第13話 映画館


 迎えたオーディション当日。


 玲奈が独り先に家を出て少し経ったのち、俺は会場近くのカフェへ入った。さすがにオーディションに男同伴で行く応募者はいない。それに玲奈は朝から緊張した面持ちでいたため、頑張れよとしか声がかけられなかった。


 玲奈がオーディションを受けている間、俺はというと……カフェで『落ち恋』の原作ラノベを飲み返していたことろだ。


 映画ではアニメ化されていない原作の続きをやるため、どのシーンを映像化するか楽しみながら読み返すというのも乙なもんだ。


 物語も終盤に近づいたころ、玲奈からメッセージが飛んできた。


『今オーディション終わった。どこいる?』


 素早く返事を返した数分後、玲奈がカフェに現れた。


 白いブラウスに落ち着いたグレーのスカートと余所行きの格好だ。もちろん、俺と映画を見に行くためでなく、オーディションのためだろう。


「ごめん。待った?」


「ああ、一時間ほどな」


「そこは待ってないよとかオシャレな言い回しで相手を気遣うでしょ」


「コーヒーのアイスが溶けないくらいかな」


「言い方が絶妙にダサいなぁ」


「うっせ。で……? どうだった?」


 一応オーディションの手応えを確認してみる。気分によっては映画とか見たくないかもしれないからな。


 だが、迷わずカフェにきた玲奈の顔を見る限りは――


 俺の疑問に答えるように玲奈は親指を突き出した。


「グッド。今回は自信あるんだよね」


 手応えはあるらしく、満面の笑みを浮かべた。そして、ここ数日の緊張感から開放されたのか椅子にだらりんと座り込んだ。


「映画いけそうか?」


「えっ。当たり前よ。そのために来たんだから。楽しみすぎて昨日寝れなかった」


「いや、寝ろよ。映画中に爆睡するヤツだろ」


「大丈夫。太一オススメのヒロインズたちがお風呂場でおっぱい比べするシーンまでは起きとくからさ」


「勝手に人のフェリバリットシーンを作るな。それに今回の映画にそんなシーンはない」


「入浴シーン好きじゃないの?」


 ぐぬぬ……。強く否定できない自分がいる。


「やっぱおっぱい好きなんじゃん」


「やめろ。やめろ。もうここにいれなくなる」


 玲奈の腕を引いてカフェを出ようとする。


「ヤダ〜強引」


 キャハハと笑っておどけてみせる玲奈だが、この調子なら映画も楽しめそうだ。



 映画館は休日ということもあって混み合ってた。というか、カップル多すぎっ。

 おそらく今上映中の恋愛映画のせいだろう。カップルで見ると最高に良いともっぱらも噂だだ。陽キャ向けだな。

 だが、他から見ると俺らもカップルに見えるわけで……。


 いかん、いかん。あまり意識するところじゃないぞ。


「映画どれにする?」


「寝れないレベルで楽しみにしてたのに他に選択肢あるのかよっ」


「冗談。落ち恋二人分ね」


 チケット売り場で財布を出す玲奈。


「オーディションお疲れで俺が奢る流れじゃないのかよ」


「いや、割り勘でしょ。今月お金ピンチだっただけで、昨日給料入ったから少し余裕あるよ。掟その一、お金は折半、でしょ?」


 たしかにそうなのだが……。俺が玲奈を元気づけるため、勝手なエゴで誘った手前引けないところもある。


「その折半するお金は二人の生活費に関わるものだけだろ? これは趣味。そう、娯楽だ」


 俺の主張に玲奈は顎に手を当て考える仕草をする。


「じゃあ、掟その三、トラブルはゲームで解決。手っ取り早く今回はジャンケンで勝敗を決めようか? 勝ったほうの言い分を通すということで」


「おっけい」


 玲奈の提案に俺も乗った。案外ジャンケンは折り合いをつけるには良い手段なのかもしれない。


 さて、玲奈はなにをだすか……。


「俺はパーを出す」


 玲奈に見えるように手のひらを広げてみせた。


「あはは、いいねぇ。心理戦。ねぇ、知ってた? パーを出しやすい人って欲求不満らしいよ。」


「か、関係ないだろう。――いくぞ」




 結果、割り勘になった。俺が意地でもパーを出すことを読んで玲奈はチョキを出したのだ。にししと笑いながら、自分の料金を玲奈は払った。大人しく負けとけば奢ってもらえるものを……。


 俺たちは俺の浮いたお金でポップコーンを買うと、自分たちの座席へと急いだ。




 

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