【第37話】と、言う事は……?
これはまだ、十二人の戦士が全員出会う前のお話だ。
当時、海波静は中学二年生だった。
彼女の力は【借力】――万人力とも呼ばれる巨大な力を、彼女は生まれながらにして持っていた。
『やーい、怪力女ー!』
『みんな逃げろー! ゴリラが来たぞー!!』
『化け物にぶん投げられるぞー!!』
彼女は、そんな言葉をよく、投げ掛けられていた。
(どうして……そんな事を言うの……? 私に……こんな力があるから……? だったら……こんな力、要らないよ……)
彼女は、自分のそんな力が嫌いだった。
そして、そんな力を持つ自分の事も……嫌いだった。
中学に上がる頃には、静は完全にその力を隠していた。
徹底的に、隠していた。
もう怪力女扱いされるのも、ゴリラと呼ばれるのも、化け物と揶揄されるのも、懲り懲りだったからだ。
しかし、それでも――大事に思う人を守る為に、その力を振るってしまうのが……海波静という人間だった。
中学校内での、たった一度の【借力】の発動。
そのインパクトは凄まじく
たった一度の披露で、またしても化け物などと噂をされるようになってしまった。
静は孤立していたのだ。
(人を助けたのに……何でこんな思いをしなくちゃいけないんだ……! こんな力……ああ……もう……どうでもいいか)
マイナス思考に堕ちていく静。
その日は、突然訪れた。
楽しくなかった学校の帰り道――とある一人の男子高校生が、不良三名に囲まれていたのだ。
むしゃくしゃしていた静は、腹立ち紛れに傍にあった電信柱を引っこ抜き、持ち上げ。これで殴るぞと言わんばかりに、不良達を威嚇してその男子高校生を助けたのだ。
(どうせ……助けたのに、この男子高校生も、私の力にビビってお礼も言わず逃げ出すんでしょ……? こんな力なんて……――)
そう思っていた。
暗く深い、マイナス思考で……。
しかし――
「すげぇなお前!! すげぇ力じゃん! ありがとう!! 助かったよ!!」
「え……?」
満面の笑みで、そうお礼を述べてくれたのだ。
怖がることなく――笑顔で。
「私の力……怖くないの?」
「怖い? どこがさ! オイラはその馬鹿力で助けてもらったんだよ? 良い力じゃん! 羨ましいよ!!」
その言葉は……。
静にとって、凄く――嬉しい言葉だったのだ。
心の底から……欲しかった言葉だったのだ。
「――……その時だな。私が、先輩の事を好きになったのは……」
時は現代。
場所は河川敷。
まぶたを腫らした静が、そう吐露した。
「ふむ……」と、千草は自慢のアフロをモフモフと触りながら返答する。
「それ……告白みたいになってない? オイラに言って大丈夫だったの?」
「あ……」
静は(しまったぁ……!)と、心の中で思った。
「まぁいいや。どうせ隠してもバレてた事だろうし、いずれ言おうとしてた言葉だし」
「何それ……そんな雑な告白ある?」
「私だって嫌でしたよ……本当は、全国決めてから告白するつもりだったのに……台無しですよ……」
と、ブー垂れる静。
そんな静を見て、千草はほっとする。
「ま、元気になってくれたみたいで何より」
「散々泣きわめきましたからね。もう大丈夫です! その……ありがとうございました……」
千草の胸を借りて泣いていた――先程までの光景を思い出し、(恥ずかしい事をしたー)と、今更静は顔を赤らめる。
落ち着いて我に返ったら悶々としてしまうのは、よくある事である。
「告白までして、何でそっちで照れてるのさ……」
「そ、それも含めてですよっ! もう……で、どうなんです?」
「?」
「そ、その……答えは……?」
「あー……それなんだけどね……静、きっとその気持ちは、勘違いだよ」
「え……」
千草が、細々と答える。苦笑いを浮かべながら。
「あの言葉で惚れたっていうのは分かったけどさ……けどそれって、たまたまオイラだっただけだよね? きっと、太陽だったら……ううん、むしろ透士郎や大地や忍……火焔先輩だって、あの場面なら同じ事言ったんじゃないかなぁ?」
「…………」
「だからそれは勘違いだよ。静には――もっと相応しい人がい……」
「たまたまでも良いんです」
「え?」
「たまたまでも偶然でも良いんです。だって、事実として、あの言葉を言ってくれたのは、千草先輩だったんですから」
静は続ける。
「確かに私は……あの時、他の人に声を掛けられていたら、その人の事を好きになっていたんだと思います……だけど、ことこの世界線においては、それは――千草先輩だったんです」
静は続けてこう言った。
「色んな分岐点があって、どれが正しいかは、正しかったのかなんて、私には分かりません。だけど私はこう思います――私にあの言葉を掛けてくれたのが――千草先輩で良かったって……」
「オイラで……良かった……?」
「はい、むしろ、千草先輩でないと、嫌です」
「…………」
「太陽さんでも、透士郎さんでも、忍さんや大地、火焔先輩でもない――千草先輩でないと、嫌なんです。それじゃあ……駄目ですか?」
静の真っ直ぐな瞳が、千草の胸を貫く。
恥ずかしそうに、目を逸らしながら一言。
「別に……駄目では、ない……かな……?」
「え? と、言う事は……?」
「こんなオイラで良かったら……その……よ……
よろしく……」
その言葉を聞いた瞬間――静は動いた。
身体が勝手に動いたのだ。
飛び掛るように、千草を思いっきり抱き締める。
「ありがとぉー!! 千草先輩! だぁーい好きぃー!!」
「こ、こらっ……いきなり抱きつくな、びっくりするだろうが!!」
「あははっ! 千草先輩照れてるー! かーわいいっ!」
「て……照れてないしっ!」
「うっそだぁー!」
「照れてない!」
目標の達成は出来なかった。
けれど……得たものはあった。
こうして……海波静と木鋸千草の交際は――始まったのだった。
つづく。
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