第24話 正義の協力者に危機が
「ああ、やっぱりそうでしたか。でも、金銭の他に悪質接待の強要とか給与の未払いなどは?」
「おお、こっちのファイル、少し前の2015年のやつにはやはりそんなことがあるな。タレントの給与が未払いが続いて週刊誌に暴露されている」
「この事務所はその後どうなりましたか? 最近の事務所を調べても赤羽なんて事務所は出てこないんですが」
「ふーむ。こういった類の事務所はすぐにとんずらして、名前を変えてまた新しい事務所のふりをするんだ。だからイタチゴッコなのさ」
「それで? じゃあ、もう所在が分かずじまいなんですか?」
裕星は少し
「いや、大丈夫だ。これを見てくれ。最近の資料なんだが、ここにある芸能事務所がまた訴えられてる。しかし、訴訟を起こしてもそれほど表に出ることなく握り潰されてるな。
現に借金をさせてタレントが払えなくなった。その事実だけで争う訳だから、タレント側が不利になる。
それにこの事務所の代表者は
白鳥芸能事務所は、赤羽が姿を変えた事務所ってことで間違いないようですな」と得意げに笑った。
「ありがとうございます! これで何とか尻尾を掴めそうです」
「なんだ? 海原さんは探偵もやってるのかな? 最近は『独身貴族』で活躍してるけど、何かそこと関係があるの?」と川田は白髪の頭を掻きながら訊いた。
「いいえ、探偵なんて大それたことは出来ません。でも、お礼に情報を伝えますよ。
今回の番組のプロデューサーが、赤羽事務所で当時マネージャーをしていたその牧田という男なんですよ。
彼が正にまた良からぬことをしてるようなので、一応川田さんにもご報告しておきます。
まだ記者をされていたら、大スクープになるかもしれません」と裕星が笑った。
川田に礼を言って新聞社を出ると、明日の最終収録の前にしておくことのために、裕星はまたベンツをスタジオ方面に走らせた。
裕星が向かった先は独身貴族の恋人候補たちの寮だった。もちろん、今そこにいるのは残っている美羽とアンの二人だけだ。
裕星はケータイを取り上げられて連絡の付かない中の二人にどうやって会おうかと考えあぐねていた。
しかし、明日、アンが復讐劇を決行する前に会っておかないといけない。
裕星がエントランス前をウロウロしていると、偶然にも美羽がコンビニで日用品を買うために降りてきたのだった。
「おい、美羽!」
裕星が声を掛けて引き留めた。
「裕くん? どうしたの? 私たちは番組以外では会ってはいけないんじゃ……」
裕星はシーッと人差し指を立てると、こっちこっちとベンツの助手席に美羽を乗せた。
「どうしたの、こんな夜に。何か分かったの?」
「ああ、分かった。このまま俺に付き合ってくれないか?」
*** SFYテレビ局 ***
牧田が向かった先は、アンたちを推薦して恋人候補に選出させた
岩井はたまたま来客で席を外していたため、近くにいたスタッフに、彼女が戻って来たらプロデューサー室に来るように伝言をして引き返したのだった。
岩井がデスクに戻ってくると、隣に座っている山本さおりが顔を近づけて、さっきの牧田の伝言を伝えた。
「ねえ、岩井さん、何かやらかした? さっき牧田Pが来て、P室に来るように言ってたよ。何か鬼の
そう言われて、岩井はハッとした。もしかして自分の計画がバレてしまったのだろうか?
もちろん、この仕事をしている以上、自分が当時の事務所で事務をしていたことを知られるのは時間の問題だったが、この独身貴族の女性候補たちを故意に選出したのも正に自分だ。
牧田がアンたちの正体に気付いてしまったとしたら、彼女たちはあの血も涙もない牧田に何をされるだろうかと不安が押し寄せてきた。
自分の身の危険よりも、アンたちの身に何かあるのではという母親のような心境だった。
岩井は急いでアンたちの寮へ電話を掛けた。スタッフからの電話や連絡は取れるように寮の管理人には言ってある。
岩井がアンを電話口に呼び出すように言うと、アンの部屋をしばらく呼び出していた管理人がアンが不在であることを告げたのだった。
――いったいどこにいるの?
アンは、美羽がコンビニに行くと言って出たまま帰って来ないので、心配になって迎えに出たのだった。
コンビニに着いて中を見たが、どこにもいない。まさか美羽までが失踪してしまったのだろうかと心配していたのだ。ケータイがないと言うのはこれほどまでに不便なものなのかと生まれて初めて感じたのだった。
ウロウロしながら寮に戻ってくると、管理人に呼び止められた。
「さっき岩井さんからお電話がありましたよ。何か急いでおられました」
「岩井さんが? あの、こちらからかけたいのですが、掛けて頂けませんか?」
アンが管理人に頼むと、わかりました、と管理人が局に電話をしたのだった。
岩井はコールバックして来たアンの電話にすぐに出た。
<アンさん? 実は、ちょっと気になることがあるの。あのことで……>
電話口の岩井がそう言った途端、岩井のすぐ背後で声がした。
<岩井さん、さっきからどこに電話してるんですか? 僕のところに来てくださいと伝言しておいたんですけど?>牧田の声だ。
<え、でも、ちょっと今お客様とお電話を……>
受話器を離しているのか、岩井の声が遠くに聞こえる。すると、いきなり電話がプツリと切れたのだった。
牧田が岩井のデスクにある電話のフックボタンを押したからだ。
「もしもし、もしもし、岩井さん?」アンは岩井の名前を連呼したが、もうすでに電話は切れて、二度と掛かってくることはなかった。
――何があったのかしら? さっき牧田の声がしたようだったけど……もしかして、岩井さんが私たちに協力していたことがバレたの?
アンは心臓がドクドクと大きくなるのを感じていた。
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