【第74話】泡水透士郎と万屋月夜④
自覚しよう――
月夜はそう思った。思わざるを得なくなってしまった。
新しい朝を迎える度、彼と出会う度、どんどんその気持ちが大きくなっている。
万屋月夜は――――泡水透士郎が好きだ。
大好きだ。
いつも一緒にいたいと思ってしまう程……。
いつまでも一緒にいたいと思ってしまう程……。
いつでも会いたいと思ってしまう程……。
月夜は透士郎に惚れてしまっている。
夢にまで見る程に。
あの顔を。あの声を。あの笑顔を。あの優しさを――恋しいと、思ってしまう程に。
ずっと一緒にいたい。離れたくない――――そんな気持ちになるのも無理はない。
だって好きなのだから仕方ない。
しかし一方、透士郎の事が好き……だからこそ、闘いに行かなくてはならない――という思いも芽生えてくる。
好きになればなる程――
その人が存在する世界を守りたい――そんな風に、思う。
従って、既に月夜の心は決まっている。
海外で暴れているという【霊騒々】ポルターガイストを撃破する為、彼女は闘う事に決めている。
世界を守る為――
愛する人がいる世界を――守る為。
例えその人と、離れ離れになろうとも……。
「えぇーっ!? 月夜さん、海外に言っちゃうのぉー!?」
そう声を上げたのは、月夜の一つ年下である天宮姫だった。
中学生メンバーを集め、月夜がポルターガイスト討伐の件を公表した所である。
反応したのは姫だけではない。姫の同級生であり、恋人でもある球乃大地も驚いており。
月夜の同級生であり親友の、海波静も驚いていた。
月夜が返答する。
「うん……もう、決めた事だし。返事もしてる。私はもう一度――世界を守る為に闘う事に決めたんだ」
「そんなぁ……」
しゅんとしてしまう姫。
するとここで、その彼氏である大地が月夜に尋ねた。
「……そのポルターガイストっていうのは、ひょっとして……【霊騒々】って奴の事ですか……?」
「うん。そうみたいね。【念動力】を扱う、私の下位互換って扱いみたい」
「……なるほど。じゃあ良かった」
「え?」
良かった……?
一体何が――良かった、んだろう?
月夜は疑問に思う。
その理由を大地が述べようとした……その時――
「月夜さぁーん! 悲しいよぉー!! 行かないでぇー!! うわぁぁぁーーぁん!!」
「っ! ちょっ、姫……!」
泣きじゃくる姫に飛び掛かられ、その言葉の理由を聞く事は出来なかった。
会話の主導権を、姫が握る。
「海外って……どれくらいで帰ってくるの……?」
「うーん……少なくとも兄貴が、二年は掛かるって……」
「二年っ!?」
そんな驚きの反応は見せたのは、姫ではなく――大地だった。
「ど……どうしたの? 大地……」
「大ちゃんどうしたの? 今日、いつにも増して変だよ?」
「いつも変みたいに言うな」と、姫に一言苦言を呈した後、大地は思考に没頭する。
(二年……? おかしいぞ……? オレが得た情報との差異があり過ぎる……。幾らなんでも……月夜さんで二年は……。太陽さんがそんな風に言ってたって……太陽さんが……シスコンゆえの甘やかし時間設定って事……なのか……? いやいや……そんな訳……ん?)
するとここで、これまで静観していた静と目が合った。
静の目が何かを訴え掛けてきている。
(静さん……? あの目は何かを訴え掛けてきている目だ……何が……何が言いたいんだ静さん……! あっ!!)
大地は気付いた。
これまで静の目に注目していたが、視線を落とした先――つまり、静の両手の形を見て、天才少年である球乃大地は全てを察した。
静の両手の形――左右の手で作られたハートマーク。
ハートマーク。
即ち――――恋。
太陽の何かしらの策略。
不自然な時間設定。
頭の回転が早い大地は、瞬く間に通常なら辿り着くことは出来ないであろうパズルのピースを、見事に組み立てあげたのだ。
(なるほど……そういう事か! まったく……相変わらず太陽さんはめちゃくちゃだなぁ……後で電話しよう)
大地は納得し、静に理解しましたとサインを送るべく頷いた。
対する静も了解と言わんばかりに頷き返す。
静は今日の朝――太陽から直々に電話を受けていた。
故に彼女も知っているのだ。
太陽の策略を。
ここに来てようやく――ここまで静観していた静が動き出した。
「ねぇ……月夜……」
「何? 静」
静が放つ一言とは……。
「海外に行く前にさ…………泡水さんに、告白しないで良いの?」
この言葉は爆弾だった。
主に、姫と大地にとって……に、限られるが。
「「えぇぇええぇぇぇぇぇぇええぇぇええぇえええぇぇぇぇえええぇええええぇええぇぇえええええぇぇえぇぇえええぇぇぇぇえええぇええええぇええぇぇえええええぇぇえぇーっ!!」」
二人は絶叫。
大地は、先程の思考により、月夜に誰か思い人がいるという所までは推理出来ていた。
しかし――まさかその相手が、泡水透士郎であるとまでは推察出来ていなかったのだ。
衝撃の事実!!
けれど大地は冷静だった。
(落ち着け……まだ確定した訳じゃない……いつもの静さんの勘違いかもしれないじゃないか……! ここで、そうと決めつけるのは早計だ!)
すると、姫が決定的な言葉を放つ。
「月夜さん! 透士郎さんの事が好きだったんですか!?」
「…………うん」
この言葉を受けた月夜は、即答で頷いた。
確定だった。
月夜が透士郎を好きだという事実が――確定した瞬間だった。
この即答を受け、大地と姫だけでなく、爆弾を投下した本人である静も驚いた。
彼女の考えでは、月夜はこの爆弾を受け、醜く慌てふためく事だろうと踏んでいたのである。それはもう……愛梨を前にした太陽の如く。
しかし現実は違った――
月夜は冷静にその爆弾を受止め、恥ずかしげもなく、そう頷いた。
透士郎の事が好きだ――と、頷いた。
この反応を受け、静は納得した。
何故、太陽がそんな回りくどい真似をするのか理解に苦しんだものだが、理解した……。
(そりゃ……そんな回りくどい手も使いたくなるよね……。今の月夜を見てたら……)
月夜が質問に答える。
「静……私は告白しない。だって私は闘いに……海外へ行くんだから。だから告白しない」
「……そっか。そー言うと思った」
「だけど――――もし私が無事に帰って来たら、その時は……」
「ん、りょーかい。つまらない質問してごめんね」
「全然、構わないわよ」
その時は――
果たして月夜は、その言葉に続けて何を言おうとしたのか?
その疑問が晴れる事なく……時は進む。
いよいよ秋が終わり、本格的に最後の季節へ近付いていく。
間もなく――月夜が日本を立つ日が近付こうとしていた。
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