第2話

 おれは姫さまを、ダンジョンのなかへおつれした。

 魔物たちは魔王族をおそわない。そういうふうになっているのだ。


 けれど、それは魔王さまが生きている間だけのことだったらしい。

 うかつだった。

 りせいのない獣のモンスターにとって、人間の血をひく姫さまはおいしそうなえものだ。


 おれはなんども戦った。

 そうびも体も少しずつ傷つけられる。ゾンビだからかいふくまほうがきかないんだ。

 姫さまを守れなくなったらいやだな。

 

 とうとう、ことばをはなせるマンティコアまで物陰からとびかかってきた。

「させるか!」

 するどいつめがいたい。それでもがんばっていると、マンティコアが炎につつまれた。

 姫さまの魔力はすごい。どうにか難をのがれた。


「あなたのおかげで、攻撃呪文が間に合ったわ」

 言葉とちがって、姫さまはうれしそうにみえない。やがて美しいお顔をゆがめて涙をあふれさせた。


「ほんのすこし前まで……みんな……お父様の配下だったのに……」


 ゆたかなくらしを失った姫さまにも、ずっと底辺だったおれとはちがうくるしみがあるのだ……とおれはおもった。

 それだけではなかった。


「なのに……殺してしまった……」


 ころされそうになったことより殺したことを悲しむとは、なんて優しいお方だろう。


「姫さま……おれが……いますよ……」




(続く)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る