第30話 ムジナの一網打尽作戦会議
「あっ! 永久! 百合奈もこんな所に! 本当に監禁されてたのね?」アンが思わず声を上げた。
「ああ。彼女たちはあれからここに連れてこられ、この女性に見張られて、番組が終わるまでここで生活させられていたようだ」
「このビデオは証拠になりますね! 彼女たちは今警察にいるんですよね?」
「ああ、保護されていると思う」
「裕くん、このビデオがあれば、牧田プロデューサーを訴えられるわよね?」美羽が言うと、
「ああ、牧田はね。だけど、大元の赤羽は無理だ。これだけではまだ十分な証拠にはならない」裕星の顔が曇った。
「じゃあ、どうすればいいの……?」
「今日、これからちょっと赤羽のとこを訪ねてみようと思ってる。真正面からじゃかなりヤバいから、何か方法を考えてる」
「裕くん、私も行くわ!」美羽が裕星の目を真っ直ぐに見て言った。
「アンさんは赤羽社長に顔が知られていますから、私が行きます! 裕くんはもっと有名人だからすぐに怪しまれるでしょ。
私なら、一般人だしバレないんじゃないかと思うの! 今回の番組で初めて顔を出しただけだから。
──ほら、事務所に入りたいとかなんとか言って赤羽社長のとこに行くというのはどうかしら?」
美羽は目を輝かせながら自信たっぷりに言うが、裕星はそれを認めるわけには行かなかった。
ただでさえ危ない連中だ。純粋無垢な美羽が乗り込んで行って上手く立ち回れるわけがない。
裕星はしばらく目を閉じて考えていたが、パッと目を開けると、
「牧田に
「毒餌? なんのこと?」美羽が首を捻ると、
「永久たちがあそこから逃げ出したことが知られるのは時間の問題だ。
それに、牧田が警察に捕まって尋問される前に赤羽の所に行かせる必要がある。
牧田だけ警察に捕まるか、それとも牧田と赤羽を一網打尽にするか。どうせなら後者だろ?」
裕星は善は急げとばかりに控え室を出て行った。
「裕くん、本当に大丈夫かしら?」
美羽は祈るような思いで裕星の後ろ姿を見守っていた。
「美羽さん、本当は裕星さんとお付き合いしてたのね?」突然アンが美羽に切り出した。
え? と驚いてアンの顔を見ると、「途中から、ううん、初めの頃から分かってたわ。言ったでしょ? 裕星のあなたの見る目は、他の誰を見る時とは違ってるって」と微笑んでいる。
「アンさん……実は私たち、そうなんです。彼はずっと前から私の大切な人なんです」美羽は頬を赤らめて言った。
「やっぱりね」納得したように、アンは美羽に微笑むと、「本当に素敵な人。独身貴族になんて勿体ない。一途で他の女性には見向きもしない。彼は本物の男ね。羨ましいわ。私も彼のように真っ直ぐな人と出会いたかったわ」と悲しそうに笑った。
一方、裕星は牧田が次の仕事をしているスタジオに入ると、スタッフと話している牧田の背後から声を掛けた。
「牧田さん、さっきはお疲れ様でした。ところで、スペシャルの事ですが、僕の相手は予定通り天音さんということになりますか?」
「ああ、海原さん? おっしゃる通りです! 彼女、岡本アンは番組のルールを無視して放送禁止のタブーを犯しましたからねえ。やはり、繰り上げて元々選ばれるはずだった天音さんと恋人になって頂きたいですな。
ところで、なぜ岡本アンを? 何か彼女から示唆されましたか?」
牧田は、話していたスタッフに向かって、クイと顎を上げて向こうに行くように合図しながら言った。
「いや、ただ、僕の感性で彼女を選んでしまいました! とても魅力的な方でしたから」
「ああ、そうでしたか。構いませんよ、心変わりやハプニングは付き物ですから馴れていますよ」と得意げに笑った。
「それで、ご相談があって来たんですが……」
「相談? 海原さんのような方が僕にどんな相談ですか?」
「実は、また僕の知り合いから良からぬ噂話を聞き出しまして、言おうかどうか悩んでいます」
「ああ、あれですか? 悪いデマでしたからね。そういうデマを吹聴する人はどこにでもいるもんです。海原さんもお困りなんですか?」
「ええ。実は牧田さんが近々警察に捕まるから気をつけろ、なんて言うんですよ。失礼な噂ですよね?
どうも、赤羽という悪名高い男が事務所の身辺整理のために昔の部下と縁を切り始めているとか? おかしいですよね?
どうして牧田さんがそんな赤羽の部下だなんて言われてるのか分かりません」
「──それはどういう噂ですか? もう少し詳しく教えて頂けませんかね? 聞き捨てならないことですから」
「いや、でも僕の知り合いはただの噂好きではなく、昔記者をしていたのでこういったことに関しては情報通で、結構色んなことに詳しいんですよ。
赤羽と言えば、以前、所属していたタレントから、劣悪な仕事環境のことで訴訟を起こされた事があった人ですよね?
僕もそんなに詳しくは知りませんが、知り合いが言うには、事務所を新しくした機会に昔の部下を消していってる? とかなんとか。つまり、今までの自分の悪事は全部部下のせいにするらしいと聞きました。
怖い世界ですね? 赤羽って、そんな人間なんですね? でも、その時、牧田さんのお名前をお聞きしてしまったので、赤羽に何かされる前に一応噂だとしても注意喚起としてお伝えしておこうかと……あ、お節介な話でしたかね?」とわざと深刻そうに言った。
牧田は裕星の話を聞いて唇を一文字にすると、「いやいや、貴重な情報をありがとう」と、憮然とした様子でその場を後にしたのだった。
どうやら牧田はまんまと裕星の撒いた毒餌に食いついた様子だった。
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