第3話

 一息入れ、相手の動きを読みながら、しっかりと対処していく総司は、自然と闘いの中で、【悪魔】の倒し方を覚えていく。


「どうやら、全員、行ったみたいだな」


 周りに誰もいない事を確認すると、総司は刀の構えを変える。


 刃を自分の左の方に持っていき、抜刀の態勢を取る。今は、鞘がなく、こうして構えるしかない。


「一度、実戦で斬ってみたかったんだよな。普段なら木刀か、竹刀ばかりだったが、これなら思いっきりやれる」


 二体の【悪魔】に対して、自分の抜刀術が通用するのか、まだ、自信はないが、やってみる価値はある。


 一体はどうにかなるとして、もう一体の動きが、読めない。さすが【悪魔】の個体も、それぞれタイプが違う。


(あっちの【悪魔】は、強いな。俺が傷を負わせた【悪魔】は、今の俺でも倒せるくらいのレベル。なら、先にこっちを倒してから、もう一体!)


 総司は、呼吸を整えた後、一直線に自分が傷を負わせた【悪魔】に走り出す。


(天心一刀流、抜刀術、せ……)


 自分の抜刀術を相手にぶつけようとした瞬間、もう一体の【悪魔】が、予測もしなかった動きを見せ、総司に襲い掛かってくる。


「やばっ!」


 すぐに抜刀術をやめようとするが、このままだと間に合わない。このままだと、殺される。


 総司は右腕で、自分の体を庇う。


 【悪魔】の攻撃をもろに受け、右腕から大量の血が流れる。そのまま、蹴とばされて、柵にぶつかり、口から血を吐く。


「がはっ!」


 右手の握力が低下し、手から刀が離れる。


 負傷した体で戦うのは、これ以上無理がある。額からも血が流れ、所々に打撲痕が残っており、ゆっくりと立ち上がるのがやっとである。


(いやいや、これが俺の実力か。一体くらいは倒せそうだったのになぁ……)


 意識が少しずつ薄れていく中、このままやられっぱなしも良くない。


 地面に這いつくばりながら、刀の元へ行き、刀を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 大量出血で、呼吸がしにくく、苦しい。ぽたぽたと、お流れ落ちていく血は、コンクリートの地面を真っ赤に染める。


(さて、左手一本で、どこまで耐えられるかな……)


 震える体で、使えない右腕は、力が入らず動けない。


 左手で刀を構え、最後の力を振り絞る。


「来いよ。俺はまだ、負けるわけには行かないんだ」


 総司は、【悪魔】に対して、挑発する。


 助けの来ない、この場面で、やれることは、一秒でも【悪魔】と闘う事。




「ギャァアアアアアアアアアアアアアア‼」




 と、【悪魔】今までにない叫び声で、総司を威嚇し、襲い掛かってくる。


(さて、これで俺も死んだな……)


 動けない体で、総司は刀を構えたまま、【悪魔】が一直線にこちらに向かってくるのを待ちながら、目を閉じた。




「はぁあああああああああああ!」




 上空から少女の叫び声が聞こえてきた。


 とうとう、頭がおかしくなったのだろうか。空を見上げると、少女が舞い降りてくる。


 そのまま、総司に傷を負わせた【悪魔】を頭から一刀両断した。


 【悪魔】は、姿形なく消し去り、消滅した。


 そして、もう一体の方もすぐに倒してしまう。


 きれいな赤髪が、燃え上がるようにきれいに見え、振り返った姿は、それはもう、美しかった。


「大丈夫?」


 少女がそう言った途端、総司は気が抜け、そのまま、意識を失ったまま倒れた。


「ちょっ! 大丈夫なの⁉」


 少女は呼びかけながら、総司に近寄った。


「これはひどいわね。血圧が下がっている。このままだと、出血多量で死に至るわ」


 少女は、総司の体を調べた後、インカムを通して、連絡を取る。


「もしもし、こちら第七区三番隊。重傷者一名を確認。すぐに治療班を回してちょうだい。ええ、そう。場所は、第七区高等学校。急いで!」


 救急治療班を呼んだ少女は、総司が持っていた刀に目が留まる。


「これは……」


 総司の【菊一文字】を手にすると、じーっと、見続ける。


(まさか、失われたと言われている……。いや、まさかね……)


 少女は、総司の刀を近くに落ちていた鞘に収めると、総司の胸に置いた。


 そして、少女のインカムに連絡が入る。


『やっほー、こっちの【悪魔】は全部、片づけたよ! で、そっちの状況は?』


「重傷者が一名。と、言っても、ただの一般人ではなさそうね」


『一般人じゃない? どういう事?』


「その話は後ほど、それじゃあ、残りの【悪魔】のほうもよろしくね」


『はい、はーい』


 と、通信が途切れた。


 少女は、総司の方を見たまま、不思議に思う。この人間が、一体、何者なのか、どうして、【悪魔】と、対等に戦えたのか。いかなる点はいくつもある。


「さて、どうしたものか。なんで、この学校に【悪魔】多数、出現したのかしら。後で調べないとね」


 少女は、当たりを見渡していると、他にもいた【悪魔】は討伐されている。


 どれくらいの生徒が犠牲になったのだろうか。


 また、十年前の災厄が、再び起こるのではないかと、頭に過る。


(考えすぎよね。でも、今回の数は以上、それも第七区高等学校だけを襲うなんて、一体、敵の目的は何? 分からないわね)


 それよりも今は、総司の命が優先だ。治療班が到着するまで、もう少し時間がかかる。




 治療班が到着したのは、少女が連絡して、十五分後くらいだった。


 総司は、そのまま、治療班に運ばれ、【魔導隊】の管理する施設へと、搬送された。


 戦闘が終わり、戦場となったこの第七区高等学校では、現場検証が行われていた。


 【悪魔】の出現場所や、被害状況など、現場検証が行われている。


 少女もまた、それに立ち会っていた。


 避難した生徒の多くは、学校自体が休校となり、帰宅している。


「それで、何か、分かったことはある?」


「そうですねぇ。なんで、ここだけ集中して出現したのかは、まだ、解明できておりません」


「そう……」


「ですが、おかしな点がいくつかあります」


「話してみて」


「はい!」


 少女に命令された部下が、まとめた書類を少女に見せた。


「今回の事件により【悪魔】が確認された個体は、最低でも十体。ですが、いつもと違うのは、知性を持っているであろう【悪魔】いると推測されます」

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