【第7話】オイラの出番だね!!


 体育……それ即ち、着替え。

 着替え……それ即ち、下着姿。

 下着姿……それ即ち――


「オイラの出番だね!!」


 木鋸千草きのこチグサが、大きなアフロを揺らしながら、胸を張って言い放つ。

 自分の出番である――と。


 その千草の取り巻きである、太陽と土門忍どもんシノブが歓声を上げる。


「よっしゃー! 待ってましたー!!」

「最高だ……」


 千草は言う。


「まぁまぁ、落ち着け同士達よ。慌てるでない。先ずは一旦落ち着こうではないか」

「そ、そうだな! 落ち着かねぇとな」

「激しく同意」

「良いかお前達……オイラ達の目的の再確認だ。同士達よ、オイラ達の目的は何だ?」

「はい! 女子更衣室を覗く事です!!」

「ぶっぶー。惜しいが違うぞ、太陽隊員」

「え? ち、違うのか? じゃあ一体……」


 スっと、忍が無言で挙手をした。

 そんな彼を力強く指差す千草。


「はい、忍隊員! どうぞ!!」

「…………女子の下着姿を、優しく、愛でる事」

「はい正解!! 太陽隊員、忍隊員へ拍手したまえ!!」

「うおー!! すげぇよ忍隊員!!」


 「…………」照れ臭そうにペコペコと頭を下げる忍。

 千草は言う。


「太陽隊員……勘違いするな。これは決して、等という犯罪じみた行為などではない! 下着姿の女子を愛でるという、神聖な行いなのだ!! そこを間違えては……我ら『千草裸体研究員』の名が廃るぞ?」

「千草隊長ー!! 流石だぜー!!」

「さぁ、我が元へ集まれ! 迷える童貞子羊共よ」

「集まる! 集まるぜー!!」

「是非もなし」


 そんな和気藹々としている三人に、冷たい視線を送る人物が一人……。


「お前ら変態の化身だな……」


 透士郎だった。

 彼のその言葉に、太陽が反応する。


「透士郎! お前も冷めた態度取ってねぇで、心のままに、この作戦に参加しろよ!! きっと幸せになれるぞ!!」

「断る。巻き添えくらいたくねぇしな」

「そんな事言わずにさー、心に素直になれよー」


 「否!! ぶっぶー! その行動は違うぞ! 太陽隊員!!」と、千草が怒りの籠った表情で、太陽を静止する。


「な、何故ですか? 千草隊長。同士が増える事は……良い事なのでは?」

「よく考えてもみろ! 太陽隊員! その男――泡水透士郎の力はなんだ!?」

「え……透士郎の力? だけど……はっ!!」


 太陽は、驚愕の表情を浮かべる。


「気付いたか……奴の力は――透視。即ち!! 覗き、などと言うリスクある行動に頼らずとも、奴は日常的に――女性の下着姿を、愛でているのだ!!」

「うおー! 羨ましいぞ透士郎ー!! このムッツリめー!!」

「誠に遺憾なり」


 三人に言いたい放題言われている透士郎は、頭を抱える。


「んな事しねぇから、お前らと一緒にすんな」

「黙れ! このチート小僧め」

「このムッツリ!!」

「卑劣の極み」

「うるせぇなぁ……このオープンスケベ共……」


 たまたま透視能力を持っているだけで、この言われようである。

 不憫な透士郎だった。


「はいはい、分かった分かった。もう止めねぇから、好きにしろ」

「オイラ達の勝ちって事で良いの?」

「勝ちも負けも糞もあるか……お前らに関わっちまった時点で、オレは負けてるよ」

「ブーハッハッハ!! 見たかこの裏切り者め! 一昨日来やがれってんでいっ!!」

「ざまぁみろ透士郎!!」

「不運な男だ」

「……ムカつくなぁ……お前ら」


 「さぁ!」と、千草は話を覗きへと戻す。


「こんな裏切りチート野郎の事は放っておいて、更衣室パラダイスへ向かおうではないか!! 神であるオイラの身体に掴まるがよい!」

「よっしゃー!!」

「是非もなし!」


 千草が能力を発動した瞬間、三人の姿が見えなくなってしまう。

 これが千草の能力――透明化だ。


「これで我々は、誰の目にも止まらなくなった! 即ち! オイラ達が更衣室パラダイスに居る事は誰にも気付けないのだ!!」

「うおー!! 流石だぜ千草隊長ー!!」

「完全犯罪!」


「お前ら全員捕まれば良いのに」


 そう声を落とした透士郎だったが、その言葉は、興奮している三人の耳には入る事はなかった。

 「そして更に――」と、千草は続ける。ドヤ顔で。


「頼んだぞ! 忍隊員!!」

「了解した!」


 続いて、忍が能力を発動する。

 彼の能力は瞬間移動。

 ドアを開ける――等というリスクを取らずとも、無音で女子更衣室へと侵入出来るという、これまた覗き向きの能力である。


「能力発動」


 忍が能力を発動した瞬間――

 三人の姿が、透士郎の目の前から瞬時に消えた。

 「「いざ! 女子更衣室パラダイスへ!!」」という、千草と太陽の汚い言葉を残して……。


 透士郎は深い溜め息を付きながら呟いた。


「あの変態共……行かねぇ方が良いのになぁ……だって、今更衣室には……が居るのによぉ……」



 そして場面は変わり女子更衣室。

 透明なまま、中へと侵入する事に成功した三人。

 ウフフ、アハハな覗きタイムを堪能出来るかと思いきや、彼らの目の前に、衝撃的な景色が移る。


「ば……馬鹿な!?」


 木鋸を始め、三人揃って絶句する。

 太陽がワナワナと震えながら声を落とした。


「誰一人……着替えていない、だと!?」


 「あーあ……」そんな風に絶望している三人の前に、聞こえてくる声……。


「本当に来ちゃったよ……」

「うん、わざわざ更衣の時間を変えてもらったかいがあったな」


 「っ!?」その声に驚きつつ振り返ると、そこには知った顔が二つ、並んでいた。


「こ……この声は……白金!?」


 愛梨と宇宙の二名だった。


「な、何でお前の彼女がいるんだよ!? しかももう体操服に着替えちゃってるしさぁ!!」

「か、彼女!? 白金は別に彼女じゃねぇから!!」

「あーもう! せっかくの作戦が台無しじゃんか!!」

「そ、即時撤退!」

「「あ! ずりぃぞ忍!!」」


 忍が一人で、瞬間移動にて撤退する事に成功する。

 女子更衣室に残された太陽と千草。

 絶体絶命のピンチ……しかし――


「太陽隊員……どうやら見ての通り、作戦は失敗し、信頼していた仲間にも裏切られ……オイラ達は大ピンチを迎えているようだ……」

「そ……そうだな……」

「だが――諦めるにはまだ早い!! オイラ達は今、透明化の状態だ……即ち! 奴らはオイラ達の姿を目で追う事は出来ない!」

「そ! そうだった! 流石だぜ! 木鋸隊長!!」

「という訳で、音を立てずに……そーっと……あの入り口から、出よう……」

「お、おう!」


 ゴクリ……と、唾を飲む太陽と千草。

 足音を立てないように、ゆーっくりと……入り口の方へと歩いて行く。

 抜き足、さし足……忍び足……。


「無駄だよ、太陽くん。心の声が丸聞こえ。そんな激しく動揺してたら、

「「っ!?」」


 その愛梨の発言に。

 太陽と千草――両名の心臓が跳ねる。

 愛梨が、透明で見えなくなっている筈の二人に向かって正確に指を指した。


「宇宙……二人はあそこにいるわ。土門くんはどうやら逃げちゃったみたいだけどね……」

「忍はカッコイイから許すわ」

「そ、そうなんだ」

「だけどコイツらは許さない――社会的な死で、償ってもらうわ」

「お願いします」


 宇宙が、凄まじい威圧感を放ちながら、そっと掛けていたメガネを外した。

 綺麗な目が現れると共に……その目が漆黒に光り始める。

 戦慄する太陽と千草。


「ま、まずいっすよ! 木鋸隊長!! 星空のが発動しちまう!」

「…………」

「? 木鋸隊長?」

「……来世では……イケメンに産まれる事が出来ますように……」

「木鋸たいちょおおぉーーーっ!!」


 そして、宇宙の催眠能力が二人に襲い掛かる。


「罪には罰を――――死ね」


 こうして……。


「ギャアァァァァアーーーーっ!!」

 女子更衣室に、太陽と千草の断末魔の叫びが、こだましたのだった。


 数分後――

 太陽と千草の無様な姿が……女子生徒に発見されたのだった。


「先生! 大変です!!」

「どうかしたのか!?」

「万屋くんと木鋸くんが――全裸の状態で、女子更衣室の前で爆睡しています!!」

「何ぃー!! 奴らにそんな趣味が!? ああもうっ!! 最近の高校生は何を考えているのか分からん!!」


 その後、校内は少しパニックに陥ったそうな。

 めでたしめでたし。

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