第4話 先輩とカフェ
家にいるはずの玲奈の様子を見に行こうと、キャンパス内を移動中。
最悪のタイミングで会ってしまった。なっちゃん先輩に。
「へい、少年。お茶していかない?」
いつものように冗談めかした口調。背後から声をかけられても誰だかわかった。
「なっちゃん先輩ッ。どうしてこんなところにいるんです?」
「どうしてって、さっきまで講義だったから。午後から講義ないから帰るところ。へい、少年もしかしてサボりかい?」
「まぁそんなことろですかね」
「じゃぁカフェいちゃおうよ! YOU! 私バイト代出たからなんでもおごるよ?」
「ホントですか?」
「うん。マジマジ。パフェとパンケーキどっちがいい?」
「なんでもおごるとは一体……」
「今もう私甘味の口になってるから。なんでもいいよ、パフェかパンケーキがわたしはいいなぁ」
「誘導がわかりやすすぎる。でもおごるなんて……悪いですよ」
「ナンパ失敗しちゃった。ああ太一君つれないんだぁ」
足で地面に丸の字の書いて落ち込んでいるような仕草をみせるなっちゃん先輩。少しあざとさもあるのだが、この人場合そんなことも気にならないくらい可愛さが勝ってしまうのだ。
「わかりました。行きましょう」
「ホントに? やったー」
満面の笑みを浮かべるなっちゃん先輩。
ホントこの人のこういうところが数々の男たちを勘違いさせるんだよなぁ。
玲奈のことは気になるけど、なっちゃん先輩の誘惑には勝てなかった。玲奈は部屋に残っていれば事情聞けばいいことだし、いなければもう帰ったということで案外あっさりと関わりはなくなりそうだ。
カフェは平日にも関わらず混んでいた。大学から徒歩ですぐのところに位置しており、客の大半が学生だ。
「は〜やっぱここの特大パフェはすごいよね〜」
なっちゃん先輩はパフェ運ばれてくるなり目を輝かせた。特大を売りにしてるだけあってなっちゃん先輩の顔と同じくらいの大きさだ。というかなっちゃん先輩の顔が小さいだけかもしれない。
「よくお腹に入りますね」
「お昼まだだったし、甘いものはいくらでもいけるよ、わたし」
「今どきの女子大生って感じですね」
「そう。そう。花のJD。若くて代謝のいいうちに美味しいもの食べとかなきゃ損でしょ。それより太一君はそれでいいの?」
なっちゃん先輩が俺の目の前のアイスコーヒーを見つめる。奢るということで少し遠慮したのもあるが、さっきうどん食べたのであまりお腹が空いていなかった。
「俺は大丈夫です」
「ちょっと私が大食いにみられちゃう。ちょっと協力してよ」
なっちゃん先輩の方だけ大きなパフェがあると、周囲の『あの子どんだけ食べんだよ』という視線が気になるらしい。
「どうやって協力すれば?」
「そりゃ、一緒に食べるしかないでしょ」
なっちゃん先輩は当たり前のように俺にスプーンを渡してきた。
――――これって間接キッス。
同じ食べ物をシェアするということはそういうことだ。でも、最近の陽キャたちはいちいち間接キスなんて気にしないんだろうな。
現になっちゃん先輩も気にした様子もなく、俺の反対側からすでに食べ進めている。
「食べないの?」
「食べます」
俺も陽キャのしきたりに習って気にしないことにした。手前のクリームをスプーンですくうとそのまま口へ運ぶ。口の中いっぱいに甘さが広がった。見た目どおりの甘ったるさ。
これは先輩の手助け、先輩の手助け。手助け、手助け……頭の中で何回も唱えて、邪念を振り払おうとする。
「人生初の共同作業だね」
「ゴッホッッ。ゴッホ」
思いっきりむせてしまった。その言葉の意味を察するに――
「結婚式っすか」
「ナイスつっこみ。むせなければ完璧だったね〜」
「そりゃ、急に先輩が変なこというからですよ」
「まあいいじゃない? 私と太一君の仲なんだしさ」
「先輩との仲……」
俺はなっちゃん先輩と出会ったときのことを思い出した。
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