第6話 

 おれはぴかぴかのよろいをきた兵士だった。おさない姫が乳母をつれてお庭で遊ばれるのをほほえましく見守りながら、命をかけてお守りしようと決意をあらたにする。


 姫にツノがない。

 このお方は……。


 ゆめからさめたら、明け方だった。

 姫さまは人間の家であつくもてなされ、ゆっくりと休まれているだろう。


 いっそ、おれが姿を消せば姫さまはこのまま人間の村にいられるのではないか……?


 あいらしい足音がする。

 姫さまだ。


「おはよう。びっくりすることが起こったわ。歩きながらでいいから聞いて頂戴……なんと勇者一行に会ったのよ」


 おれたちはまだ空があかるくなりきらないうちに人間の村をはなれてゆく。

 

「五弁の花の紋章を持つ乙女の噂が、勇者一行に伝わったの。

 彼らのなかには、人間の城から拐われてきたお母様を知っている者がいたのよ。


 エルフの精霊使いは人間の国に視察に来たころ、ちょうど母が生まれたとか。

 老魔術師はむかし母を救出しようとした勇者の一味に同行したことがあって、今度こそお助けしたい、なんて言っていたわ。


 尼は私を尼寺に連れて帰ろうとしたの。神の無限の慈悲は魔物をも救うって。勝手に決めないでほしいわ。おまえを連れて行けないから嫌よ。


 わたしを助けたいならこのまま忘れてほしいと言ったわ。人間に危害を加えないと約束する。問題があるならそのときは私を殺しに来いって。

 ……そこまで言うなら、と勇者は受け入れたわ。

 女戦士は敵意剥き出しだったけれど、勇者がそれでいいなら、と言ってくれた。

 これで彼らとの話は終わりよ」


「姫さまは……これで良かったのですか」


 姫さまはにっこりとほほえんでうなずかれた。


「今度のことで……魔獣を倒して人間の村に泊まった件のことよ……おまえの武術と、私の魔力で人間の世の中に受け入れられる道があると分かって、嬉しい。

 私の角とおまえの顔は隠さないといけないけれど……なんとかなるわ」


 ああ、よかった。おれの本当のねがいは、姫さまが生きのびることだ。

 おれのかおに肉と皮がもっとのこっていれば、おれもニコニコわらっていただろう。


 しかし気になることがある。


 勇者一行はヴァンパイアのだんなのはなしだと6人いた。いまの話には5人しかでてこない。


 話すことがなかったのか、魔王軍の誰かに倒されたのか、それとも……。


 キィィン


 するどい金属音がひびき、姫さまがじめんにたおれた!


「逃げなさい……ごめんね……約束を守れない……」


 


(続く)







 

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