【第21話】球乃大地と天宮姫④
数日後――
「あれからどうなんだ? 大地の奴は」
自宅のソファーに座りながら、太陽が月夜に問い掛ける。
「ん?」と、月夜がアイスクリーム用の木製スプーンを口から離し、反応する。
「ああ、大地なら、あれからずーっと学校来てるみたい。吹っ切れたみたいね」
「そっか……なら良かったよ。動いた甲斐があったってもんだ」
「ふふんっ、それだけじゃないんだよなぁー」
「え? ま、まさか!! アイツら付き合い始めたのか!?」
「ぶっぶー。それについては、大地が告るのビビってまだですよー」
「はぁ!?」
太陽が溜め息をつきながら、ガッカリしたように言う。
「かぁー! 情けねぇなぁ大地の奴……告れば成功率百パーセントだろうが。なっさけねぇ……勉強は出来ても、そういう所で勇気が出ねぇ奴は、社会に出たら生きて行けねぇぞ?」
「……それ、あんたが言う……?」
アイスクリームを一口、口に運びながら、ジト目を向ける月夜。
「ん? それじゃあさ……」太陽が疑問を抱いた。
「お前の『それだけじゃない』っていうのは、どういう意味なんだよ? 何が、『それだけじゃない』んだ?」
「大地に対する陰口の事よ」
「あ、なるほどね。で? どーなったんだ?」
「ああいう陰口って完全に消し去る事は出来ないのよねー。嫉妬とか、妬みとか……人が人である限り、どうしても苦手な人や嫌いな人っていうのは出来ちゃうものだから。でもね? こと、大地の事に関しては、大方収まったと思うよ」
「……と、言うと?」
「えっとねぇー、私と静、そして姫の三人で――大地の陰口を言ってた奴、片っ端から言い込んでやったの!」
「えぇ……」
満面の笑みでそんな事を言った月夜。
まさかの力尽くだった。
「話してみたら、皆可愛い子達だったわよ? 私達の前で、皆ガタガタ震えちゃってさぁー。可愛い子うさぎみたいだったもん」
「……女子中学生って……怖いな……」
「姫なんて、鬼の形相して恫喝してたよ」
「恫喝!? 言葉の響きが怖いっ!!」
「めっちゃヤ〇ザみたいだった」
「怖過ぎて言葉が出ねぇ……」
「だからそれから……大地への陰口は、かなり息を潜めた感じ。それから、懸念してた姫への陰口の方も、恐らくはないでしょ……怖くてそんな事出来ないと思う」
「そっか……」
「最初からこうすれば良かったんだなーって思った」
「それは違うな」
「?」
太陽が言う。
「この一件の本質は、大地と姫の心のすれ違いだよ。陰口なんてもんは、結局の所副産物に過ぎない……元々はアイツらの……いや、大地の一人相撲から生み出された結果なんだよ。それをお前らが動いてどうこうしていたとしても、何の解決にもなってなかったよ」
「……そうかな?」
「多分な……ま、今回の成果は、互いに全てを打ち明け合う事が出来たって事だ。今は大地の奴がビビっちまってるらしいけど……その内、何か変化がある筈だ。きっとな」
「うん、そうだね」
「一先ず、めでたしめでたしって事だ」
「うん」
「所で月夜……話は変わるんだが……」
「何?」
「さっきからずっと気になっていたんだがな? その
「え? 冷蔵庫と冷凍庫の中にある兄貴の物って、全部私の物になるっていうルールなかったっけ?」
「あるかぁ! そんなルール!! お前はジャイ〇ンか!!」
この兄妹は……相変わらずのようだった。
そして……この二人も。
「大ちゃーん! 迎えに来たよー!!」
「ほーい」
大地が丁度、玄関で靴を履いていた所に、姫が現れた。
靴をトントンとしながら、カバンを持ち大地は姫の待つ外へと歩いて行く。
外へ出ると、サンサンと輝く太陽がお出迎えをしてくれた。
「……暑いな……今日」
「もうすぐ夏だもんね。やっぱり、暫く引き篭っていた身からすると、この程度の暑さでも堪える?」
「嫌らしい言い方をすんじゃねぇよ……それに、オレは引き篭ってない。学校サボってただけだ」
「一緒じゃない? それって……」
「全然違う、オレは学校には行ってないけど、本屋とかには頻繁に足を運んでいた。部屋の外に出ていたんだ。だから決して、引き篭もりなんかじゃない」
「……はいはい」
「ちゃんと聞けよ。姫っ」
「聞いてますよーっと」
姫が、楽しそうにスキップを始めた。
そして満面の笑みのまま振り返る。
「ねぇねぇ大ちゃん、早く行こっ! 学校に!」
「……ああ。そうだな」
そして二人は歩き出す。
サンサンと輝く太陽に照らされる道を……歩き出した。
目的地は学校だ。
大地と姫……この二人の物語はまだ、終わっていない。
けれど、決着の時は近い事だろう。
それはまた……後の話。
登校中、ふと大地が空を見上げた。
やはり太陽が眩しい。
陽射しに、焼き殺されてしまいそうだ。
しっかり水分を摂らないとな――そう思った。
「何、ボーっとしてるの? 早く行かないと遅刻しちゃうよー!」
「……ああ、そうだな」
蒸し暑い気候の中、大地が走って姫に追い付いた。
そして並んで歩き出す。
季節は春を終えようとしているのだろう。
間もなく……夏が来る。
暑い暑い夏の物語が――幕を開けようとしていた。
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