第4話
「そんなのがいるの?」
「はい。私もこのタイプの【悪魔】は、始めたなものでして、もう少し、調査が必要かと……」
「そう。なら、そのまま、調査を続行しておいてもらえる?」
「はい」
少女の部下は返事をした。
「それはそうと、あの少年の事はいいのですか?」
「あ、うん。その事なんだけど、私も気になる点がいくつかあるから、そっちの方を先に調べておいてもらえるかしら? この後、あの子が搬送された施設に行くつもりだから」
「分かりました。調べて、後でデータをそちらに送りますね」
「よろしくお願いするわ」
少女は、部下に仕事を頼んだまま、自分はこの場を後にした。
第七区魔導隊医療施設——
総司は、この施設で治療を受けていた。
大量の出血に打撲、それに骨折と、命の危険はないが、大きな怪我を負った。
(痛い……。体全体が、燃え上がるように熱い。苦しい……)
『総司……。総司……』
と、誰かの声が聞こえる気がした。
ゆっくりと、目を開けると、そこは何一つ背景がない真っ黒な空間が広がっていた。
「ここは一体……。それに怪我がない。どうなっているんだ?」
怪我を負っていたはずの体が、完治している。
『気分はどうじゃ、総司よ。』
と、自分の頭の中に誰かが話しかけてくる。
「誰だ⁉ これはどうなっているんだ⁉」
すると、総司の目の前に誰かが現れる。
着物を着た黒髪ロングの女性だ。見た目は美しく、女性にしては背が高い。
「ふぅ……。この姿になるのも久しぶりじゃな……」
「な、な、な! あんた、一体、何者なんだ⁉」
突如現れた女にびっくりした総司はびっくりして、思わず声を張り上げてしまった。
「ん? 私か? なんじゃ、私の事を忘れてしまったのか? 総司よ」
着物姿の女は、総司の名前を平然と呼ぶ。
「俺はあんたの事なんか知らねぇ! ——ってか、なんで、俺の名前を知っているんだ?」
総司は女に問いただす。
「ふむ……。まずは、そこから説明しないといけないのか……。面倒じゃのう……」
難しい顔をしている女は、小さなため息を漏らした後、総司の方に近づいてくる。
「本当に私の事を覚えていないんじゃな」
「あ、ああ……」
女に言われて、総司は返事をしながら、小さく頷く。
「手を出してみよ」
言われるままに総司は、右手を女の前に出す。
女は総司の手を握り、そのまま、自分の方に体を引き寄せ、女から総司にキスを交わす。
「————っ‼」
総司にとっての初キスは、甘く、そして、とろけるような感じだった。
女からキスをされ、舌を入れられながら、雰囲気に流されるまま、総司は女を受け入れてしまう。
そして、キスをするたびに、頭の流れてくるこの感覚は、身に覚えがある。
「ぶはっ!」
総司は、女から離れ、一定の距離を保つ。
先程、入ってきた情報から総司は、この女の正体が何者なのか、分かった。
「お前……【菊一文字】かぁああああああああ!」
目を大きくして、びっくりした様子を見せる総司は、信じられないと言いたげそうに見える。
信じたくはないが、自分の体の中に入ってくる感覚は、【菊一文字】の他にいない。
でも、どうして、自分の刀が、人間の——それも女の姿をしているのだろうか。
「どうやら、ようやく分かったようじゃのう。主との口づけは、美味じゃった」
女は、左手で、総司と唇を重ねたところを触る。
「それにしても【菊一文字】が、刀の姿じゃなくて、人間の女の姿をしているんだ?」
疑問に思ったことを投げかける。
「ああ、それは、この空間は、総司の夢の中だからよ。今は、夢の中でこうして、具現化できるけど、現実世界じゃ、まだ、総司とイチャイチャできないじゃろうな」
女は、ニヤニヤしながら、総司の方を見る。
「お、俺は別に……。刀となんか、イチャイチャしたいわけじゃ……」
総司は視線を逸らしながら、右頬を人差し指で軽く掻く。
「それに【菊一文字】って、名前、呼びにくくないか? お前、他に名前とかないのか? 刀じゃない時のとか……」
「ああ、それか……。うむ……。あまり、考えたことないのう……。そうじゃ、総司が名前を付けろ!」
「ええ⁉ なんで、俺が⁉」
「それはお主が、私の主だからじゃ。文句は言わせぬぞ」
女は総司の顔を覗き込んで言った。
「え、あ……。そうだなぁ……。【菊一文字】だから、【菊】っていうのは、どうだろうか」
総司は、曖昧なネーミングセンスで、自分の刀に刀の名前から一部取った名前を言った。
「【菊】か……。まぁ、よい。総司がそう呼びたいのであれば、私もそれに従おう」
「ほっ……」
総司はホッとする。
「さて、総司よ。なぜ、私がここに現れたと思うか、分かるか?」
「さぁ、分からねぇーな。確か、俺は……【悪魔】との戦闘で負傷し、倒れたはずだが……」
「そうだな。今、総司の体は完全ではないが、回復傾向に向かっておる。応急処置が良かったのじゃろう」
「そうなんだ。それで、俺の体は、今、どこに収容されているんだ?」
「それが、魔導隊の医療施設だとしか分からんな。私も具現化が出来れば、色々と情報を持てるであろうが、主を助けたのは、あの女くらいしか覚えておらん」
「あの人が、俺を……」
頭に過るのは、自分の前に立っていた赤髪の少女だった。
「そろそろ時間が来たようじゃ」
「どういう事だ?」
「総司の意識が覚醒しつつあるようじゃ。だが、その前に、言っておきたいことがある」
「何だ?」
「【悪魔】との戦いは、今に始まったことではない。それと、近々、大きな事件が起こるじゃろう」
「何を言って……」
意識が遠のいていく。菊の言葉が、頭に入ってこない。
「話の続きは、また、現実世界で……」
総司は、再び意識を失った。
これが本当に夢であるのなら、なぜ、今となって、自分の刀が魂を宿したのか、分からない。
それに【悪魔】との戦いで、大きなことが起きるとは一体何なのだろうか。
目が覚めた時、それを聞けばいいだけの話である。
× × ×
第七区高等学校襲撃から三日後——
第七区魔導隊医療施設、三〇一号室——
そこは、見知らぬ天井だった。
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