第四話 バプティスト

4-1

 アリッサが洞窟に戻ってきた頃、外はもう暗くなっていた。


 元より空は厚い雲に覆われていたが、日が傾いたことによって完全に光は失われていた。


 その間、イアンは焚き火の炎を絶やさないようにしながら、裸のスージーを抱きしめて彼女の体温を守り続けた。


「待たせたな。着る物を持ってきてやったよ。彼女にも着せてやりな」


 ランタンを片手に現れたアリッサは、持ってきた衣類をまとめてイアンの方へと投げた。鉄砲は持っていない。


 イアンは衣類を拾い集めると、その中から女性物のケープを取り出してスージーに着せる。本来は腰の上ぐらいの丈なのだろうが、小柄なスージーの身体は腿まで覆われた。その上からオーバーコートを着せて、イアン自身ももう一着のコートを肌の上から羽織った。


 まだ生乾きの自分たちの衣服はリディーマーのローブにくるんで手に持つ。


 スージーを両腕に抱えて、準備が出来たことを目線でアリッサに伝える。


「いいかい? ついてきな」


 アリッサが洞窟の外へと出て行く。イアンは足で焚き火を消すと、アリッサの後を追った。


 先を歩くアリッサの後をイアンは黙ってついていく。


 時刻はどれくらいなのだろう。闇の中に浮かぶランタンの光を見ながら、そんなことを考える。


(アリッサが戻るのに時間が掛かったのは、街までの距離があるからだと思ったけど……もしかしたら暗くなるのを待っていたのかもしれない。その方が『ヨシュアの木』に見つからないだろうと考えて)


 どちらにせよ、この辺りの地理に不案内であるイアンはアリッサに従うしかない。


 洞窟で休んでいる間にイアンの体力も少しは回復していた。スージーを落とさないようしっかりと抱いて、アリッサの後を置いていかれないよう歩き続ける。


 やがて街へと辿り着いたようだ。周囲に灯りなどは見られないが、ランタンの光が狭まり、その光に照らされたレンガの壁などが左右に浮かび上がる。


「ここだ。ちょっと待ってな」


 細い路地をくねくねと曲がりながら、ようやく目的の場所に着いたみたいだ。


 暗闇のせいでイアンは何度も身体を壁にぶつけ、その度にスージーをかばうように身をかがめた。


 恐らくは迷路のように複雑な造りになっているのだろう。この土地に不案内なイアンでは、例え昼間であったとしても正しく歩けた自信が無い。


 カギを取り出したアリッサが扉を開錠する。開かれた扉はギギギ、とやけに無気味な音を立てる。


「ここを誰かに嗅ぎつけられた時、すぐに分かるようにね」


 イアンを振り返ったアリッサが、そんな風に話す。初めて訪れたイアンに扉の音について説明してくれたようだ。


 イアンが中に入るとアリッサは扉を閉めて施錠する。それから足下をランタンで照らしながら階段を上っていく。


 段差に足を取られないよう、イアンも慎重に階段を上っていく。三階まで上がって扉を二つ抜けた先は、部屋全体に灯りがついていた。


 そこで待っていた人物の顔を見て、イアンは目を大きく見開いた。

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