第6話 引っ越し
「もっと、きて」
「………」
「右……ああ、ちょっと左……太一うまいよぉ……」
きしむベッド。玲奈と俺は汗を流しながら二人で動いていた。
そう。玲奈の引っ越しだ。
現在、玲奈のベッドを家の中に入れているところ。
家に帰ると玲奈がナイスタイミングとばかりに出てきて、そのままレンタカーを借りると玲奈の家まで家財道具を取りにいった。
どうやら玲奈は俺が昨日合コンした並木女子大ではないらしい。思い返してみれば、女子大とは一言も言ってなかった。単なる俺の思い込みだったらしい。
じゃぁ、なんで俺は玲奈と出会ったかと言うと……酔いつぶれて寝ていたらしい。
我ながらアホだな。酒に飲まれてしまうとは……。
それにしても合コンから玲奈と出会うまでに一体なにがあったというのか。
おそらく俺と抜け出したという並木女子大の子が知ってると思うが、玲奈曰く俺を見つけたとき近くに女おろか誰もいなかったことからあまり参考にならないかもしれない。
「ちょっと休憩にしよっか」
ベッドを運び終えると玲奈が言った。あと運び込む玲奈の家財道具は細かいのがちらほらあるだけだ。そもそもミニマリストなのかあまり物を持っていなかった。
「部屋きれいになったでしょ。太一が大学に行ってる間にがんばったから」
たしかに、雑多な部屋が片付いている。もとから女っ気のない俺の部屋はある程度片付けないと共同生活できなさそうだ。
見ると、本棚のラノベも整理され……ちょっと待て! ラノベの奥に隠してあるエロ同人誌は?!
急いで確かめようとすると――
「ああ、そこにあったエッチな本はそこに置いておいたよ」
「おっふ」
同人誌はきれいに揃えられて四隅に寄せてあった。
しかも――
「律儀にあいうえお順に並べられているだと……」
「ジャンル別がよかった? あんまり詳しくないけど」
「やめてくれ。しかし……こういうの理解あるのか?」
「人の趣味はそれぞれじゃない?」
「……助かる」
「ああんっ……らめぇっ。お兄ちゃんッ。私壊れちゃうよぉぉぉぉ」
「がっつり読んでんじゃねぇか」
「ロリコン」
「ちげーし。たまたまそういうシーンが多かっただけだし」
「ああ、太一メンバー。お茶とって」
「おい。勝手に犯罪者にするな」
「太一がどんなアブノーマルな性癖持ってても、私だけは理解してあげられると思うから……」
「憐れむな……それにしても玲奈さっきの朗読やたらうまくないか?」
「ああ……まあそんなもんじゃない。もっと大きな声で読んでほしかった?」
「通報されるから。俺ら住めなくなるよ」
「それは困るッ」
玲奈はすぐさま言い返した。そして、わすがに視線を外すと、
「太一は私のこと聞かないんだね? なにも覚えてないんでしょ?」
玲奈についてはわからない点はたくさんある。
「まあ、気にならないと言えば嘘になる。言いたくなったら言えばいい。それだけだ」
「ありがと……もう少しだけ待ってね」
「ああ」
それから、滞りなく引っ越しは終わった。
一人分の家具しかない部屋だったが、急に賑やかになったような気がした。
「一応一通り片付いたかな」
玲奈は両手のひらについた埃を払う仕草をすると、だらんとその場に座り込んだ。
「お疲れ。玲奈の家のほうはどうするんだ?」
「ああ。そっちは平気、平気。家賃払えなくてほとんど追い出された感じだから」
「それで住む場所が必要というわけか」
「そういうこと。ちゃんと住むからには家賃も水道代、光熱費なんかも折半するから」
意外と現実的な問題だが、そこは甘える気はないらしい。全て相手に出してもらうのは簡単だけれど、それでは家での立場が対等ではなくなり、玲奈も居心地が悪くなる。家賃出してもらってるから〜なんて無意識のうちに遠慮してしまうのが普通だ。
俺もこの提案を受けるほうがよいだろう。
「無理しない程度に頼む」
「おっけい。じゃあ早速共同生活のルールを決めましょう」
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