ジンガイマキョウ

こたろうくん

僕とディーナ

PART1

 僕と彼女の出逢いは偶然だ。


 住んでいた村が蜘蛛に襲われ、命辛々に落ち延びた森の中で今度はタコに襲われていたところを救ってもらった。


 木々を軽々と大地から引き抜き握り潰す長大な触腕。

 真一文字の瞳孔を持つ金色をした悪魔のような眼。

 巨大でありながらあらゆる場所に入り込む掴み所のない軟体。

 岩をも噛み砕く堅固な黒いくちばし。


 陸を這いずる巨大な恐怖。

 その巨体が崩れ落ち、青い血が僕へと降り掛かる。


「ニンゲン? 森にニンゲン? はっ、ヘンなの」


 今際の際で波打つように彩色を変える蛸の上、それを足蹴にして赫灼かくしゃくする琥珀色の双眸が僕を見下ろす。


 凛としながらも粗暴な口振り。

 華奢でしなやかな胴体と相反して肥大化した手足。

 指先の鉤爪に、肘や膝に生えた棘。

 全身を覆う赤褐色の鱗。


 人の姿をした竜。

 竜人と呼ばれる異端のもの。

 けれど強大な存在。


 頬まで裂けた口を開いて、手にした蛸の眼球にリンゴを食すように鋭い牙で豪快にかじりつく彼女の名はディーナ。


 好きなものは生肉。

 嫌いなものは洋服。


 ちなみに僕の名前はロックス。

 かつては村で羊飼いの両親の手伝いをしてた。


 今は……なにもしてない。

 強いて言えば、ディーナの世話かな。


「なぁ、ニンゲン。おまえ、こんなとこでなにしてる?」

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