第33話 曲げられた真実

 白鳥芸能事務所の3人は、あれから奇妙な男がばら撒いていった札束を慌てて拾い上げていたが、それが玩具だと分かるのにそう時間が掛からなかった。


「あいつ、いったい何者だったんだ? しかし、何を考えてるのかこんなことまでして……。そういえばこの近くに別の芸能事務所が出来たそうだな。そこのスパイなんじゃないか?」


 赤羽が言うと、受付の若い男が、玩具の札束をクシャクシャに握ってゴミ箱に入れながら、「ああ、そういえば、すぐ近くでしたね。あいつらも元は同業者ですよ」とブツブツいいながら掃除をしている。



 牧田も全く裕星たちだとは気付いていないようだった。


「社長、明後日はあの女たちを解放するよう見張りの女に伝えておきますが、ここがばれそうになったら言ってください。どんな方法でも、過去は握り潰せますからね」と笑って出て行ったのだった。








 翌日、週刊誌『週刊女の春』は昨夜の生放送『独身貴族』をトップ記事にして出した。




『最後に選ばれたのは、初めは岡本アン(25)だったが、生放送中に突発的に自分の過去を告白。その後、昔、被害に遭った事務所の社長の名前を告発しようとした途端音声が切れた。これには何か作為があるものと弊社は睨んでいる。


 しかし、唇を読める読唇術の達人にアンの唇を読んでもらったところ、どうやら次のことが分かった。

 社長の名前はイニシャルAから始まること。当時のマネージャーはイニシャルMで始まる事だ。

 弊社の敏腕記者が取材を重ねたところ、有力な情報が分かった。


 その芸能事務所とは、JPスター芸能事務所、社長はAから始まる浅加社長で、マネージャーのMは、ラ・メールブルーの専属マネージャー松島氏ではないかとの噂がある。

 噂の範疇ではあるが、実はこの有力な情報には裏付けがある。『独身貴族』の王子として選ばれたのは、正にそのJPスター芸能事務所を代表するラ・メールブルーのヴォーカル海原裕星かいばらゆうせい(23)だからだ。


 そして、最終的にアンの繰り上げで「王子の恋人」になった天音美羽あまねみう(21)は、浅加社長の知り合いで、さらに浅加社長の推薦で候補者になったことを考えれば、疑惑はいずれ真実になることだろう。

 これからの動向を今後も弊社が追って取材し判明させていくことで──』







「な、なんなんだぁ、これはっ!」

 JPスター芸能事務所の社長室から浅加の怒号が響いてきた。


「俺がいったいいつ悪質な芸能事務所の社長になった? また週刊女の春か!

 こいつらどこまでもウチにガセ攻撃を仕掛けてくるつもりだな? 以前の熱愛ガセを撤回させたことで相当恨んでるんだろうな」浅加の怒りも頂点に達している。



 すると、その声を聞いて社長室にやってきた裕星が冷静に社長をなだめた。


「社長、勝手に言わせておけばいいんですよ。ウチの事務所がそうでないことは世間が分かってることですから。それに、彼女たちが所属していたなんて事実も勿論ある訳がない。

 それよりも、明日の『独身貴族スペシャル』を観ていてください。きっと今までの事が一掃することが起きますよ」と笑顔を見せた。


「裕星、お前、この間はあれだけ出演を嫌がっていたのに、どういう風の吹きまわしだ? 何だ、一掃することって」




「まあまあ、それは観てのお楽しみってことで」


 ハァーと浅加はため息を吐いたが、「裕星がそこまで言うのなら、きっといい考えがあるんだろうな。

 分かった、お前に任せるぞ。ただし無茶はするなよ。しかし何をするかも俺には秘密なのか?」




「言ったら止められそうですから。でも、これは俺のためじゃない。明日で今までの思いが晴れる人達もいるんです。だから、俺は社長や皆には何も言わずにやることにします。

 その後の援護射撃は社長に任せますから、俺と美羽のことをよろしくお願いします」と頭を下げたのだった。







『独身貴族最終回スペシャル』の日はやってきた。


 裕星は何食わぬ顔で控室に行くと、牧田も先日の奇妙な訪問者が裕星だったことなど露知らず、ニコニコ顔で裕星を迎えている。


「海原さん、とうとう最終回スペシャルになりましたね。今日は元々打ち合わせ通りだった天音美羽さんとのラブラブエピソードを後ろの大スクリーンに映し出し、それを背景に二人の今までの思いでを語り合っていただきますので、よろしくお願いいたします」と軽い口調で伝えたのだった。


 裕星は牧田があまりにもこれから起きることも知らずに調子よく話すので、思わず眉を潜めたが、「はい、よろしくお願いします」と何も知らないフリで丁重に頭を下げた。





 最終回もまた生放送だ。アンたち邪魔者は全て排除したから、二度とあんな失態はないと牧田は安心しているのだろうか、ニヤニヤしながらご機嫌そうにあちこちスタッフたちに声掛けをしている。

 その甘い考えが自分自身を地獄に落とすことも知らずに。

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