第5話
「ここは……」
目を覚ました総司は、ぼーっとしたまま、天井を見上げていた。
「ここは第七区魔導隊医療施設よ」
と、誰かの声が聞こえた。
横になったままの総司は、その声の聞こえた方へと、顔を向ける。
そこには、壁に寄りかかったまま、腕を組み、こちらを見ている少女がいた。
「———っ‼」
総司は飛び起きて、その少女の方を見た。
見覚えのある赤髪。そして、きれいな顔立ちは、間違いない。あの時の人だ。
総司は毛布を捲ろうとすると、少女が慌てだす。
「待て待て! あなた、怪我しているのよ! そ、それに……」
少女が、顔を赤くしながら、目を逸らす。
総司は、下の方を見ると、上半身裸のパンツ一枚と、恥ずかしい姿だった。
一応、上半身の方は包帯で巻かれているため、見えない部分はある。
「す、すみません! 悪気があったわけじゃ!」
すぐに謝る総司。
「別にいいわよ。あなたが生きていたら……」
咳払いをしながら、少女はこちらに近づいてきた。
「ありがとうございます。あなたが、助けてくれたんですよね?」
総司は、助けてもらった礼を言う。
「これが仕事だからそれくらい容易いわよ」
(仕事? そうか、この人、【魔導隊】の……)
総司は、『仕事』という言葉を聞いて、思い付いたのが、それだった。それなら納得できる。
「仕事って、【魔導隊】の事ですか?」
「そうよ。まだ、名前を言っていなかったわね。私は織田咲夜。魔導隊第七区三番隊隊長よ。よろしくね」
と、右手を差し出して、総司に握手を求めようとする。
「俺は、沖田総司です。よろしくお願いします」
総司は、咲夜の手を握った。
「沖田総司。珍しい名前ね。あの沖田総司と、関係あるのかしら?」
咲夜にそう言われると、ドキッ、としてしまう総司。
何も隠そう、沖田総司は、あの歴史上の人物、沖田総司と関係しており、沖田総司の末柄である。その証拠に名刀【菊一文字】を所有しているのだ。
「はい。沖田総司は俺の先祖です。あの人のように強くなって欲しいと、母と父が名付けてくれました」
「そうだったのか。だから、【悪魔】と一戦交えることが出来たのね。素人なのに、あの動きは凄かったわ」
「見ていたんですか⁉」
「と、言っても、最後の方くらいだけどね。【悪魔】が、傷を負っていたから、大体は、予想できたわ」
「そうですか……。そう言えば、俺の刀は、どこですか⁉」
総司は、咲夜から手を離すと、部屋の周りを見渡す。
「あなたの刀なら、ほら、あそこに置いてあるわ」
咲夜が、指さす方に【菊一文字】は、棚の上に置かれてあった。
「良かった……」
ホッとする総司。
「そんなに大切なものだったの?」
気になった咲夜が総司に訊く。
「そうですね。こいつとは、幼い頃からの付き合いと言いますか。相棒みたいなものなんです。知っていますか? 【菊一文字】っていう刀の名前を」
「知っているも何も、それは、元々、沖田総司、その人が持っていた刀でしょ。誰もが知っている話よ」
咲夜は、確信した。この【菊一文字】が、本物であるなら、あるいは、彼もまた、【悪魔】に対抗できる人物であると——。
「さて、あなたに会いに来た理由を教えてあげるわ」
咲夜は椅子に座って、総司をまじまじと見る。
「今からいう事は、あなたがどうしたいのか、決めてもいいわ。無理強いもしないから聞いて欲しいの」
「わ、分かりました」
息を呑む総司。
一体、何を言われるのか、緊張が走る。
「私は、あなたが欲しい!」
咲夜は、総司に思いを伝えた。
「はいっ?」
総司は、咲夜の言葉の意味が理解できなかった。何を言い出したかと思えば、「自分が欲しい」と、どういった意味なのだろうか。
(何? これ、告白……じゃ、ないよな……。ただの聞き間違いだよな?)
「すみません……。言っている意味が分からないのですが……。欲しい、というのは、どういうことなのでしょうか?」
総司は、心臓の鼓動を抑えながら、咲夜に訊き返す。
「言葉通りの事です。あなたが欲しいのです」
咲夜は、目を逸らさずに総司の目を見つめながら、はっきりと言うと、総司の心臓の鼓動が早くなる。
(欲しいって、あの、欲しいですよね。ないない、あんなきれいな人が、俺なんかを……。まぁ、逆玉っていう事もあるわけで、それはそれで……)
総司はそれを聞いて、考え込んだ。あらゆる事が、頭をよぎる。
「すみません。その欲しいっていうのは、具体的にどういうのか、聞いてもいいですか?」
何か、最後に引っ掛かった総司は、申し訳なさそうに咲夜に訊く。
「それは【悪魔】を倒すために、私の隊に入って欲しいの!」
咲夜は、そう言うと、総司の夢のまた夢が、灰のように去っていった。
(ですよねぇ……。こんな人が、俺なんかと、ないですよね……)
それはそれとして、せっかくのチャンスである。
【魔導隊】に入れるのは、極稀にしかない。
その誘いを断る理由がどこにあるのだろうか。逆に言えば、将来、安定した職と言ってもいい。ただし、命の保証がないのは、隣り合わせである。
現代の日本において、昔のように平和ではない。
(さて、どうしたものかね。女の子からモテるのは、悪い気はしないけど、【魔導隊】に入ると、色々と、制限はされるんだよなぁ。でも、こんなきれいな人と、関われることは、おそらく、もう、一生ないだろう。戦いは、嫌いではない。嫌いではないのだが……)
総司は、悩んだ末、結論を出す。
もう、腹をくくるしかない。
「分かりました! あなたの隊に入らせてもらいます」
総司は、咲夜にいい返事をした。
「そ、そう! よかったぁ、断られるんじゃないかと思った……」
咲夜は安心したかのように、胸を撫で下ろす。
総司が、どんな答えを返してくれるのか、心配だったのだろう。もし、断られたらどうしようかと、色々と、考えていたのだ。
「それじゃあ、改めて、よろしくね。総司君」
「はい! こちらこそよろしくお願いします……咲夜さん!」
二人は再び、握手を交わした。
「でも、その前に怪我を治さないといけないし、その他にも、色々と手続きが必要だから、覚悟しておいてね」
デーモンキス・ワールド 佐々木雄太 @yuta4
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