デーモンキス・ワールド
佐々木雄太
第1章 悪魔の代償
第1話
二〇××年・四月——
東京・第七区——
季節・春——
人は、時代と共に流れていく。長い年月をかけて、街は変わり、何もかも生まれ変わる。
「おーきたっ! おはよう!」
と、学生服を着た少年の背中を軽く叩く、同じ制服を着た少年が言った。
「ああ、おはよう」
少年は、挨拶してきた少年を見て、苦笑いをする。
「元気ねぇーな。何かあったのか?」
「いや、いつも通りだ」
「それならいいんだけどさぁ」
と、何気ない会話をしながら、いつもの通学路を歩く。
東京の四月の気温は二十度前後。昔に比べれば、地球温暖化のせいで、地球の異常気象は避けられないらしい。
「そう言えば、あの事件の話、聞いたか?」
「何の事件だ?」
「知らないのか? 世界中で起きている【悪魔】の事だよ」
「ああ、ここ最近、急激に多発している【悪魔】ね。この日本では、【鬼】と呼んでいるらしいけど……」
「そうそう、それ! それを退治している奴らが、また、凄くてさぁ」
「へぇ……」
少年は、興味なさそうに返事を返した。
「それにしてもお前、いつもその刀、袋に入れて持ってきているよな。誰かの形見なのか?」
少年は、左肩に提げている紫色の袋を指した。
「ああ、これか? これは護身用で、ただのレプリカだよ。この時代、いつ、何が起こるか、分からないからな」
「お前、用心しすぎじゃね? ここには、【魔導隊】がいるんだぜ。俺達は、その人達のおかげで暮らしているわけ、第一、襲われたとして、レプリカで対応できるのか? お菓子な奴だな」
「そうかい。今のうちに笑っとけ……」
少年はふて腐れた。
少年達の通う学校は、東京第七区にある第七区高等学校である。
全校生徒約九百人の学校であり、一学年約三百人程度である。
少年達は、その学校の二年生の生徒である。
少年は、二年生のフロアで一緒に登校した友人と別れると、自分の教室がある一組へと向かった。
少年のクラスは、四十人程度であり、男女同じくらいの比率が在籍している。
少年は廊下側の一番後ろの席に座ると、時間が来るまで、スマホの画面を眺めていた。
少年が見ている記事は、ここ最近で起きた【悪魔】による事件の事ばかりだ。
この日本において、現在の東京は、十二区に分けられており、それぞれの区には、【魔導隊】が存在する。機関の存在は、表向きでは公表されておらず、ただ、【悪魔】を退治することしか書かれていない。
(どうやら、まだ、【悪魔】に関するこの区の情報は、出ていないようだな。まぁ、誰でも見れるネット情報には載っていないよな)
学校のチャイムが鳴り、授業が始まる。
今もこうしている間にどこかで、【悪魔】と戦っている奴らがいるのだろう。
なぜか、こうして、高校生活を送っている自分が平凡な人生を歩いていくのは分かっていること。
一般人は、一般人らしく、死ぬまで流れ作業のような社会の家畜として生きていくのだ。
「面倒だな……」
と、独り言が漏れた。
「沖田、先生の話、聞いていたか?」
「え?」
沖田と呼ばれる少年が、前を見ると、目の前に今にも殴り掛かってきそうな鬼、いや、担任の女教師が立っていた。
「沖田総司、今、何の時間なのか、分かっているのか?」
「ええと、英語の時間ですか?」
少年=沖田総司は答えた。
「違うわぁ! 今は、数学の時間だ! 今まで何を聞いていた⁉」
「ぼーっと、していました」
先生の怒りも知らず、総司は、平然と答えると、先生の怒りは爆発する。
「廊下に立ってろ! 沖田‼」
と、怒鳴られた総司は、仕方なく廊下で立つことにした。
クラスメイトからは笑われ、そこまで面白いのかと、思うくらいだ。別に自分が怒られる分にはいいのだが、馬鹿にされると、少しムカつく。
(こうして廊下に立ってみると、何もないんだな。人一人すら通っていない)
総司が、廊下の端まで見るが、二年生のフロアには、廊下に置いてある木製のロッカーしか見えない。
授業が終わるまで、残り約三十分程度。
ずっと、立っているのも面倒ではあるが、教室の中から怖い女教師が、こちらに目を光らせており、サボることすらできない。
ポケットに忍ばせていたスマホを左手で操作し、右耳に片耳イヤホンを装着する。これだったら、バレることはないだろうと、総司は思い、スマホの画面は、ネット配信のニュースに切り替える。
最新のニュースの情報が流れ込み、つまらない授業を聞いているよりかは、余程マシである。
どうやら、ニュース速報によると、現在、第一区と第六区の一部の地域で、緊急避難警報が発動しているらしい。【悪魔】が出現したのだろう。
元々、【悪魔】というのは、どういった理屈で出没したのか、公表されていないが、それは国、世界の機関による機密保持に関するらしい。
【魔導隊】、これもまた、世界中の機関で管理されている組織。日本で言えば、【鬼】を倒すために、そのエリートたちが、所属している。どういった基準で選ばれているのかも秘密裏にされている。色々と謎の多い事ばかりだ。
ある程度の情報を手に入れた総司は、チラッと、教室の中を確認する。
教室内は、何事もなく、普通通りに授業をしている。
(まぁ、例え、【悪魔】が現れたとしても、学校には緊急避難用のシェルターが設置されているから安全と言えば、安全だし、この学校にも【魔導隊】の隊員が、どこかで目を光らせているだろう)
「どうせ、いきなり出現とかしたりしないよな!」
と、調子に乗っている総司は、一人、廊下で笑っていた。
『緊急警報! 緊急警報! 現在、第七区において、【悪魔】が出現! 一般人の皆様は、急いでシェルターに避難してください! くり返します——』
(あーれ? これ、マジなやつ? いやいや、聞き間違いか? 【悪魔】出現って、あまりにも急すぎるだろ)
放送が流れた途端、生徒たちは、急いで廊下に出て、避難訓練のように先生の指示に従って、シェルターへと避難していく。
「急いで逃げないと!」
「【悪魔】が出たって、マジ?」
「そうらしいよ。ニュースでもやっている!」
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