【第13話】あんな変態の何処が良いんだよ


「私はどうやら……土門くんの事が好きみたいだ」


 ある日の昼休み。昼食を食べていると、宇宙が突然そんな事を言い出した。

 それを耳にしながら、愛梨が「ふむ……」と頷きつつ、先程口に入れたタコさんウィンナーをゴクリと飲み込み一言。


「知ってるよー」

「やはり知っていたか……愛梨は何でもお見通しなのだな」

「そりゃそうよねぇー。だって他人の心が読めちゃうんだもん。嫌でもお見通しちゃうよ」

「そうか……ならば私が、何故土門くんに惚れたのかも当然理解してくれている……その解釈で話を進めても良いか?」

「いいよー」

「私は――土門くんに告白しようと考えている」

「ぶっ!?」


 愛梨は飲もうとしたお茶を吹き出し驚いた。

 彼女にだって読めない心もある。

 以前皐月と愛梨の関係性を説明した通り、思ってすぐ口に出した他人の心は読めないのだ。

 正確には、読心は出来るものの、それが追い付かないというのが正しいのだろう。

 そんな訳で、今の宇宙の発言を、愛梨は読み取れなかったのだ。

 だから、驚いたのである。


「ゴホッゴホッ!」

「大丈夫? ハンカチ貸そうか?」

「う……ううん、大丈夫……」

「そんなに驚くなんて意外ね。朝からずーっとその事を考えていたのだけれど……読まれていなかっただなんて、予想外で……」

「ずーっと太陽くんの心ばっかり読んで、どうからかうか考えていたから、そっちが疎かになってた……ごめんなさい」

「それはそれで、万屋くんが不憫ね……」

「で、本当に告白するつもりなの? 心を読んだ感じ、決意は固まってるみたいだけれど……」

「本当よ」


 宇宙は言う。


「本当に今日――私は、土門くんに告白しようと思ってる」


 決意の籠った表情のまま、そう言った。

 愛梨は「なるほど……」と、納得したようで。


「分かった。私に出来る事があるなら何でも言って、手伝うよ」

「ありがとう……そこで早速、貴方に頼みたい事があるの」

「ふむふむ」

「それでね――」


 宇宙は耳打ちで、そのお願いを愛梨に伝える。

 「分かった!」と、愛梨はそれを快く承知した。



「え……何?」


 白羽の矢が立ったのは太陽だった。

 突然、愛梨と宇宙に囲まれて、少し不安になっている様子だった。

 『オレ……何かしたっけ?』そんな思いが、太陽の中に浮かび上がる。

 口を開いたのは愛梨だった。


「太陽くんに、お願いがあるんだー」

「お願い?」

「実はねー……」


 愛梨は太陽に耳打ちをして、その要件を伝える。

 その最中、太陽の顔は真っ赤になっており、それを宇宙は漠然と見つめながら(早く告白して付き合えばいいのに)等と思っていた。

 愛梨の顔が離れる、どうやら要件を伝え終えた様だ。


「な、なるほどねぇ……星空が忍に告白したいから、二人きりになれるようオレに手伝ってほしい……と…………ふむふむ、なるほど……って!? 告白!?」

「声がデカいぞ万屋」

「す、すまん……」


 宇宙に叱られ、咄嗟に自分の迂闊さを謝罪しながら周囲を見渡した太陽。

 どうやら、致命的なミスには繋がらなかったようで一安心。

 ここで改めて疑問をぶつける。


「それにしても何で忍なんだ? あんな変態の何処が良いんだよ」

「あんな変態って……それをあなたが言うのね……」

「静は、あのから、土門くんに惚れちゃったんだよねー」

「山の戦いって……ああ、忍と二人で【雪使い】と戦ったってやつか。あー……言われてみれば、あの時ぐらいから、お前らの距離感おかしくなってたもんなぁ」

「……確かにその通りだけれど……二人して勝手に私と土門くんの馴れ初めを丸裸にしないでくれる?」


 少し照れ臭そうな宇宙。

 彼女のそんな表情は滅多に見る事が出来ないので、少しキュンとした太陽だった。


「……何キュンとしてるのさ、太陽くん」

「だから呼吸するかの如くオレの心を読むなって」

「読まずとも分かるわよ、その目を見たら」

「え? オレ今そんなに顔に出てた?」

「出てた出てた。すっごく出てた」

「気を付けます……」


 さて、いよいよ話は本題へ……。


「で、お前らを二人きりにしたいのは分かったけど……オレは一体何をすればいいんだ?」

「簡単な事よ。貴方にして欲しい事は一つだけ」

「ふむふむ」


 「―――――――――――」宇宙は、そのして欲しい事の説明を始める。

 説明を終えると、太陽は「なるほど」と頷いた。


「それくらいなら、お安い御用だ」



 そしてその時が来る。

 放課後――


 忍のスマホ画面に表示されているのは、RAINというメールアプリ。

 そこには太陽からのメッセージ。


『おつかれ忍(ㅅ˙³˙)♡

 悪いけどエロくて良い話があるんだ!( *¯ ꒳¯*)

 放課後一人で屋上に来てくれるか?┐(´∀`)┌ヤレヤレ』


(相変わらず。顔文字がウザい)


 忍はそのメッセージを見て、そんな感想を覚えた。

 『エロくて良い話』――その言葉の響きに吸い寄せられるかの如く、彼の足は屋上へと向かって行く。


 向かって……。


(階段上がるのダルいな……)


 そんな訳で、忍は周囲を確認し、人が居ない事を確認すると、能力を発動。

 【瞬間移動】にて、一瞬で屋上へと辿り着いた。


 校内では感じる事が出来ない、風の流れを感じ、忍は屋上にいる事を五感で確認する。


「さて……何の話だ? 太……――っ!」


 忍の目の前に居たのは、太陽ではなく――宇宙だった。


「やっばり瞬間移動して来たのね……土門くん……万屋の言った通りだったわ」

「…………何故、星空が?」

「ごめんなさい……私が、万屋に頼んで、貴方をここへ呼んで貰ったの……――伝えたい事があったから」

「……伝えたい事?」

「ええ……」


 忍の鼓動が高鳴り、(もしや――)という予想が頭を過ぎる。

 屋上に二人きりで呼び出された上に、静が顔を赤く染めながらモジモジと『伝えたい事がある』と言っているのだ。

 をしてしまうのも無理はない。

 ドクン……ドクン……忍と宇宙、互いの心臓の鼓動が響き合っているようだった。


「土門くん……私は――」


 そして……忍の予想は現実となる。


「貴方の事が、好きです。私と……お付き合いしてください」


 宇宙は、思いを吐露しながら、深く深く、頭を下げたのだった。

 当然……忍の答えは――



 一方その頃、屋上入り口。

 扉の中からこっそりと二人を見つめていた愛梨と太陽。


「きゃー! 宇宙ったら本当に言っちゃったわ!」

「マジ!? それでそれで!? 答えは!?」

「当然……」


 愛梨は、左手でOKのサインを見せる。

 その瞬間、太陽が空気も呼ばず飛び出した。慌てて止めに入る愛梨だが、間に合わない。


「やったなぁー!! お前らぁー!! 最高だぁぁあーーっ!!」

「太陽っ!?」

「万屋!?」


 勢い良く駆け寄り、太陽は新カップルの二名を纏めてハグしたのだった。

 その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。


「まったく……他人の事なのに、自分の事のように喜んじゃって……」


 その様子を遠くから眺めていた愛梨が、苦笑を浮かべながらそう呟いた。

 そして愛梨は続ける。

 小さく……呟くように続けた。


「私も……待ってるからね。太陽くん」


 ゆっくりと愛梨も、太陽と新カップルの宇宙と忍の元へと近づいて行く。

 そして今度は、三人にしっかりと聞こえる声でこう言った。


「おめでとう。二人共」


 こうして……宇宙と忍。

 両名は無事――


 付き合う事になったのであった。

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