第2話

「早く非難しなさい! ここも危険です!」


 と、周りは【悪魔】の出現により、避難経路が塞がっている。


 避難訓練とは違い、人間、命の危険が迫ると、他人の命より自分の命が大事なのだ。


 総司は、自分の刀だけは持って、この避難の流れに身を任せ、自分自身、シェルターに向かう。


 第七区高等学校の避難シェルターは、広い運動場の隅に置いてあるコンビニ程度の広さの建物である。そこまで、全校生徒は、避難しなければならない。


「おい、押すなよ!」


「きゃっ! どこ触ってんの!」


「早く行ってくれ! 後ろが待っているんだよ!」


 階段の場所では、生徒達の行列により、動きが遅い。


 総司も、この渋滞に巻き込まれている。


(このままだと、【悪魔】が学校内に侵入してくるんじゃないのか?)


 そういった不安が、こみ上げてくる。


 だが、総司の予感は、最悪な方向へと傾いていた。


 パリンッ!


 ガラスの割れる大きな音がした。


「きゃぁあああああああああああ!」


 と、女子生徒の叫び声が、校舎内に響き渡る。


 どうやら、この学校に【悪魔】が乗り込んできたらしい。現在、何体の【悪魔】が構内にいるのかは、把握できていない。スマホで、現在の状況を確認しようとするが、電波状況が混乱しているのか、ネットワークが繋がりにくい状態になっている。


「くそっ! この非常事態の時に限って、繋がらないのかよ!」


 総司は舌打ちして、【悪魔】の出現によって、打ち寄せてくる生徒の波を回避するために、別ルートを探す。


(確か、ここから別の校舎を使って、遠回りした方がいいよな。もしかすると、そのルートの方が、【悪魔】から避けて通れるのかもしれない)


 そう思い込んだ総司は、生徒達とは別行動をとり始める。


「沖田! どこに行くんだ⁉ そっちにはシェルターはないぞ‼」


 と、クラスメイトの男子が、違うルートから避難しようとする総司を止めようと、叫んだ。


「大丈夫! そっちは【悪魔】が出ただろ? だったら、避難経路にはない別のルートがいいと思っただけだ!」


 総司は振り返り、そして、再び走り出す。


「俺達もそっちの方がいいんじゃないのか?」


「馬鹿言わないでよ! それで、殺されたらどうするの⁉」


「でも、下の方では、【悪魔】が出たんだぞ!」


「どうする?」


「俺に聞くなよ! 俺は知らねぇ‼」


 と、留まった生徒達が、バラバラになり始める。


 どうやら、総司の単独行動がきっかけに、密集していた場所が集団行動の能力が低下しているのだ。


「俺も別のルートから逃げるわ」


「私も!」


「俺も!」


 それぞれが、総司の後を追う者もいれば、それ以外のルートから逃げようとする者もいる。


「皆さん! 落ち着いてください! バラバラにならないでください!」


 教師の呼びかけに、誰も聞く耳を持とうとはしない。


 これは危険が伴う事であるが、逆にバラバラになることによって、多くの死者を出さずに済む可能性もある。


 どちらにしろ、目的地は皆、同じであり、早くたどり着くか、遅くたどり着くかの違いである。


 先に別ルートを走り始める総司は、先程、自分のいた校舎を見る。


 やはり、校舎の一部が破壊されており、【悪魔】らしき個体が目視できるほど、はっきりと見える。それが一体や二体ではない。


 最低でも確認できたのは四体。


(ちょっと待て。あんなにこの構内に出現したのかよ。こんなの初めてじゃないか? 【魔導隊】の方は、まだ着かないのか?)


 廊下の端まで来ると、階段を降り始める。


 ここまでくれば、後は、いろんな選択肢が増える。逃げ道がないよりかは、マシな方だ。


 階段を降りると、総司は急に足を止める。


「マジですか……。こっちにも出るって、どれだけ、愛されているんだよ。この学校は……」


 つい、にやけてしまう。今、大変な状況なのに、総司は怖がるというよりかは、笑ってしまうほど、おかしくなっている。


「沖田! そっちの方は大丈夫っ……」


 後から追いかけてきた生徒たちが、総司の目の前にいる何かに気づき、言葉を失う。


「どうやら、別ルートも手が回っていたらしいな」


 総司の目の前には二体の【悪魔】がいた。


「嘘……だろ……」


 総司を追いかけてきた生徒たちが、絶望的な表情をしていた。


 こうなってしまったら戦うしかない。


 今まで、【悪魔】と一度も戦ったこともない総司は、持っていた刀を入れた袋を解き、鞘から刀を抜く。


「おい、沖田、お前……。まさか、【悪魔】と戦うつもりじゃないよなぁ?」


 クラスメイトは、総司が刀を抜いた瞬間に悟った。


「ああ……。どちらにしろ、【魔導隊】がここに到着しない限り、誰かが戦わないと、皆、避難できないだろ?」


 鞘を地面に置き、【悪魔】に刀を向ける。


「行けよ……」


「え?」


「いいから、さっさと行けって、行っているんだよ」


「お前は……」


「いいからさっさと走れ!」


 総司は、後ろを振り返りながら叫んだ。


 それと同時に、階段に留まっていた生徒たちが一斉に降り始めて、そのまま総司の後ろを走り去っていく。


 【悪魔】は、人を待ってくれない。逃げる生徒たちに襲い掛かってくる。


 その動きに察知した総司は、【悪魔】の動きを刀で受け止める。


「くっ……」


 【悪魔】の一撃は、思っていたより重い。もし、この刀が、【菊一文字】でなかったら、今頃、刀は折れ、体に突き刺さり、死んでいた。


(あぶねぇ~! いきなり、これかよ。これ、一人で二体、相手にできるのか?)


 総司は、受け流した刀で振り払う。


「沖田、大丈夫か?」


 【悪魔】の攻撃によって、足が止まる生徒達。


「俺の事はいいから、早くシェルターに急げ!」


 総司は、生徒達を庇いながら、戦うのも一苦労である。


 ただでさえ、慣れてもいない戦いの中、人の命を背負うなど、緊張して、いつもの剣捌きが鈍る。


 もう一体の【悪魔】も対処しながら、一定の距離を保ち、ぶつかり合う。


「はぁあああああああああああ‼」


 【悪魔】の左腕を切り落とし、そのまま、胴体に傷を負わせる。


「ふぅ……」

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