきで並んでいる。
「ここまできたら、やるでしょ。コスプレ」
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