【第47話】万屋太陽と白金愛梨④


 最近……万屋皐月は、定期的に同級生である火焔剛士の家に通っている。

 一人だと無理をしてしまい、コレだと決めると周りを気にせず突っ走ってしまう剛士の事を心配しており。そんな彼を管理する為に足を運んでいる。


 今日も今日とて、皐月は剛士宅を訪れていた。

 皐月は料理。

 剛士は勉強に励んでいる。


 そんな中で皐月が、昨日あった驚きのエピソードを剛士に向かって嬉しそうに話した。

 青春そっちのけで、勉強へ一球入魂の姿勢を崩さない剛士も、を耳にすると流石にペンを置いた。


「月夜と白金が?」

「うん。昨日帰ってくるの遅かったから、何をしていたのかと思いきや……。愛梨ちゃん、勇気出したわね」

「へぇ……そっかそっか。和解出来そうか? あの二人」

「出来そう、じゃなくて……みたいよ」

「え? マジで?」

「マジで」


 皐月は、昨日の月夜の言葉を思い出す。


『ねぇ……皐月姉……。白金……って、良い人だね……』


 その変貌っぷりを思い出し、クスッと笑ってしまう。


 「つーか……」と、剛士がほのかに抱いた疑問を述べる。


「あの二人って……何でそんなに仲悪かったんだっけ?」

「太陽を取られる……って思ってたのが一つ。もう一つは、知らなかったからでしょうね……」

「知らなかった?」

「ええ……。白金愛梨という女性の事を、何も……」


 「ああ、なるほど」と、ここで剛士はピンと来たようだ。


「そういえばはまだ……」

「そ、月夜はまだから……」

「太陽の過保護でな」

「それと、私の……ね。…………。ま、何にせよ、これで愛梨ちゃんとしては大きな壁を乗り越えた事になる……。後は……」

「太陽が勇気を出すだけ……って事か」

「そ……。だね……」

「………………」


 皐月の表情を、じぃーっと見つめる剛士。


「ん? どうしたの? 剛士くん。人の顔じろじろと見て……顔に何か……」

「お前は――嫉妬しなかったのか?」

「え?」

「お前もどちらかと言うと、ブラコンだったろ? なのに、お前は月夜みてぇに白金の事、避けてなかったなぁ……と、思ってな。どうなんだ?」

「どうなんだも何も……答えはさっき言ったじゃない」

を知ってるか否か……か?」

「うん……それと私は…………も、知ってるから……」


 皐月は思い出す……昔を……。

 そして剛士も……。



『一年A組出席番号三十一番、万屋太陽……最初に言っとく、オレは化け物だから近寄るな。近寄ったら殴る……以上』


『転校生の、白金愛梨です。私は魔女ですので、嫌な思いをしたくないのなら、関わらないでください』


『君も同じく化け物なんだね。万屋太陽くん』

『あぁ? 名乗ってねぇのに何で名前を知ってんだ? つーか、初対面の人に化け物とか、失礼な奴だな……オレはお前が嫌いだ。近寄んな、あっち行け』

『……つれないなぁ』


『だからオレに近寄んなって!! どうせお前も――オレの事、化け物扱いして離れてくんだろうが!! もううんざりなんだよ!! 化け物化け物化け物って……鬱陶しいんだよ!!』


『私はただ……あなたと同じ怪物だから、あなたと一緒にいたいだけ……。それ以上の感情は何も持ち合わせていないわ。恋人になろうとか、親友になろうとか、友達になろうとか……そして――知り合いになろうとする気すらない。あなたを含む……誰とも……』

『……闇深そうな考え方してんなぁ……』

『そうね……あなた達の闇を、水溜まりと例えると、私の闇は海だから……』

『けっ……自分一人が不幸って面しやがって……気に入らねぇな』

『その言葉、そっくりそのままお返しするわ……万屋太陽くん』


『うるせぇなぁ!! あんたに何が分かんだよ!! オレの力は、あんたみたいに隠そうとして隠せるもんじゃねぇんだよ!! ちょっと傷付きゃすぐバレちまうんだよ!! 分かるか!? その度に気持ち悪いとか化け物とか言われるオレの気持ちが!! そのせいで……妹も虐められる辛さが!! てめぇに分かんのかよ!!』


『なぁ……白金……。オレはお前と――――友達になりたい』


『私に近寄るな!! 腑抜けて……私を裏切ったあんたなんかに!! 私は何も用がない!! さっさとこの部屋から出て行って!! あっちいって!! 二度と私に関わるな!!』


『……お婆ちゃんは……私の……唯一の人だったのにぃ……死んじゃったよぉ……』


『馬鹿野郎!! 何やってんだ白金ぇ!!』

『離して!! もう嫌なの私は!! 母さんにも、そして父さんにも見捨てられて! 周りの人から不気味がられて!! 天変地異があったら私のせいにされて!! そして……私の唯一の味方だった……お婆ちゃんも…………もう嫌なの!! こんな世界!! 生きてたって……辛い事しか……ないんだもん……』


『なぁ……白金……?』

『何よ……万屋』

『一緒に……?』

『は?』


『太陽くんっ!!』

『…………しろ、がね……か……』

『あ……あぁ…………良かったぁー……! 生きてた……太陽くんが、いぎてたよぉー……! 嬉しいよぉー!! うわぁぁぁーん……!』

『ばーか……そんな簡単に死んでたまるか……死にたくても……死ねねぇのが、オレの力……なんだから、よ……』

『うわぁぁぁーーん!!』

『……なぁ……白金、愛梨……』

『ひっぐ……なに……?』

『オレと……友達に、なってくれねぇか……?』


『なぁ白金……もう二度と……死のうとなんてするんじゃねぇぞ。生きる事に全身全霊を尽くせ。お前の友達であるオレと約束しろ。約束を破ったら……承知しねぇぞ』

『……うん。分かった……約束するよ――

『え?』

『ん?』

『今、名前で呼んだか?』

『はぁ? 何言ってんの。頭打って頭可笑しくなっちゃったんじゃない? 脳細胞は再生しないのね』

『何だとぉ!?』

『あははっ!』



 これらの光景を思い出し……皐月は続けて声を落とした。


に……私が、嫉妬する理由なんてないわよ……幸せになって欲しい……心から、そう……思っているわ……」

「……そっか。そうだよな……」


 剛士が納得のいく、百点満点の解答だったようだ。


「ようやく……か……」

「そうね……ようやく……ね」


 「ちなみに剛士くん」と、皐月が思いついたように言う。


「確かに私は、太陽と愛梨ちゃんの幸せを願っているけど。それと同時に――――私自身の幸せも、望んでいるんだからね?」

「りょーかい。さ、勉強勉強」


 そそくさと勉強を再開し始める剛士だった。

 ひたむきに頑張る。そんな彼の姿を見ながら、皐月は薄く笑って呟く。


「待ってるからね……剛士くん。……がんばれっ」


 グツグツと、料理が煮上がる音がする。

 良い香りがしてきた。


 間もなく、皐月の手料理が完成しようとしていた。

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