始発電車を待つ間

津嶋朋靖

第1話

 真夜中の駅。


 俺は時刻表を睨みつけていた。


「お客さん。そんな親のかたきでも見るような目で時刻表睨みつけたって、さっき降りた電車が終電ですよ」


 背後から駅員が声を掛けてくる。


「分かっている! 始発は何時か、確認しているんだ!」

「そうですか。始発は五時六分です」


 くそ! 迂闊だった。


 なんとか、終電に間に合ったのはいいが、そのまま終点まで眠り込んでしまうとは……


 会社の忘年会が終わったら、すぐに帰るべきだったんだ。内田うちだの奴が、カラオケ行こうなんて言い出すから……


 駅の外へ出ると、俺をカラオケに誘った同僚の内田がスマホを操作していた。ビジネスホテルでも探しているのか? こんな田舎にあるとは思えないが…… 


「内田君。どこかに、休める場所は見つかったか?」

「さあ? 僕に聞かれても」

「聞かれてもって……今、スマホで探しているんじゃないのか?」

「え? 僕は今ボケモンやっているのですが……」


 あのなあ……


「この辺りに、スフィンクスというレアなボケモンがいるそうなんです」

「おまえなあ……今、それどころじゃないだろう! 五時六分の始発電車が出るまで、どうやって過ごすんだ!?」

涌井わくいさん」


 内田は地図看板を指さしていた。


「この先に公園があります。そこへ行きましょう」


 公園で野宿でもしようと言うのか? この寒空の下で……いや、公園なら東屋ぐらいあるかもしれないな。


 しばらく歩いて、俺達は「金字塔公園」という公園に着いた。


「やっぱりいた。スフィンクスゲット!」


 内田が嬉しそうにスマホを見ているところを見ると、目当てのボケモンを捕まえたようだ。


「スフィンクスとやらは捕まえたのかい?」

「ええ。駅前をいくら探していないし、ふと駅前の地図を見たら、金字塔公園ってあるじゃないですか。金字塔という事は、スフィンクスはそこだなと……」

「なぜ、金字塔とスフィンクスが関係ある?」

「金字塔というのは、ピラミッドの事なのですよ」


 確かに、公園内にピラミッドのような構造物があるが……


「なんでも、ピラミッドの形が「金」という漢字の形に似ていることから、金字塔になったそうです。スフィンクスと言ったらピラミッドでしょ。ここにくればいると思って……」

「ほう。では、内田君。君はそのボケモンを手に入れるために、この公園に行こうと言ったのか?」

「そうですよ」

「なるほど。で、そのボケモンを手に入れた後、君はどうするつもりだった? この公園で野宿する気か?」

「こんなところで野宿するわけないでしょ。家に帰りますよ」

「どうやって?」

「電車に決まっているじゃないですか」

「さっき俺は、電車は五時六分までないと言ったが、聞いていたか?」

「え?」


 やはり聞いていなかったか……


「どうしてこんな事に?」

「おまえがカラオケ行こうなんて言い出すからだろ! しかも終電ぎりぎりまで粘りやがって!」

「終電に間に合ったからいいじゃないですか。その後、涌井さんが居眠りするからいけないんでしょ」

「おまえだって居眠りしていただろう!」

「僕は涌井さんが起こしてくれると思っていたから、安心して居眠りしていたんですよ。人の信頼裏切らないで下さいよ」

「勝手に信頼されても迷惑なんだよ!」

「まあまあ、落ち着きましょう。ここは現実的に対策を考えないと……」


 内田は周囲を見回す。


「涌井さん。あそこへ行きましょう」

「なんだ? またレアボケモンでも見つけたか?」

「嫌だな。こんな状況でボケモンなんかするわけないじゃないですか」


 さっき、思い切りやっていただろうが……


「それより、あそこに明かりが見えるでしょ。あれファミレスじゃないかな?」


 内田の指差す先に確かに明かりがあった。

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