【第100話】白金愛梨と万屋太陽⑧


 【瞬間移動】で飛ばされた場所は、河川敷だった。

 この河川敷で結ばれた二人――


 静と千草が、仲良くフュージョンポーズを取りながら、愛梨を出迎えた。


「お! やっとお出ましだな! 愛梨さん!」

「ようよう! 遅かったじゃねぇか! 待ちくたびれたぜ!!」


 これ迄とは違う、二人の異様にテンションの高い歓迎っぷりに、愛梨は少し唖然としてしまう。

 お構い無しに、千草が攻め立ててくる。


「どうしたどうしたぁ? ビビってんのかぁ? 記念すべき100話目を任された、選ばれしオイラ達のオーラによぉ!」

「……100話目……? 何を……言ってるの……?」


 メタ的な話はさて置き。

 静が言う。


「さて、愛梨さん。あなたはこれ迄、姫と大地、宇宙先輩との対談を経て、ここへ来ている筈だ。となると既に、この『恋愛ツアー』のコンセプトは理解出来ているよな?」

「ええ、もちろん……」

「流石だ愛梨さん。素晴らしい観察力と推理力だ。見習わなければならないな!」

「いえ、ツアー始まる前に忍くんの心読んだだけだから……別に観察力や推理力は関係ないかなぁー……?」

「そういう所がダメなんじゃないか? ネタバレじゃないか」

「はい……すみませんでした……」

「とまぁ! こんな感じで、愛梨さんにダメ出しをしていく――というのが、この『恋愛ツアー』のコンセプトな訳なのだが……」

「その認識は、ちょっとズレてるような気がするけど……」

「残念ながら、スポーツやエロにかまけていた我々には、あなた程の人にダメ出しをして、アドバイスをする程の学がないのだ! 残念ながらな!」

「正直者だなぁ……」


 「そこでオイラ達は考えた」千草が続けた。


「尺をどうしよう? とな。せっかく、記念すべき100話目を任されたのにも関わらず、千草と静が馬鹿なので千文字ちょっとで終わりまーすでは、ただオイラ達が恥を晒して終わるだけになってしまう! それは悔しいし、このステージが何の意味もなくなってしまう! 絶対ダメ! NG!!」

「またメタ的な事言ってる……」

「なので、馬鹿なオイラ達が考えに考えて考え抜いた結果――――白金に、『とあるゲーム』をして貰いたいなと思った訳だ」

「……ゲーム……なるほどね……」


 愛梨はすかさず二人の心を読み、ゲームのルールを把握した。

 代わって、静がルール説明を行う。


「既に愛梨さんには説明不要かもしれないが! 読者の為に、説明しよう! ルールは簡単だ――




 !! それだけ!」



「太陽の……好きな所を、百個……?」

「そう! 百個! 制限時間内に百個言えないと、白金さんの負け! どうだ!?」

「百個……」


 千草が煽る。


「んー? どうしたんだぁー? 白金ぇー。怖気付いたのかぁー?」

「ううん……むしろ――



 ?」


「「えっ!?」」


 その言葉に千草と静が少し面食らうが、「流石だな。愛梨さん……」と静が不敵な笑みを浮かべた。


「やれるものなら――やってみなよ」

「……望むところ!」


 ニヤリと笑う静と千草。

 静がゲーム開始の合図を出す。


「それでは――――ゲーム……」


 愛梨は目を閉じ……太陽の姿を思い浮かべる……。


「スタートッ!!」


 そして目を見開いた。


「優しい所……」

「カッコイイ所……」

「素直な所……」

「笑顔が素敵な所……」

「声がカッコイイ所……」

「裏表のない所……」

「困ってる人に……すぐ手を差し伸べちゃう所……」

「強い所……」

「でも、弱い所……」

「頭の悪い所……」

「だけど、たまに鋭い所……」

「からかいがいが、ある所……」

「Hな事を恥じる事なく考えている所……」

「恥知らずな所……」

「彼女に遠慮しない所……」

「恥ずかしがり屋な所……」

「照れたら可愛い所……」

「からかった後の反応が面白い所……」

「面白い所……」

「筋肉質な所……」

「無鉄砲な所……」

「他人の為となると、無茶し過ぎで心配な所……」

「無事に帰って来てくれる所……」

「頼り甲斐がある所……」

「変わった人だなぁ……って所……」

「人間らしい所……」


 と、ここまで、スラスラと羅列していく愛梨。

 唖然としてしまう静と千草。


「凄いな……私でさえ、千草くんの好きな所を……十個くらいしか言えないのに」

「それは幾ら何でも少な過ぎない!?」

「自分の愛を疑ってしまうレベルだよ……この人――――


 どれだけ、太陽さんの事が好きなんだ……!?」


 愛梨は止まらない。

 次々に、太陽の好きな所を並べていく……。


「バレバレの嘘を……つく所……」

「その嘘が、しょうもない所……」

「でもたまに、とんでもない嘘をついてる所……」

「嘘を隠し切れない所……」

「そういう所も、可愛いと思っちゃう所……」

「嫌な嘘はつかない所……」

「そんな眩しい所……」

「一緒に居て……元気に……なれる所……」


 七十をこえた所で、愛梨に変化が訪れる。

 彼女の目から……涙がこぼれ落ちてたのだ……。


(ああ……改めて、こうやって……彼の好きな所を口にすると……思い知らされる……私が……どれだけ彼の事を好きだったのか……大好きなのか……離れたくないのか……別れたくないのか……一緒にいたいのかを…………思い知らされる!)


 涙を流しながら、次々に太陽の好きな所を並べて行く、愛梨の姿を見て……静と千草は、ギューッと……胸を締め付けられる思いになった。


「愛梨さん……本当に……太陽さんの事が、好きだったんだな……」

「……分かりきってたっしょ? そんな事……だからこそ、白金は……この道を選んだんだ……」

「でも……めちゃくちゃ後悔してるね」

「ああ……めちゃくちゃ、ね……」


 静と千草……二人が会話している内に、その数は九十をこえた。

 そしてすぐに、九十五をこえた。

 九十六……。

 九十七……。

 九十八……。

 九十九―――――



「こんな私を……信じて――――待っていて、くれる所……!」


 百――


 百個もの、好きな所を言い切った愛梨に、拍手をする静と千草。

 静が思いっ切り……愛梨を抱き締めた。


「愛梨さんが……太陽さんを好きって気持ち。充分過ぎるほど……伝わったよ……。辛い事させて……ごめんなさい……」

「ううん……私の方こそありがとう……改めて……大切な気持ちに、気付く事ができた……本当に……ありがとう……」


 「まったくだぜー」と、千草。


「なぁ? 白金……オイラさ、あの時、気付いたんだー」

「あの時……? 暴走族の……」

「うん……静と大喧嘩して……静を疑って……裏切れたと思ってたのに……実はそうじゃなかった」

「…………」

「人間ってさ……弱い生き物なんだよねー。だから、信頼している相手であろうと……疑っちゃうんだよ。ねぇ……白金……お前が求めているものって、案外――大した事がないものなのかもしれないよ? 少なくとも……あの時のオイラからすれば……信頼出来ないっていうのも……メリットになると思うからさ」

「信頼出来ないのも……メリット……」

「まぁ、あの時のオイラからすれば――の、話だけれどね。今は違うよーん」


 すると、「千草くーん!!」と、静が千草へ激しく抱き着いた。

 目をキラキラと輝かせている。


「凄いよ千草くん! 今のすっごくアドバイスっぽかった!!」

「お? やっぱり!? いやぁー、オイラってやれば出来る子なんだよねぇー!!」

「うん! 凄い凄いっ!!」


 愛梨そっちのけでじゃれ付き合う二人。

 そんな静と千草を見つめながら……呟いた。


「信頼なんて……大したものじゃない……か……」

「終わったか?」

「うわぁっ!」


 またしても突然、忍が現れた。


「だから忍くん……急に現れないで……って! 何でそんなにボロボロなの!?」

「……階段で転んだ……」

「は?」

「階段で転んだんだ。はい、この話は終わり。時間だ、次のステージへと行くぞ」

「え? でもその傷……手当しないと」

「はい、レッツゴー」

「ちょっ……!」


 ボロボロの姿で、機嫌が悪そうな忍が、ヤケクソ気味に。強制的に愛梨を【瞬間移動】で飛ばした。

 今回残ったのは、忍と静と千草の三名。

 千草が笑う。


「ぷはぁーっ!! 忍、お前めちゃくちゃやられてんじゃん!!」

「むぅ……行けば分かる。太陽は強い」


 ぷいっと、不貞腐れたように顔を逸らす忍。

 二人がかりで太陽に負けた事が、相当ショックだったようだ。


「人の事を笑うのは良いが……次は――お前達だぞ?」

「げっ……! お、オイラは辞退しよっかなぁー……」


「太陽さんが相手かぁ! 面白い!! 血が騒ぐなぁ……!」


 逃げ腰の千草とは対象的に、静はやる気満々だった。

 早く闘いたくてウズウズしているのか、目をキラキラと輝かせ、ピョンピョン跳ね回っている。


「いやいや……あの……静さん? あなた、女子野球で甲子園目指しているから……能力を使わない筈じゃなかったのかな……? やめといた方が良いんじゃないかなぁー……?」

「何を言っているんだ千草くん! 模擬戦闘では、能力を使わねば勝てんだろうが!! それとこれとは話が別なんだ! やれと言われればやる! 戦えと言われたら戦う!! それがヒーローと呼ばれる者の生き方だろう!?」

「オイラ達もうヒーローじゃないし……それに……よしんば能力使っても太陽には……」

「つべこべ言わずに行動だ!! 土門くん! 私達を太陽さんの元まで飛ばしてくれっ!!」


「了解した」


「ちょっ! 静! マジでやめとこうって! 太陽あいつマジでヤバイんだって!!」

「そんな事は知っている!! だからこそ勝負だ!! 太陽さん!!」

「い……いやだぁぁぁぁあ――――」


 【瞬間移動】――――完了。


 一人残された忍は……河川敷にゴロンと寝転がった。

 太陽と一戦交わった後は、流石にキツイのだろう……。


「いてて……あのバカ太陽……本気で殴りやがって…………ま、元気そうで良かったが……。…………さぁて……『恋愛ツアー』も、後2エピソードか……もうすぐ、締め括りだな……。果たして白金は……どんな答えを出すのか……見物だな」

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