第7話 同居のおきて
「同居のルール?」
「そう。同居のルール。掟といってもいいかな」
引っ越しの片付け後、玲奈はテーブルの上に一枚の紙をひろげた。そこにサインペンで
『同居のおきて』
とキュッキュッと音を鳴らしながら書き足した。
「私たちって生まれも育ちも違うじゃない?」
「……」
なにを当たり前のことを。
「えっ、もしかして太一と私は生き別れの兄妹だったりする?」
「そんなわけないだろ」
「だよね。お兄ちゃんが妹ものの同人誌持ってたら嫌だわ」
「それは忘れてくれ」
「それじゃあ、早速決めていこうよ、お兄ちゃん」
「……」
「あれ? お兄ちゃん。聞こえなかったかな? しょうがないなぁ〜」
部屋の隅に置かれている同人誌(妹から告白されたからイチャイチャしても問題ないよね☆)に手をのばそうとする玲奈。
俺は慌てて制した。
「すまん。朗読は勘弁」
「妹属性追加しようとおもったのに。けっこうキャラになりきれるよ? それともドチャシコメイドがよかった?」
おう。これはしっかり目を通してやがる。あの同人誌はあとで処分しなければ……あと、パソコンのデータも。
「普通にしてくれ」
「残念。せっかく楽しめたのに」
俺をイジるのに満足したのかからからと笑う玲奈。
「それで掟ってどういうのだ?」
「うーんとね。要はふたりとも今まで生きてきた環境も価値観も違うでしょ。だから、ルールである程度決めとくと揉めたとき楽でしょ?」
「そりゃそうだな。価値観の統一みたいなものか」
「そういうこと。難しく考えなくても共同生活上のルールみたいに思ってくれればいいよ」
一、お金は折半。
ニ、家事は仲良く分担。ご飯が不要なときはすぐ連絡を。
三、二人のトラブルはよく話し合いを。場合によってはゲームで解決。
四、エッチいの禁止。
※掟破りは罰金五千円也。
こんな感じの内容だった。書ききった玲奈は謎の満足感をだしているが。
「ざっくりしてんなぁ」
「あまりガチガチに縛ってもいいことないから」
「一から三まではわかるが、四のエッチいの禁止はどうなんだ……」
「ラッキースケベ防止令かな。私たち付き合ってるわけではないしね。それとも〜なに期待しゃった? メイド服買ってこようか?」
「まだそのくだり続いているのか。いいだろう。言っとくが誘惑するのも禁止だからな」
「誘惑って……こういうこと?」
玲奈はニヤつきながらシャツの胸元を引っ張った。その先には――
たわわに実ったおっぱい。
健康的な肌色のお椀に嫌でも目が吸い寄せられていく。
スゴクデカいヨ。
圧倒的な暴力を前に語彙力を失ってしまった。
「やっぱ期待してんじゃん。見過ぎだって」
「はああっ! そんなん見ちまうもんは仕方ないだろ」
玲奈はジト目でコッチを見ながら、
「エッチ」
とだけ言うと、壁に掟を貼り始めた。
そういう誘惑するなら容赦なく5000円取っていきますよ?
こうして共同生活のルールができたわけだが、実際年頃の男女がひとつ屋根の下で暮らすとなにか問題が起こるのが普通で、その都度対応していくのが良いと玲奈との話し合いでなった。
「じゃぁ今日は俺が晩ごはん作ろうか?」
「ごめん。今日は夜からバイト。ご飯いらないし。帰るの遅くなるから先に寝といて」
窓の外を見ると、もうすっかり日は落ちていた。玲奈は急いでバイトをするとそそくさと家から出ていこうとする。
「鍵はどうする?」
「合鍵あるから」
ポケットから合鍵をチラッとみせてきた。
「いったいいつの間に?」
玲奈はてへっと効果音がつきそうなほど舌を出しておどけてみせた。
いや、可愛くしてもダメです。こういう些細なところから共同生活のストレスは溜まっていくんだろうなぁ。
そんな心配などつゆ知らず、玲奈はそのままバイト先へとでかけていってしまった。
「スーパーで飯でも買ってくるかな」
玲奈の出た少しのち。
夕食の買い出しに外に出ようとしたとき、スマホが鳴りだした。
野上からだ。
スマホを耳へ持ってくると野上の甲高い声が聞こえてきた。
『太一、大変だ。大変だ。ハァハァ……落ち着いて、ハァハァ……よく聞けよ』
「いや、おまえが落ち着けよ。なんか用か?」
『並女の幹事と連絡取ったら、昨日おまえが連れ出したやつが太一を探してるってよ』
「えっ?」
『責任とらせるってカンカンに怒ってるらしいぞ』
俺またなにかヤッちゃいました?
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