【第49話】万屋太陽と白金愛梨⑥


 太陽を見送り、下校を始める忍、千草、透士郎の三名。


「それにしても……感慨深いな」

「……ああ……」

「だよねぇー。やっぱりは、オイラ達にとっても特別だもんねぇー」

「……だな」


 透士郎は思い出す。

 かつての太陽と愛梨の関係を。


『人の心をかってに読むな! 殺すぞ!!』

『あらあら……物騒なこと。読まれたくないような事考えているのがよくないんじゃない?』

『何だとゴラァ!!』


(……それが今じゃ、だもんな……)


「む? 何を笑っているのだ? 透士郎」

「いいや……何でもねぇよ。あーあ! オレも彼女欲しいなぁー!!」


 「あ、そういえば」と、千草がとある事に気付く。


「太陽の告白が成功したらさぁー。この中で彼女いないの、透士郎だけになっちゃうんだよねぇー。ニヒヒ」

「げっ! オレが必死に目を背けていた現実を、つつく様な真似しやがって! 見てろよー! オレだってー」


 地団駄を踏む透士郎。

 「あはは」と笑う忍と千草。


「心配せずとも、きっと透士郎ならすぐに出来る」

「そーそー。何てったって、変態のオイラ達にだって出来たんだからさー!」

「……お前ら……。まぁ……確かに……そうだな……。これまでの人生で、一番説得力のある励ましだな」

「…………それそれで……」

「腹が立つんだけどぉー?」


 「ところで……」透士郎が疑問に思う。


「太陽の奴……白金と約束した場所があるみたいなんだけど……一体どこなんだ? オレはてっきり、校内のだと思っていたんだが……」

「アダンと最後に闘った場所」

「え?」

「そう言ってたわよ……愛梨が」

「宇宙」


 彼氏である忍が、突然現れた宇宙に反応する。


「ちょっと……私の彼氏を不用意に連れ回さないで欲しいものね」

「あ、ああ……ごめんごめん。忍、宇宙と一緒に……」

「いいわよもう……私も、あんた達と一緒に帰るから」

「え? 珍しいな」

「愛梨がいないしね……それに――今日は何だか……あなた達と一緒に居たい気分だし」

「…………そっか。そうだよな。なら、一緒に帰ろう」

「うん」


 宇宙も加わり、四人並んで歩き始める。

 ふと、透士郎が気付いた。


「アダンと最後闘った場所……?」

「ええ……恐らくあのね」

「あそこ……になってる筈じゃ……」


 立ち入り禁止区域――その言葉に、忍と宇宙が顔を合わせほほ笑み合う。


「別に良いじゃない。そういう所が、案外素敵な場所だったりするのよ」

「はぁ……素敵、ねぇ……。それにしても、あの場所って……ここからそこそこ遠くねぇか?」

「それも大丈夫よ」

「いや、太陽は限界突破すりゃ大丈夫だろうけど……白金の方が……」

「大丈夫。だからあの子、今日――――昼休みから早退して、そこへ向かってるから」



 宇宙の言葉通り、愛梨は今……その場所に居た。


 アダンとの最終決戦を繰り広げた地……。

 青春が始まった地に。


 闘いの痕跡が今も尚残っている。

 あちこちに隕石が落ちたのかと思う程の大きな穴が空いており。

 抉られた地面や木が、広範囲あちらこちらに見受けられる。


 そんな中で、工事用だろうか? 謎に備え付けられているベンチに座り、愛梨は、待つべき人を待っている。


「早く……着きすぎちゃったかなぁ……?」


 おもむろにスマホを取り出し、時間潰しを始める。

 画面が灯ると、そこにはいくつかのメッセージが送られていた。

 この場所で、メッセージを開く。


 先ずは静からだった。

『お疲れさまです!! 良い連絡おまちしております(笑)

 太陽さんが怖気付いたら、あの立派なお尻を蹴り飛ばしてやってくださいねっ!(「 ˙◁˙)」アチョ-☆』


 次は、姫から。

『こんにちは(*^^*)

 いよいよですね! 昔のように……本音でしっかりとぶつかってください!!

 連絡おまちしております( . .)"ペコリ』


 大地から。

『こんにちは。

 あのお二人がようやく……と、凄く感慨深いです。

 応援しています!』


 そして――


 最後は月夜から。


『約束破ったら、許さないから』


 それらのメッセージを見て、愛梨はクスッと笑った。

 (それぞれ個性があるなぁ……)と、面白かったのだ。


「了解しました」


 それぞれに返信をし、スマホで時間を確認。

 確認すると、スマホを仕舞う。


「もう……そろそろ……かな?」


 愛梨は、目を閉じて……その時を待つ。

 日光が暑い……日傘でも持ってくるべきだったかな? そんな風に思考していた、その時だった――


 どーん! という物音と共に、砂煙が舞った。


「…………なるほど、そういう登場の仕方をするのね。あなたは」


 徐々に、その砂煙が晴れていく。

 中に隠された一つの影が、少しずつ顕になっていく。

 砂煙が完全に晴れ、そこに現れたのは……当然、この男――


「よぉ……白金。待たせたな」

「ううん、今来た所よ。別に待ってないわ……長旅ご苦労さまでした――――太陽くん」


 万屋太陽だった。


「……悪かったな。わざわざこんな所まで足を運んでもらってよ」

「うーん。そうだね。それを言うなら、もっと早く言って欲しかったかも」

「そっか……流石に昨日の今日ってのはやり過ぎか。すまなかったな」

「いえいえ。別に謝ることでもないのよ」

「一刻も早く……伝えておきたかったからな」

「?」

「オレはさ……星空の言う通り、腰抜けなんだよ。だからさ、いざ『やろうっ!』って決めても、時間が経っちまうと、尻込みしちまうんだよな……。だから、出来る限り早い内に動いちまおうって思った訳だ」

「うん……知ってる」

「だろうな……何せお前は――んだもんな」

「うん……よく分かってるじゃないの」

「当たり前だろ? 多分オレが……

「うん……そうだね」

「白金……」

「何かな? 太陽くん?」


 見つめ合う二人……。

 暫く見つめ合った後、太陽が切り出した。


「オレは今日――お前に伝えたい言葉があるんだ」


 伝えたい言葉――


「お前に伝えたい気持ちが……」


 伝えたい気持ち――


「うん……。だから、ちゃんと……言葉にしてね?」

「…………。もちろんだ」

「…………」

「…………」


 見つめ合う二人の心臓が高鳴る。

 ドクン……ドクン……ドクン……と……。


 間もなく――が、訪れようとしていた。

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