第5話
ふたりで、あんじゅうの地を求めてさまよいつづけた。
姫さまはもう火炎魔法の力加減をつかんでいらっしゃる。敵をまわりの木立ごと黒焦げにすることもすくなくなった。
しかしモンスターの肉に当たってしまわれてから、果物しかお口にされていない。
お城でそだった姫さまに、野宿ばかりの放浪生活はむりがあるのだ。
着ているものもせなかのあいたドレスのままで、きれいなはずがときに寒々しくみえる。
姫様を狙って、もう何匹目かわからない魔獣があらわれ、ともにたたかい、姫さまの魔法でたおした。
今回はようすがちがう。
ものかげから腰のまがった年寄りの人間が出てきたのだ。斧をもった木こりだ。
「おかげさまで命拾いしましたわい。村ではみんなあの怪物に悩まされておりました。もうすぐ日暮れですし、どうぞ村に泊まってくだされ」
おれはあやういところで、べつの茂みにかくれて聞いている。においに気づかれないように風下だ。
姫さまは何やら理由をつけて、おれのほうにくる。年寄りは木こりのなかまに、ばけものは死んだ、もう大丈夫だ、と声をかけている。
おれのそばにしゃがみこんだ姫さまは、いつのまにか、ベールをあさくかぶって角をかくていた。
「どうしましょう。人間の村……少し怖いわ」
「姫さまは生きていらっしゃるのですから、とめてもらって、どうかおからだを休めてください。おれはこっそりついて行き、村の出入口ちかくで待っています。あした落ちあいましょう。
何かあったら、あのときのように必ず駆けつけますよ」
姫さまは、ほほえまれたが、泣きそうなお顔にもみえた。
「ありがとう……。明日、必ずね」
(続く)
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