【第48話】万屋太陽と白金愛梨⑤


 の朝――太陽は、いつもより早く目が覚めた。

 いつもより早く準備をし、いつもより早い時間に朝食のテーブルについた。

 なので普段なら先に、準備をして学校に向かっている月夜が居る。


「え? どういう風の吹き回し? あんた今日早くない?」

「……眠れなかったんだよ……」

「眠れなかった? 能天気バカのあんたが……? 今日、何か緊張する事でも……あ…………」


 言葉の途中で、月夜は気が付いた。

 彼女には心当たりがあるのだ……太陽が、緊張してしまう程のイベントに。


(……そっか……、なのか……)


 先に朝食を食べ終えていた月夜は、食器をまとめ、洗い場まで持っていく。

 食器を洗った後、手を拭きながら、朝食を食べている太陽の横を通り過ぎる。


「ねぇ兄貴……」

「ん?」

「白金……さん、ってさ……良い人だよね?」

「……何を今更……分かりきってる事だろ」

「うん……そだね。分かりきってる事だ」

「つーかアレだな。お前が、白金を話題に出すなんて珍しいな。あんだけ嫌ってる感じだったのに」

「まあね……ちょっと、心境の変化があったから……」

「うむ、良い事だ。きっとその方が、白金も喜ぶ」

「…………だろうね」


 月夜はカバンを持ち、「行ってきます」と家を出ようとする。


「ああ、そうそう……兄貴」

「ん?」

「へ?」


 頑張ってね――その言葉を残し、月夜は一足先に家を出た。


「頑張って……て……何を……?」


 キョトンとしている太陽。

 そんな太陽に、皐月が声を掛ける。


「きっと……見抜かれているのよ。今日、あなたがしようと思っている事を」

「あ……バレバレ?」

「うん、バレバレ。隠す気あるのってくらい、顔に出てるわよ」

「そ、そうなのか?」

「早起きしてるし、態度にも出ているわ」

「…………」


 (確かに……)と、思う太陽だった。


「心配しなくても大丈夫よ。きっと……愛梨ちゃんも覚悟している筈だから」

「覚悟……?」

「うん、覚悟。だから思い切って、当たって砕けてきなさい」

「当たって砕けたらフラれてねぇか?」

「……頑張ってね。太陽」

「…………おう」


 そんな会話を交わしつつ、朝の準備を終えた太陽は、いつもよりも早い時間に家を出た。

 家を出た彼を迎えたのは、予想外の人物であった。


「おはよう、万屋」

「星空? お、おはよう」


 宇宙だった。

 彼女と二人っきりで会うのは、以来である為、少し気まずそうに挨拶を交わした両名。


「ど、どうしたんだよ……待ち伏せか?」

「たまにはね……万屋と一緒に学校行くのも有りかなって思って」

「……忍に気まずいんだが……」

「大丈夫。忍くんには許可を得ているわ」

「そ、そうか……」

「行きましょう」

「……おう……」


 並んで歩く二人……。


以来ね……ちゃんと話をするのは」

「あ、ああ……」

「謝罪をするのが遅くなってしまったわね……ごめんなさい。私……あなたに酷い事を言ってしまったわ……」

「良いよ。オレが腰抜けだったのは、本当の事だし」

「いいえ……例えそうでも、私が酷い事を言った事には変わりない……あなたと愛梨との関係には、色々なものが渦巻いている事を私は知っていたのに……星空宇宙、人生最大の不覚だわ」

「色々と……ねぇ……」

「だから本当にごめんなさい……」

「だから謝らなくて良いって。お前にケツを蹴られたから、オレは今こうして勇気を出そうって気になれたんだ……ありがとうって気分だよ」

「勇気を……そっか……」

「なぁ? 星空……」


 太陽が足を止める。それに合わせて、宇宙も。


「何?」

「お前さ、あの時……告白なんてするものじゃないって、アドバイスくれたよな? 今も……そう思っているのか?」

「全然? 今は――――あの時、勇気を出して告白して良かったって思ってるわよ」

「そっか。そう思えて……本当に、良かったな」

「ええ……そうね……」


 そして二人は再び歩き出す。


 学校生活は、いつものように過ぎ去っていった。


 いつものように授業を受け。

 いつものように昼休みを過ごし。

 いつものように昼食をとり。

 いつものように授業を終える。


 そして、時は放課後へ――――


「よし! 行くか!」


 勢い良く、椅子から立ち上がる太陽。

 ズンズンと歩き出す彼に、三つの声が掛けられる。


「いよいよだな、太陽」

「やっとこさ、ヘタレ卒業する気になったかぁ」

「また日和らねぇ事を、祈っとくよ」


 忍、千草、透士郎の三名だった。


「お前ら……」

「隠してるつもりだったろうが……バレバレだったぜ?」

「そ、そうか……?」

「うんうん! いつも授業中、バカみたいに寝てるのに、今日はちゃんと授業受けてたもんなぁー。分かりやすいくらい緊張してたよね?」

「くそ……まさか、普段の不真面目さが足を引っ張るだなんて……」

「太陽……告白とは、良いものだぞ」

「忍……ああ、分かってる!」


 そして、親友である三名は背中を押して送り出す。


「「「言って来い! 思いっ切り!! ぶちかませよ!!」」」

「おうっ!!」


 太陽は、力強い返事をして歩き出す。


 事前に手紙で伝えていた――――約束の場所へ……。




 彼と彼女の出会いは中学二年生の時。

 二人の出会いは最悪なものであった。

 そんな最悪から……二人は少しずつ、関係を構築していった。

 時にぶつかり合い……時に助け合い。少しずつ。

 二人は、世界を救う戦士となった。

 いつしか二人は友達になった。

 いつしか二人は、友達以上の関係になった。

 そして二人は共に――――


 世界を救ったヒーローとなった。


 その後からだ……太陽が、愛梨との関係をに考え始めたのは。

 世界を救った後――


 太陽と愛梨の、新たなステージへの扉は……この時、開かれた。


 終わりであり……始まりの地――


 太陽が選んだ場所は――その場所だった。


 永きに渡る闘いが終わり……そして、


 最終決戦の場所。

 最強最後の敵――アダンを、皆の力を合わせて倒した場所。


 激闘の跡が、今も尚残るその荒野で……愛梨は、太陽の事を待っている。


 、間もなく訪れようとしていた。

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