第2話

 近づいてみると、案の定ファミレスだ。


「まだやっているかな?」

「駐車場にトラックが一杯止まっています。まだやってそうですね」


 ファミレス店内に入ると、トラック運転手達とおぼしき人達が何人も仮眠を取っていた。


 よかった。二十四時間営業だ。これなら始発まで過ごせそうだな。

 しかし、金はあったかな?

 財布を開くと、千円札が三枚ある。

 これなら大丈夫か。

 

 程なくして、女店員に席へ案内された。

 隣のテーブルでは、中年の男が一人で水割りを飲んでいる。


 こいつもトラック運転手かな? いいのかな? 飲んじゃって……


「店員さん。水割り一つ」


 俺達がメニューを見ていると、隣の男が女店員に呼びかけた。

 だが、店員は愛想もなにもない顔で男をギロっと睨む。

 

「駄目です」

「なんだよ。それが客に対する態度か」

「あなた。明日、早くから運転があるんでしょ」

「亭主が嫌な思いして帰って来たんだ。飲ましてくれたっていいだろ」

「この一杯で帰るって約束でしょ。ウーロン茶出すから、それ飲んで帰って」


 どうやら、あの二人夫婦のようだ。


 店員は俺達の方へ向き直った。


「失礼しました。オーダーはお決まりですか?」

「緑茶ハイ二つにつまみセットを」


 店員が去った後、隣の男が俺達に話しかけてきた。


「なあ、兄ちゃん達。あいつに内緒で少し酒を分けてくれないか」

「駄目ですよ。明日、トラック運転するんでしょ」

「トラックなんか運転しねえよ。頼む。一杯だけでいいんだ」

「しょうがないなあ」


 暫くして店員が酒とつまみを運んでくる。

 店員が戻っていったのを見計らい、俺は男のコップに緑茶ハイを分けた。


「何か嫌な事でもあったのですか?」

「ああ。ほんの少し。たった五メートルずれただけなんだ」


 五メートル? なにが?


「それだけの事なのに、あの野郎、ネチネチと嫌み言いやがって」


 仕事で失敗して、上司に嫌みを言われたようだな。


「涌井さん。この人、何を言っているのでしょう?」

「酔っ払いの言っている事なんか分かるか」  

  

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