第14話 感想会
「よかった。これは神映画だった」
映画鑑賞後、俺たちは近くのパスタ屋にきていた。いわゆる感想を言いあう時間というわけだ。今まで一人で映画館に来ていた俺にとって、語り合う相手がいるということは素直に嬉しい。蜜柑と同じように俺も俺で野上とか大学の友達にいってもこの趣味は理解してもらえない。
「やっぱあの終盤のリサの演技すごかったよね。あの泣き声は鳥肌ものだった」
さすが声優志望だけあって視点がやっぱり演者の視点だ。落ち恋のメインヒロインを演じる声優のリサはちょっと前から出てきた期待の新人ってところだ。落ち恋の他にもいろんな作品に出演しているため、俺も知っている。
たしかに、玲奈のいうとおり今回の映画でリサの号泣する演技は真に迫るものがあった。映画の出来を左右するほどに。
「私もあれくらいできたらな」
ポツリと呟く玲奈。
声優のリサはたしか20歳前後だったはず。
と考えると玲奈と年とも近い。同世代が活躍していることを羨む気持ちがやはりあるのか、そんな玲奈の声色だった。
「今までなにか出演したことあるのか?」
「んー、ホントにちょい役だけどね。名前もつかないくらい」
「村人Aとかか?」
「まぁそんな感じ。声の仕事で稼いだことなんてほとんどないかな」
そう言うと、玲奈はパスタを口の中へ運んだ。
「うまいっ。太一の料理に負けないくらい」
「そりゃ、どうも」
自分の料理を褒められて悪い気はしない。ここ最近の俺と玲奈の食事当番は単純明快。
――家に帰るのが早いほうが作るだ。
そのほうが互いに効率的だ。互いに帰ってくる時間が割と近いこともあって、どちらか一方が連日作り続けないというのもうまくいってるのだろう。
しかも、二人とも料理がある程度できる。
ほら、よくラブコメでみるだろ? どちらが料理ができなくてダークマターを錬成するとか、二人で教えながらクッキングするとか……。
そう言ったのが悲しいかな一切ない。
まぁ、俺は端から同居ラブコメ展開とか期待してないんだがな。
フフフ……
「なにニヤついてるの?」
「ニヤついてたか?」
「そりゃ、キモチ悪いくらいには」
「さいですか……」
玲奈は俺に対して遠慮しない。思ったことは口に出す。おそらく同居するからというより元からの性格の部分が大きいと思うが……。
ホントに俺とヤッたのか? だとしたら、もうちょいドギマギしてもいいと思うんだが。
俺の方が緊張しそうだ。改めて向かい合ってしゃべることなんかない。だって同居してからほぼ毎日いるのだから……。
「もう俺の家での生活は慣れたか?」
「突然なに? おかげさまで慣れた。事務所も割と通いやすいし」
「そりゃ、よかった。なんか生活に必要なことがあったらなんでも言ってくれ」
「じゃあ、少し手伝ってもらおうかな。声優の仕事」
「おい。俺はそんなの素人だからできないぞ」
「今なんでも言うこときくって言ったよね、ゴクリ」
「それ、男が女に言うセリフだからな」
「じゃあ、行こうか」
玲奈はすでに食べ終えていた。対して俺はまだパスタを、半分食べ終えたところだ。
おい、遅いと言う目でこっちを見るな。普通食べさせ合いとかそういった甘々なイベントはないらしい。
ご飯を食べたあと、玲奈に連れられて本屋に行った。声優の仕事を手伝うのと今いる本屋があまりマッチしておらず、首をかしげそうになったが、玲奈も察したようで、
「次オーディションを受けるために、原作を買わないとね。太一の部屋にはなさそうだったし」
そう言うと、棚から一冊のラノベを手に取った。
表紙には『佐藤君の恋人計画』と書かれていた。
またラブコメですか?
名前だけは聞いたことあるが……。
「今度の週末までに発売されている5巻までを読んでね」
どうやら強制らしい。ラノベを読むだけなら構わないが、それが果たして声優の仕事を手伝うのとなんの関係があるのか。
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