【第33話】それは考え直した方がいい


「忍と星空が上手くいってない?」


 万屋家のリビングで、太陽が首を捻った。

 その要因は、月夜からもたらされた情報からである。


「うん。この間、姫がコンビニで宇宙先輩と会ったんだって。その時、ちょこっと話したみたいなんだけど……何というか、があったって」

「違和感……?」

「ねぇ兄貴、何か心当たりない?」

「うーん……考え過ぎなんじゃねぇか? 学校では、そんな違和感感じない程度には普通だぞ? 一緒にご飯食べたりもしてるしよぉ、オレからしてみれば、立派にカップルやってんなぁって感じなんだけど」

「ふぅーん……」

「忍に至っては、星空と付き合ってからは、オレや千草とのエロトークに参加する事すら減っちまったぐらいだ。むしろオレ達が寂しいくらいだぜ。【瞬間移動】なんて素晴らしい力を失っちまったんだからよぉ」

「あんたらみたいなエロ脳みそなクズ共は一生寂しがってれば良いのよ」

「えぇ……酷くない?」

「それにしても……うーん……姫が、適当にそんな事を言う筈がないんだけどなぁ……」


 唸る月夜。

 姫の言葉が、どうしても気になっているらしい。

 そんな妹の姿を見て、太陽も改めて考えてみようという気分になったようだ。


「…………。忍と星空……ねぇ……」


 ここでふと、以前透士郎がほんの少し漏らしていた言葉を思い出した。


「あ、そう言えば……透士郎も、そんな事を言っていたような気がするなぁ……」


 透士郎――そのキーワードに、月夜が反応する。

 ずるりと、ソファーの上から転げ落ちたのだ。


「何やってんだ? お前……」

「べ、別に? それで、と、ととと透士郎の奴が、何て言ってたの?」

「いや、何か気にかかる……みたいな事を言っていたような気が……すまん、あんまり会話は覚えてねぇんだ」

「…………役立たず」

「酷い言い草だな。よっしゃ! でもそこまで言われたらオレも気になって来た。いっちょ、本人に直接電話してみるか」


 スマホを取り出し、即座に電話をかけ始める太陽。

 「ちょ、ちょっと! いきなり本人に電話をかけるなんて!」と、若干狼狽える月夜だったが、太陽は何のその。


「違和感があるのなら、忍がそれに気付いてる筈だろ? 直接聞くのが早いって」

「そ……それはそうかもだけど……」


 数秒間の呼び出し音の後、『もしもし』と忍が電話に出た。


「あ、もしもし? オレ、太陽だけど」

『通話画面を見たら分かる。いきなり何の用だ?』

「いや、ちょっと聞きたい事があってさ。ひょっとして今、星空と一緒にいる? いるなら手っ取り早いんだけど」

『いいや? 宇宙は今日、白金と寿司食べに行くと言っていた。なので今は一緒ではないな』

「白金と……? ふぅん……まぁいいや、忍一つ聞いて良いか?」

『何だ?』

「お前と星空、今どんな感じなんだ?」

『どんな感じと言われても……別に普通だが? 普通に、付き合ってる、といった感じだな』

「ラブラブか?」

『ラブラブと聞かれたら返答に困る所だが……まぁ、関係性は悪くはないと思うぞ?』

「つまり……順調って事で良いか?」

『ああ……それで良いと思うが。どうかしたのか?』

「いや、何でもねぇよ。こっちの話だ。じゃあな、いきなり電話かけて悪かったな」

『別に構わないが……』

「なぁ、忍」

『何だ?』

「彼女が出来るのって……どんな気分なんだ?」

『天国にいるようなきぶ……――ブツンッ! ツー……ツー……ツー……』


「ってな訳で、杞憂って事で決まりだ」

「今……電話の切り方に悪意があったわよね?」

「リア充爆発しろが、オレの魂の根本にあるからな、非リアのオレが、それくらいさせてもらってもバチは当たらねぇだろ」

「随分と歪んだ考えだこと……」


 「ま、何にせよ」と太陽は話を締めくくろうとする。


「忍と星空は何も問題ねぇよ。心配しなくても、順調だ」

「……そうかなぁ?」

「そうそう! はい、これでこの話はおしまい! 飯にしようぜ、飯に。皐月姉が冷凍庫の中に冷凍チャーハンがあるって言ってたから、それ食おうぜ」

「…………うん」


 しかし、月夜はいまいち納得出来ないでいた。


「土門側が、――――も、あるんじゃないのかなぁ……」




 一方その頃……。


 愛梨は、宇宙と共に回転寿司に来ていた。


「うん! 美味しい! やっぱりここの炙りトロサーモンは美味しいなぁ!」

「ええ……そうね」


 愛梨の炙りトロサーモンへの賛辞に、宇宙は元気なく薄く笑いながら答えた。

 回転寿司に来店してから、十五分が経過した頃……宇宙が切り出した。


「愛梨……そろそろ本題に入っても良いんじゃない?」

「そうだね。じゃあ宇宙、単刀直入に言うわ――――



 それは考え直した方が良い」


 見つめ合う、愛梨と宇宙。

 宇宙が薄く笑った。


「何もかも、お見通しって訳ね……さすが、【読心能力者】って所かしら」


 愛梨が目を細めながら、少し伏せ目になる。宇宙が続ける。


「けれど……もう、決めた事だから」

「宇宙! で、でも…………忍くんの気持ちは……」

「彼には、わよ」

「違う……違うよ宇宙……これはあなただけの問題じゃない! もっと二人で話を――――」

「愛梨」

「っ!」

「ありがとう」


 その有無を言わせぬ感謝の言葉を前に、愛梨は……何も言葉を返せない。

 そして宇宙はこう言った。


「誰でもなく他でもない……私が一番、分かってるから」


 宇宙は――こう言った。


「私みたいな暗い人間には――――恋愛なんて、眩いものは向いてないのよ」


 愛梨は何も返答出来ない。


「私はいずれ、遅かれ早かれ忍くんを不幸にしてしまうわ。だからそれがちょっと、早まるだけ……」

「宇宙……」

「もう……決めた事だから……だって、私は…………私達は――



 みたいに、出来ないもの」


 降り出した雨は止まらない……。

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