【第57話】ブラコンの親友の妹……かぁ……
前回のあらすじ。
太陽が変な物を購入しており、月夜はそれをブラジルへ飛ばした。
その後、透士郎が家にやって来て、一緒に夕飯を食べに行くことになったのであった。
夜道を並んで歩く月夜と透士郎。
「何を企んでいるの?」
「何が?」
「急に私を夕飯に誘うなんて、何を企んでるの? って聞いてるの」
「別に何も企んでねぇよ……ただ、誰かと一緒にご飯が食べたくなった。それだけだ」
「ふぅん……じゃ、私はあんたの暇潰しにまんまと利用されちゃったって訳か……なんか癪に障るなぁ……」
「誰か、つっても……誰でも良かった訳じゃねぇよ」
「……え?」
「オレは……お前だから、誘ったんだよ」
「……っ! …………それって……」
少し顔を赤らめる月夜。
透士郎は言う……。
「最近……太陽や忍……そして千草達を、前みたいに気楽に誘う事が出来なくなっちまったからな……オレもオレで、色々と考えちまう……」
「………………」
(色々と周りの状況が変わって……寂しいと思っていたのは……私だけじゃなかったんだ……)と、少し心が晴れた月夜なのであった。
「わ……私も……」
「?」
「私も実は…………寂しいなって……思ってて……」
「ん、素直でよろしい」
「あんたに誘われて……凄く、嬉しかった……よ……」
「……そっか」
透士郎が、ニカッと笑った。
「じゃあオレ達――一緒って事、だな」
吊られて……月夜も笑ってしまう。
「そうだね」
顔を合わせ、笑い合う月夜と透士郎。
透士郎が両腕を夜空へ突き上げながら、言う。
「よっし! いっぱい食うぞ!」
「で、何を食べに行くの?」
「ん? んなもん決まってんだろ――――ラーメンだ」
透士郎は、無類のラーメンマニアなのだ。
この街の至る所にあるラーメン屋を全て網羅している程の。
これから行くのは、そんな透士郎オススメの店なのである。
従って――
「ズルルル…………っ!! おっ、おいっしぃーーーーっ!! 激うまなんですけどぉー!!」
「ははっ! だろ?」
美味である事、間違いなしなのである。
大満足な、月夜であった。
確かに、この店のラーメンは美味しい。
しかし――大満足の理由は、それだけではなかった。
誰かと一緒に食事をしている――この状況も、月夜の心を満たしている……。
そして、月夜もまた――――
「美味いだろ?」
「うん! めちゃくちゃ! ここって、替え玉とかあるの?」
「あるよ。しかもタダで」
「エグいじゃん!! 頼もーっと! すいませーん!」
その誰かは、誰でも良い訳ではないのだろう……。
「ご馳走様でしたー!」と、店を出る月夜と透士郎。
ご満悦な表情の月夜。
「あー! 美味しかったぁー。こんな美味しい店があるだなんて知らなかったよー」
「オレも、まさかお前があそこまで大食いだとは知らなかったよ……替え玉十回って……その小さな身体のどこに収納されてんだよ……」
「え? さっきウ〇コとして出たけど」
「品性の欠片もねぇ発言……女子の言葉とは思えねぇ……。流石は太陽の妹って感じだな」
「それって褒めてる?」
「決して褒めてる訳ではないな。まぁ……バカにしてる訳でもない」
「?」
「自分を偽らず、猫を被らず……素直にそういう事を言ってくれるのって、お前がオレに対して心を開いてくれている証拠だろ? 素直に嬉しいよ」
「…………な、何よそれ……あんたとはもう、長い付き合いなんだから……気を使わないのなんて、当たり前じゃないのよ」
「……だな。それもそうだな」
「………………っ!!」
そう言って満面の笑みを浮かべた透士郎を見て、月夜の顔が一気に赤くなってしまう。
心臓の音が聞こえる。
ドクン……ドクン……ドクン……と高鳴る、心臓の音が。
(な……何なのよ!? この感じ……何でこんなに熱くなるのよ……!! 意味分かんないんだけど!?)
ここで――月夜は以前、愛梨に言われた言葉を思い出す。
『近い内に必ず――
月夜ちゃんの前に、とても良い人が現れるから。その人の事、絶対逃がしちゃ駄目よ』
(まさか……。
まさか――白金さんが言ってた……良い人って――――)
「月夜! こっちへ来い!」
「へ!?」
突然、透士郎が月夜の腕を引っ張り、建物と建物の間へ引きずり込んだ。
薄暗く、誰もいない場所へ……。
「ちょ、ちょっとあんた! いきなり何を――」
「しっ! 少し静かにしとけ」
「?」
透士郎に口を塞がれ、沈黙を促される。
最初は意味が分からなかった月夜だが……数分後、その行動の意味を理解する。
聞こえ始める、多量のバイクの音。
周囲に多大な威圧感を与えているそんな爆音と共に、数十にも及ぶバイクに乗った者達が、二人の前を次々と通り過ぎて行く。
全員が、同じ特攻服に身を包んでおり。
背中には揃って、こう書かれている――――
『一殺入魂』と。
そして……暫くすると、そのバイクの群れは通り過ぎて行った。
先程までの騒音が嘘のように、周囲が静まり返る。
すると、月夜の口を塞いでいた手を解き。
「もう……大丈夫だな」と、道へと戻った。
「ねぇ……今のがひょっとして、最近この辺りを荒らしまくっているって噂の暴走族?」
「噂じゃねぇらしいぞ」
「?」
「事実だそうだ」
「……ふぅん……じゃあさ、今隠れずに一緒にとっちめてやれば良かったじゃん。私達なら余裕っしょ?」
「月夜……」
神妙な面持ちで、透士郎が言った。
「そうしても良かったが……オレ達はもうヒーローとしてじゃなく、普通の人間として生きてるんだ。こういうのは、普通の人間として――国家権力に、任せるべきなんだよ」
「…………そっか……そうだよね」
そう……二人のヒーローとしての活動は、既に終わっている。
アダンを倒した――その日に。
普通の人間は、凶悪な暴走族相手に単身で挑んだりしないものだ。
だから敢えて、手を出す事はしない。
「あくまで……こちらからは――だけどな?」
透士郎はそう呟くと……月夜に向かって手を差し出した。
「ま、帰ろうか。もう遅いし」
「…………」
月夜はその手を取るべきか否か数秒迷った挙げ句……取った。
「うん……」
手を繋いで夜道を歩く……。
満天の、星空の下を。
この幸せな時が、月夜にとある疑念点を忘れさせた。
先程多量に目の前を通り過ぎて行った暴走族……。
その中の一人に――知った顔があったような……そんな疑念を、(ま、そんな訳ないか)と、軽くいなせる程度には……彼女は今、幸せであった。
そして、万屋家前……。
幸せな時間は、終わりを告げる。
「もう、太陽達も帰ってる頃だろう。ここで帰らせてもらうよ」
「うん……今日はありがとう。ラーメン、美味しかった」
「ああ。それじゃあな」
手を軽く振った後、透士郎が背を向ける。
そしてどんどんを遠ざかって行く。
どんどん……。
…………月夜は、走り出した。
勇気を出して――声を上げる。
「と…………透士郎、さんっ!!」
「へ!?」
突然聞こえた月夜の声に、驚きつつ振り返る透士郎。
月夜が、声を震わせながら……言う。
「今日……あなたが来てくれて……本当に、嬉しかった!」
「……月夜……」
「ラーメンも美味しかったし! あなたの……知らない一面が見れた事が、嬉しかった! 何より……寂しくなかったの! だから……だからぁ――――
また……一緒に、行きません……か?」
「…………」
透士郎は優しく微笑みながら、月夜の頭を撫でた。
「次も、ラーメンで良いか? 味噌ラーメンが美味しい店を知ってるんだ」
「う、うん! もちろん! 行きたい!!」
「オッケー! じゃあまた、連絡するよ」
「うん! 待ってるから! 絶対……絶対に! 行こうね!!」
「ああ――絶対に、な」
「うんっ!!」
月夜の、その心からの満面の笑顔を前に。
透士郎もまた、高鳴る自分の心臓の音から目を背ける事が出来なくなってしまった。
(ブラコンの親友の妹……かぁ……)
そうじゃなければ……なぁ……。
――――と、透士郎は思ったのであった。
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