第3話 そんな子知らない

「やっぱ昨日の並女の子たちはレベル高かったよな」


 隣で野上が頬を緩ませながら言った。コイツは同じ学部の友達だ。ちなみに昨日の並女こと並木女子大との合コンをセッティングした張本人でもある。


 今は大学の昼休憩中。俺と野上は学食でご飯を食べていた。


「レベルは高かったような気がする」


「おうおう。太一言うじゃねぇか」


「あんま昨日のこと覚えてないからな」


 俺はうどんをすすりながら答えた。昼になってやっと頭痛から解放された俺にとって消化の良いうどんは胃に染み渡るほどうまかった。


「昨日のこと覚えてないってそりゃねぇぜ。なんたって昨日はおまえの一人勝ちだったんだからな」


「一人勝ち? どういうことだ?」


「すっとぼけたって無駄だぜ。あのあと二次会で女と二人で抜け出したじゃねぇか」


 ニヤニヤと俺を見つめてくる野上。このニヤつきから結局お持ち帰りしたのかって聞いてるようにみえる。


「あのあとなにもなかったと思う」


「ホントに? あんなかわいい子と抜けがけしといて報告しないとか、そりゃないぜ。なっちゃん先輩には言わないから言ってみ」


「なっちゃん先輩は……関係ない……」


 思わず口を濁してしまった。なっちゃん先輩こと夏海先輩は俺たちよりひと学年上の先輩。俺が唯一仲の良い女友達ってところだ。

 なんとなく玲奈を家に泊めたことがバツが悪く感じた。


「あっ、なっちゃん先輩だ」


 やべぇ、今の話聞かれてたか?


 野上の視線につられて後ろを振り返る。


 しかし、後ろにはなっちゃん先輩おろか誰もいない。俺の焦った反応を見て、野上はクスクス笑っている。


「野上、図ったな……」


「お前が言わないからだ」


「わかった。わかった。言うよ。確かに朝俺の家に女がいた」


「おお、ついに太一もやったか! 童貞卒業おめ」


 野上は俺の背中を笑いながらバンバン叩きながら続けた。


「ああ〜あんなショートカットのかわいい子他にいないかな」


「この大学にもたくさんいるだろ。お前は女を選びす……」


 俺はハッとして、言葉をつぐんだ。


「野上、今ショートカットのかわいい子って言ったか?」


「おう。どうした急に? 茶髪の似合うショートカットのかわいい子だったよ。チクショー」


 おい……そんなことあるのか、だって玲奈は……


「今朝俺の家にいたの黒髪ロングの子なんだ」


「へぇ、一晩で髪伸びたんじゃね?」


「えっなに急にホラー展開?」


 野上は訝しげな目で見つめてきた。


「ホントに昨日のこと覚えてないのか?」


「最初からそう言ってる。そしてどうやらおまえが言う俺が合コンお持ち帰りした女と俺の家に今いる女が別人らしい。玲奈の写真でも取っておくべきだったか」


 野上は考え込む素振りをみせると呟いた。


「太一、お前昨日一次会で集合写真とってなかったか?」


 その言葉に俺はすぐにスマホで写真を確認した。すぐに目的の写真は見つかった。居酒屋のテーブルを囲んで6人の男女が写っている写真だった。


 そしてそこには―――


 玲奈の姿はなかった。


「どういうことだ?」


「それは俺のセリフだ。てっきりこの子かと思ったんだけどな」


 野上が指した子は茶髪のショート。玲奈とは似つかないが、この子も玲奈と違った魅力のある子だ。


「……この子じゃない」


「じゃぁお前は誰を家に泊めたんだ?」


 思わず野上と顔を見合わせてしまった。俺

はてっきり並女の子とばかり思っていた。


「わからない」


「わかった。ちょっと俺の方でも昨日の並女の幹事の子に連絡とってみる」


 野上はスマホを取り出すと、メッセージを送ってくれた。


 俺はうどんを胃に駆け込み、家へと帰ろうとする。玲奈の身元がわからないため、ちょっと不安になったのだ。


 とても面倒くさいことに巻き込まれそうな気がした。


 ああ……記憶失くすまで酒飲むもんじゃないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る