【第82話】あけましておめでとう


 除夜の鐘が鳴り、深夜の初詣で人が賑わう。

 そして世が明ける。


 新年の到来を告げる朝日だ。


 初日の出だ。


 太陽と愛梨は、手を繋ぎ、並んでその様子を眺めていた。


「綺麗だね……」

「ああ……十五年生きて来て、何気にこうやってまじまじ見るの初めてかもしれねぇ……こんなに綺麗だったのか……」

「そうなんだ。私は何回か見た事あるなぁ。ま、でも今年は特別かな」

「特別? ああ、天気良いもんな」

「それもあるけど……」


 愛梨は太陽の手を強く握りながら言う。


「大好きな人と……一緒に見れたから」

「へ!?」

「だからさ――――特別なんだよ」

「ふ、ふぅん……そうなのか」

「あれ? 照れてる?」

「照れてないっ!!」

「新年初照れだ」

「だから照れてないってば!」



 一方――――その頃の姫と大地ペア。


「見て見て大ちゃん! 初日の出だよっ!? 初日の出!!」

「ん……? ああ……眩しいな」

「あーもうっ! 何眠たそうにしてんのさ! せっかくの初日の出なんだよ!? 一年に一回しかないんだよ? もっとテンション上げなよー!!」

「初日の出って……ただ元旦に上がる太陽ってだけだろ……? なんの感慨も湧かねぇよ……」

「そんなバカな!? 大ちゃん拗らせ過ぎてない!? 今私すっごく、頭良いのも考えものだなって思ったよ!?」

「あー……もう……眠いんだからキャンキャン言わないでくれよ……」

「大ちゃんのバカっ!」

「それにさ……」

「なにさっ!」

「オレは毎日毎日……姫っていう、初日の出よりも綺麗な人と会ってるから……尚更何とも思わないかな……」

「へっ!?」

「なーんちゃって……ぐぅー……」

「大ちゃん!? …………寝ちゃった……まったく……嬉しい事言ってくれるんだから……」



 そして更に一方――――その頃の宇宙と忍。

 例の秘密の場所にて、二人は二人っきりで初日の出を眺めていた。


「絶景ね……」

「ああ、何度見ても、この場所で見る初日の出は良い」

「あら? 忍くんったら、毎年こんな良いモノを独り占めしていたの? 狡いわね」

「いや、別に狡くはないだろう……別に意図的に隠していた訳ではないし……。わざわざ、秘蔵のスポットを他人に共有する必要などなかったし。そもそもここへは、【瞬間移動】を使わねば、到達すら出来んしな」

「ふふふっ」

「? 何故笑ってるんだ?」

「いえ……そんな秘蔵のスポットに、私は誘ってくれるんだなぁって……嬉しくなっちゃってね」

「当然だろう――――大切な人と、自分の大切なものを共有したいと思うのは、至極当たり前の事だと思うが?」

「ふふっ……大切な人、かぁ…………ありがとう、忍くん。今年もよろしくね」

「うむ……こちらこそ、よろしく頼む」



 またまた一方その頃――――静と千草。


「千草先輩! 千草先輩! 起きてくれ!! 初日の出だぞ初日の出!!」

「……ん? あー……本当だぁ。眩しいや……むにゃむにゃ……」

「こらこら寝るな千草先輩。起きて外へ行こうではないか!」

「……外へ? え? 何で?」

「何でって? 初日の出を浴びながらランニングに興じるのも、悪くないのではないか?」

「悪いよ……何で新年早々ランニングなんて疲れる事しなくちゃいけないのさ……眠たいから寝たいよ……オイラは……」

「うーん……なら仕方ないなぁ……よし! ならば千草くんは寝ててくれ! 私の背中で!」

「は?」

「私が千草くんを背負って走ろうではないか! そうすれば私は走れて、千草は寝れて、尚且つ一緒に居られるだろう? ふむ! 我ながら良いアイデアだ!」

「愚策にも程がある!!」

「そうと決まれば善は急げだ! 行くぞ千草くん!!」

「え、ちょっ! 本当にやるの!? 静っ!? 引っ張るなって! 分かった分かった! オイラも走るから! 走るから! おんぶはやめて! 静ーっ!!」



 そして一方――――月夜と透士郎は……。


「深夜の初詣って初めてだったけど、意外と人いるんだなぁ」

「……うん……」

「何だ月夜? 元気ねぇな……まだ引き摺ってんのか? おみくじの結果」

「そりゃ引き摺るよ! 私今年受験なんだよ!? なのに何で大凶なんて引いちゃうのさ! お先真っ暗にも程がある! あー……新年早々何でこんな事に……めっちゃブルー……」

「逆に悪い運使い切ったって考えたら良いんじゃねぇか? 大凶引く確率って低いだろうし。そんな気を落とす結果でもないと思うけどなぁ」

「ふんだっ……! 大吉引いた幸運男にそんな事言われても、何も心に響かないんだから!」

「そりゃオレは大吉引くさ。何てったって、【透視】を使って中身覗いてから引いてんだから」

「はぁ!? 何それ狡い!! インチキじゃん!!」

「まぁ、そうとも言うよな。だからオレは毎年毎年大吉なんだ。どうだ? 羨ましいか?」

「羨ましい訳ないでしょ……そんな裏技で得た大吉なんて……罰当たりそうだもん……大凶の方がマシよ」

「それでも、大吉は大吉だ。だけど残念ながら、オレはそもそも、おみくじを信用してねぇんだよなぁ……」

「?」

「だってよ、オレは毎年大吉引いてたんだぜ? なのに――――月夜とこういう関係になれたのは、去年が初めてだったから……」

「え……」

「オレに取っては、お前と付き合えていなかった時間は、大凶みたいなもんだったって事だよ……な? おみくじなんて信用ならねぇだろ?」

「……す、凄まじい極論ね…………でも……嬉しいわ……ありがとう……」

「だから、大凶引いた事なんて何一つ気にする事は…………あ、見ろよ月夜、初日の出だぞ」

「あ、本当だ。綺麗……」

「こんな綺麗な初日の出を、お前と見れたんだ。これはもう、大吉だろ!」

「……そうね。……私も、大吉気分になったわ」



 以上――五組それぞれが、それぞれの年越しを迎える中……。

 唯一、別々に年越しを迎えた者達が居た。


『悪いな皐月……今年は一人で年越しさせてしまって』


 火焔剛士と万屋皐月である。

 皐月が、気にしなくて良いと言わんばかりに電話越しで振る舞う。


「あははっ、仕方ないよ。剛士くんは勉強しなきゃいけない立場なんだからさ。太陽も月夜もいない大晦日も新鮮だったし……テレビ番組の取り合いがない平和な年越しを過ごさせていただきましたとも」

『だからこそ――――寂しかったんじゃないのか?』

「うーん……寂しくなかった……と言えば、嘘になるかなぁ? 本音を言えばさ、剛士くんと一緒に新年迎えたかったなぁって」

『……すまない……』

「謝る暇あったら勉強勉強。受験終わったら、この埋め合わせは絶対にして貰うからさ。覚悟しておいてよね」

『……いや、今日の埋め合わせは……

「へ? すぐに?」


 剛士は提案する。


『なぁ皐月……明日……いや、もう今日か……一月一日だから今日だな……。今日――――一緒に過ごす時間を、オレにくれないか?』

「今日……? 良いけど……勉強は?」

――

「?」


 彼のその言葉の意図を理解し兼ねる皐月だったが、久々の剛士からのお誘いだ、断る理由が皐月には無かった。


「うん……良いよ。何時に集まる? 昼から?」

『そうだな。この後少し寝て……十二時過ぎに、家まで迎えに行く』

「オッケー。なら、待ってるね」

『……ああ……ってな訳で、オレはこの後少し勉強した後、休む事にするよ』

「うん、頑張ってね。応援してるから」

『……皐月……』

「何? 剛士くん」

『あけましておめでとう』

「うん……あけましておめでとう」

『そして、おやすみ……皐月』

「はい……おやすみなさい……剛士くん」


 ここで通話は途切れた。


 久しぶりにデートの予定が入り、少し気分が高揚してしまう皐月であったが……彼女は知らない……。

 知る由もない……。


 剛士が今――をしている事を……。


 満を持して……この二人の物語が動き出す。

 最後の一組――――火焔剛士と万屋皐月の、物語が。


 果たして、受験戦争という闘いの先に待つ……この二人の未来とは……。

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