【第56話】飯、食ったのか?


 月夜は黙々と勉強していた。

 寂しさを紛らわす為に。

 そんな時、一通のメッセージが届いた。


 皐月からのメッセージだった。


『ごめんなさい。剛士くんの予想外な物分りの悪さのせいで、帰るのが遅れます(´;ω;`)

 びっくりしています。

 本当にごめんなさい……<(_ _)>』


「………………」


 月夜は返事を返す。


『いいよ(^^)

 ゆっくりしてきて。

 ご飯はこっちで用意するからさᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ』


 メッセージを打ち終えた後、スマホを置く月夜。

 顔文字の種類とは裏腹に、彼女の表情は……。


(これで良いんだ……。これで……火焔さんも受験生なんだ。それも、私よりも難易度の高い試験に挑むんだ……。コンビニ弁当ばかり食べて貰う訳にはいかないもんね……。身体は……大事にして貰わないと……)


 再びペンを握り、勉強に励もうとする。


(夕食なんて……別に食べなくても平気だし。そんな暇があるなら、火焔さんを見習って、勉強勉強っ!)


 泣きそうになる、弱い気持ちを必死に押さえ込みながら。

 しかし……。


 ペンを持つ手に、力が入らない。


(皆が……遠い所へ行っちゃった気分……。何か……寂しいなぁ……)


 すると、このタイミングでピンポーンとチャイムがなった。


「…………誰だろう? ひょっとして、兄貴かな?」


 等と思いつつ、月夜は階段を下り、玄関へ。

 玄関の扉を開けるとそこには――


「宅配便でーっす!」


 宅配のお兄さんがいた。


「あ、はいはい……」

「ここにサインいただけますかぁー?」

「はい」

「ありがとうございましたぁー」


 月夜が荷物を受け取ると、宅配のお兄さんはそそ草と帰って行った。

 少しガッカリする月夜。

 

「てゆーか誰の荷物なの? 兄貴宛? うーん……中見ちゃお」


 包装紙を破り、中を確認するという暴挙に月夜は出た。

 良い子は絶対に真似をしないようにしましょう。

 箱の中には見知らぬ物体が入っていた。

 それに触れてみる。


「何だろうこれ……ピンク色……うわ、ぷにぷにしてる……。それに真ん中に穴空いてる……ペン入れか何かなのかな? でも立ちそうにないしなぁ……相変わらず兄貴の奴、変な物買ってるなぁ…………ん? よく見たら、パッケージに女の子の絵が書いてある……萌え系ってやつ? ん? 取り扱い説明書? こんな物に、取り扱い説明書が付いてるの? なになに……」


 月夜は、取り扱い説明書を読み始めた。


「えーっと……まずローションを穴の中へと投入する……ローション? あ、これか……てゆーかローション? ぷにぷにを更にネトネトにするの? 何なのこれ? 本当に何をする道具なの? ん? あ、商品名が書いてある……オナ〇ール? 何? オ〇ホールって……C、H、INGA……チンガ? って読むのかなぁ? あ、用途も書いてある……なになに……『まるでのような質感、思う存分抜き倒そう』? 抜く? クギでも抜く道具なのかな? ローション使って抜きやすく……的な? ん?」


 そして月夜は……いよいよ、その単語を目にする事になる。


「使用法その四――準備が出来たら後はオカズを手に――思う存分チ〇コを抜き差ししちゃおう……え? 何を……抜き差しするって……?」


 チ〇コ。


「え? あ……こ、コレって……コレってもしかして……」


 ようやく気付いたようだった。

 この謎の物体の用途方法に。

 顔を真っ赤にして、ワナワナと震える月夜。

 勢いよく取り扱い説明書を破り、叫ぶ。


「何ちゅうもん買っとるんや!! あの糞どエロ糞兄貴はぁぁああーーっ!!」


 月夜の念動力にて、が入った箱がフワリと浮き上がり……そして――


「この間モジモジしていた理由はコレかぁぁあーーっ!! こんな如何わしいもの、家に置いとけるかアホぉーーーーっ!!」


 猛スピードで空に向かって発射され、あっという間に夜空の星となった。

 後日、ブラジルで発見されたとか、されなかったとか……。

 何にせよ、ソレは結局、太陽の手に渡る事はなかった。

 お金の払い損である。


「あの糞バカ糞エロ兄貴! 帰って来たらとっちめてやるんだから!! あと、白金さんに言いつけてやるんだから!!」


 「まったく……」プンプン怒り心頭な面持ちで、月夜は自分の部屋へと戻って行く。

 再び勉強机に座り、気を取り直して勉強を再開しようとした、その時――



 ピンポーン。


 またしてもインターホンが鳴った。

 イラッとする月夜。


「……今日はやたらと勉強に邪魔が入る日ねぇ……」


 ピンポーンピンポーンピンポーンとインターホンを連打する来客。

 部屋から「今行きまーす」と月夜が声を上げると、それは止まった。


「また宅配便かなぁー? 次は何が届いたのかしらぁ? また如何わしい物だったら、次はアメリカまで吹き飛ばしてやるんだから」


 そして月夜は玄関の扉を――


「はーい、荷物いただきまーす。サインどこにすれば良いですかぁー?」


 開けた。


 開けるとそこに――



「あん? 荷物? サイン……? 何言ってんだ?」

「え……?」


 泡水透士郎が立っていた。

 ポカンとしてしまう月夜……。


「な、何であんたがここに? 何の用……? 兄貴なら今、いないけど……」

「知ってる。白金とデートしてんだろ」

「あ、知ってたんだ……じゃあ、皐月姉に用事? 残念ながら皐月姉も今……」

「火焔先輩ん家に夕飯作りに行ってんだろ? それも知ってるよ」

「あ、これも知ってるんだ。ふむふむ………ん? じゃあ――あんた一体……何しに来たの?」


 何をしに万屋家に来たのか?

 その問いの答えを……透士郎が口にする。


「なぁ月夜」

「な、何……?」

「お前……飯、食ったのか?」

「い、いや……食べてないけど……」

「ははっ、だと思った」

「何それ? 私が料理作れない事、笑いに来たの?」

「料理は出来ないけど、って聞いたぜ」

「はぁ?」

「…………。実はさ、オレも――

「……そ、そうなんだ……」

「なぁ、月夜……」

「何?」

「今から――――


 一緒に食べに行かねぇか? 夕飯」


「…………へ?」


 そんな訳で。

 透士郎と夕飯を食べに行く事になった、月夜なのであった。


 次回へ続く。

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