【第98話】白金愛梨と万屋太陽⑥


「それでは白金、お前さえ良ければ、すぐにでもカップルツアーを開始するが……良いか?」

「ええ、大丈夫。――――心の準備は出来ているわ」

「ふむ、では行こう! 先ずは――エピソード1の振り返りへ……レッツゴー」


 忍はその掛け声と共に、【瞬間移動】を発動する。


「っ!? ここは……? 遊園地……?」


 移動して来た愛梨の目に、まず映ったのは、大きな観覧車であった。

 聞こえて来る音楽や、周囲の建物の見た目や、数ある遊具……それらを踏まえ、ここが遊園地である事を把握する。


「お、見ろ……白金」

「え?」

「カップルだ」


 忍が指さしたのは、目の前にある噴水のその向こう。

 ベンチに座った男女のカップルがキスをしていた。

 愛梨はすぐに気づいた。

 その……キスをしている男女のカップルが――知り合いだという事に。


 顔が紅くなる愛梨。

 ケロッとした表情で、忍は言う。


「ふむ……ここからでは少し遠いな。近寄る事にしようか」

「はぁ!? いや……きっと私達、お邪魔蟲だか……」


 【瞬間移動】発動。


 その男女カップルの目の前に現れる愛梨。

 現れてしまった……愛梨。


「ご……ごめんっ! 姫ちゃんと大地くん!! これは! その……悪気があった訳じゃないからっ! 別に邪魔しようとか、そういうんじゃないから……!」


 すると……。


「あははっ! 愛梨さん、すっごく顔赤くなってるー!!」

「ドッキリ大成功……ですね。あの時嵌めてくれた借りを返せました」

「……へ?」


 姫と大地が、笑った。

 どうやら愛梨に、見せつける為、キスをしていたようだ。


 愛梨はすかさず心を読む。


「なるほどぉー……ドッキリかぁー……良かったぁー……私てっきり、めちゃくちゃ二人の邪魔をしちゃったのかと思ったよー……」

「せっかく、こういう機会を得たのなら、いっその事驚かしちゃおうって、大ちゃんが提案したんです」

「あはは! どうでした?」


 してやったり顔で、大地が問い掛けてくる。

 愛梨は両手を上げ、参りましたの表情で言う。


「してやられたなぁーって感じかな……」


 二人はクスクスと笑い合った。

 その後、大地が言う。


「これが……今のボク達です」


 と。

 姫が小柄な身体をくるんと翻し、満面の笑顔で言う。


「どうですか? 私達! 幸せそうに見えます?」


 「ええ……」愛梨は頷いた。


「とっても――――幸せそうよ。羨ましいわ」


 そして、羨ましいと、そう言った。


「…………白金さんは、太陽さんと一緒に居て……幸せじゃなかったんですか?」

「ううん……」


 大地のその問い掛けに対し……愛梨は答える。


「幸せだったよ……すっごく」

「そうですか……なら、良かったです」

「え?」

「正直……土門さんや星空さん達が、あなた達二人を復縁させようって言った時、引っ掛かってたんですよ。復縁出来たとしても……二人は本当に幸せなのか? って……」

「…………」


 それは……当たらずとも遠からず、だと愛梨は思った。

 きっと復縁したら、愛莉自身は幸せになる事だろう。しかし、太陽は不幸せになる――――というのが、彼女の考えだからである。


 大地は、そこまで考えているのかいないのかは不明だが……。


「これで思いっきり背中が押せます」


 と、言った。

 愛梨は補足を入れて置いた方が良いと判断。


「あのね……? 大地くん……」

「分かってますよ。愛梨さん」

「え……」

「あなたは――――自分が幸せになっても……太陽さんは幸せになれない……そう考えてますよね?」


 素直に驚いた。

 どうやら彼は、そこまで理解出来ているらしい。


「そこまで分かっているのに……何で……」

「何で――――背中を押すって発想になるのか? もしくは……何故ボクが――良かったと思ったのか? 当然……そんな疑問が浮かんで来ますよね? 分かってます」

「…………!!」


 これまた驚いた。

 大地が天才的頭脳を持っているとは知っていたが、まさかこれ程とは思っていなかったのだ。

 【読心能力】を持つ愛梨に匹敵するスピードで、相手の思考を読んでいる。

 驚かざるを――驚愕せざるを得ない。


「図星でしたか? ふふん、これくらい……心を読めずとも推察出来ます。前回とは、立場が逆になりましたね」

「そ……そうね……」


 驚愕し、少し引き気味の愛梨。

 そんな彼女の精神状態を把握しつつ、大地は続ける。


「白金さん……あなたが考えるのは、あなたの幸せだけで良いんですよ」

「え……」

「だからボクは……良かったと思い、背中を押そうって思ったんです。白金さん……あなた自身が幸せになれば……ボク達にとっては、それで良いんです」

「そんな自分勝手は……」


 「自分勝手で良いじゃないですかっ!」そう口を挟んできたのは、姫だった。


「信じたい人は勝手に信じて、信じたくない人は勝手に信じなかったら良いんですよ! 信じるのが怖いって言うのは――『甘え』ですよ! 愛梨さん!」

「あはは……手厳しい事を言うなぁ……姫ちゃん」

「だってそうですもん! 愛梨さんは、人間は裏切るもの――とか、人の心の闇を知ってる――とか、だから信用出来ない――とかって、言っちゃってますけど! それって何も――【読心能力】者じゃないですからね!?」

「…………っ!」

「私達、【読心能力】が無い人間だって! 他人を信じるのは、怖いものなんです!! 百%裏切られないだろうなって確信して――他人を信じる事なんて! 誰にも出来ませんよ!?」


 姫の強い口調は続く。


「皆……誰しもが、裏切られないかという恐怖を持って他人と付き合うんです! 他人を勝手に信頼して、裏切られたら――それはそんな人を信頼してしまった……自分のせい、なんです!! 愛梨さん! あなたはそれを放棄しちゃってるんです!! 狡いですよ!!」

「……そう、ね……責任の放棄……か……その発想はなかったなぁ……」

「言っておきますけど――」


 姫の言葉は止まらない。


「私――怒ってますからねっ!! とってもとっても――怒ってますから! 太陽さんを苦しめている、あなたに! 私は激怒していますからっ!」

「……ごめんなさい……」


 するとここで、大地が「こら、感情的になるな」と姫を静止する。


「だって大ちゃん……!」

「落ち着け、次はオレの番だから」

「もうっ!!」


 この二人は、本当に仲が良い。

 そんな訳で、大地のターンへと移る。


「少し……懐かしい話をしても良いですか?」

「……うん……もちろん……」

「ボクが、独り善がりに姫を守ろうとして……学校に行かなくなった時……あなたは、ボクの心を読んで……『それは間違ってる』って、言ってくれましたよね……? 覚えてますか……?」

「……うん……」

「今のあなたは……あの時のボクと、同じ事をしています……。独り善がりに――太陽さんを、未来に訪れるかもしれない不幸から、守ろうとしている……はっきり言います。その考えは間違っています――大間違いです。考え直してください」

「でも……私なんかじゃ、太陽くんを……」

「太陽さんは関係ないんです……あなたは、あなたの幸せを、追求するべきなんです」

「それはそれで……独り善がりなんじゃ……」

「この場合は――誰も不幸になってませんよ? あなたの独り善がりが――誰かを幸せにする方向へと向いているならば……それで良いんです」

「独り善がりの、方向性が大切……って事?」

「そうですね。まぁ……ぶっちゃけると――未来の事なんて気にせず、寄りを戻して、今を大切にしてくださいって事です」

「……身も蓋もないね……」


 苦笑いを浮かべる愛梨だった。

 ここでまた姫が言う。


「今の太陽さんは――あの時の私と同じ気持ちだと思います……。だって……――……」

「っ!!」


 大きく目を見開く愛梨。

 何か……考えが纏まりそうな予感がしたが……ここでタイムアップ。


 「時間だ……」と、忍が現れたのだ。


 それを耳にしてか、姫が必死の形相で愛梨に掴みかかる。


「愛梨さん! 間違いなく、太陽さんは今――苦しんでるよ!? この一件全部を――自分のせいだって! 思い詰めてるよ!? 私には分かる! 私も、そうだったから……分かるんだよ!!」

「お……おい、姫っ! 落ち着けって」


 大地の静止にも、姫は止まらない。


「思い出して愛梨さん! 太陽さんは、そんなに信用するに値しない人!? そんな訳ないよね!? あんな良い人他にいないよ!? あの人を信じられないと――金輪際、誰も信じる事なんて出来ないよ!? それでも良いの!?」

「…………っ!!」

「だから愛梨さん! 太陽さんと――」


 しかし姫は……最後まで、自分の想いを続ける事は出来なかった。

 彼女は、言葉の途中で【瞬間移動】させられたのだ。

 強制的に……。


「すまんな大地……時間が押していた為、強制的に送らせて貰った」

「いえいえ……ファインプレーですよ忍さん……助かりました、ありがとうございます」


 そして大地は、今度は愛梨へと向き直り、頭を下げた。


「ボクの彼女が……失礼な事を言って、申し訳ありませんでした……」

「……い、いえ……それは……」

「ですが――」

「っ!」

「姫が何故、ああも取り乱したのか……その理由を、熟考していただきたい……。ボク達は、あなた達に救われたんです……。恩人には……幸せになってもらいたいんです。それだけです……」

「……うん……分かってるよ……。その気持ち……凄くありがたい」

「…………失礼しました」


 忍は、大地を【瞬間移動】させる。

 二人の思い出の遊園地に、忍と愛梨だけが残された。


「はぁー……」


 愛梨が大きく溜息を吐き……項垂れた。


「疲れたか?」

「ええ……想像以上に、メンタルに来るね……コレ……」

「……だろうな……第一ステージを経て……何か、思う所はあるか?」

「……そりゃあるよ……沢山……」

「そうか……では、次に行くとしよう。続いては、エピソード2の振り返りだ」

「……エピソード……2……?」

「名付けて――――、だな」





 その頃――


 太陽と透士郎は……。


「もう、ギブアップか? 透士郎」

「お、おぉ……やっぱ強えな……お前……」

「当たり前だっつーの。伊達にって呼ばれてねぇんだよ。目が良いだけの奴に負けてたまるか」


 仰向けで寝転がる透士郎に跨り、振り上げていた拳を下ろす太陽。


「さ、コレで運動は終わりだ。腹減ったなぁー、帰りラーメンでも食って帰らねぇか?」


 と、呑気に言う太陽に、透士郎は言う。


「いや――


 まだ、お前の運動は終わってねぇよ?」


「はぁ? お前……まだ続ける気なの――――っ!!」


 透士郎ではない何者かに、強襲を受ける太陽。

 一人ではない――だ。

 とはいえ、その不意をつく強襲を、難なく太陽は防いだのだが……。


「へ? ひょっとして……次はお前らって事か?



 !」



 そう、その二人とは――――大地と姫だった。

 姫が言う。


「太陽さん……あなたが今、辛い想いなのは知っています……」

「お……おお……そうか……」

「だから――――ぶちのめさせてもらいますっ!!」

「支離滅裂だなぁ……」


 動き出す、大地と姫。


「――って事は……二対一って事だな!? 何が何だか分かんねぇけど! 【式神使い】と【分身】野郎のタッグか――おもしれぇ!! 受けて立ってやるよ!!」


 太陽が、戦闘態勢に入る。


 大地、姫コンビVS太陽――開戦。

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