PART2
僕は別に、復讐とかしたいわけじゃないんだ。
ただ蜘蛛たちは、僕が赤ちゃんの頃から育てて可愛がってたディーナを殺したんだ。……羊の方のディーナね。
「ヒツジかァ……、ウマそうだなあっ」
そうだ、こっちのディーナはこういう無神経なことを言う。
羊のディーナは可愛かった。いつも寄り添ってくれたし、なにより余計なことは何も言わなかった。
後ろに反り返った角を額と側頭部に一対ずつ。合計四本、頭部に生やした竜人のディーナ。
尻尾もある。長くて太くて、それは逞しい尻尾だ。
ただ翼は無い。
竜人に翼は無いらしい。
カブラーの街で知り合った竜人好きの変な人が教えてくれた。
彼はディーナに尻尾で張り倒され、そしてお礼を言って去っていったんだ。僕はつくづく変な人だと思った。
ディーナはどう思ったろう?
「ニンゲンつーのはオモシロイな。バカみたいで。頭ぶん殴なぐられて目ェ回してるイヌみたいでオモシロイ。食べてみたいな」
なるほどね。
よく分かったよ。
それはそうと、つまりだから、僕は僕の愛しの羊のディーナを殺した蜘蛛たちに腹が立ってる。
こうして出逢ったのも何かの縁だから、ディーナに村を襲った蜘蛛たちをやっつけてもらいたいんだ。
だからこうして街の飲食店に来て、無理を言ってお店の人に調理前のお肉を提供してもらって、お願いしてる。
「クモかァ……。アイツらマズいんだよな」
蛸は美味しいって言って平らげたのに。
僕は店員さんに変な目までされたのに。
生肉のこともそうだし、服どころか外套一枚羽織ってくれない素っ裸のディーナのせいで。
……助けてくれたのも、ディーナだけどさ。
竜人は人間とはけっこう違う。
人間みたいに二本の足で立っているし、肩だってある。
ディーナは女性だから、もちろん女性って感じだ。
髪が長くて胸があって、お尻も丸い。
でも全身鱗まみれで、肌色も無いからぱっと見は裸って感じはしない。……あんまりね。ちゃんと見れば裸なんだけど。
それに何より、僕がそうさせてるわけじゃない。
だから皆さん、そんな目で僕を見ないで。
辛いのは僕の方だ。
パパとママは行方知らず。愛しい羊のディーナは蜘蛛のエサ。
食事をおごったのにディーナにはお願いを渋られる。
「でもこのあいだ、アイツらの糸で髪がベトベトになったんだよなァ。思い出したらムカついてきたな……」
ディーナの尻尾が後ろの席の人を弾き飛ばした。
ああ、なんてことを……。でも良い兆候。
あの竜人好きの変な人曰く、竜人は機嫌が悪いと尻尾が勝手に暴れるんだって。自分の意思とは関係無く。
つまり彼女は今、すごく不機嫌ってわけだ。
立ち上がって、文句を言いに来たさっきの人がまたディーナの尻尾に弾き飛ばされた。
僕は悪くない。あの人が不用意なんだ。
ディーナは蜘蛛退治してくれるだろうか……?
「スカッとする?」
きっとする。
あと上手くいったら僕が美味しい羊料理をご馳走する。
ああ、しまった……。
はじめからこう言えば良かったんだ。
「じゃあ、やる。クモどもぶっ殺してやるよ」
ディーナの笑顔は素敵だと思う。
頬まで裂けて、それぞれ揃った歯と牙が見えるんだ。
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