第22話 暴かれた策略



 *** SFYテレビ局 ***



「あいつらがまさかこんな方法でやってくるとは思わなかったな」


 男が腕を組んで苦虫を潰したような顔をした。




「だから、俺はちゃんと言われた通りに二人を拉致しておきましたよ。一人目は山の休憩所のトイレを出たところを、もう一人はあんたが開けておいた非常階段からナイフで脅して連れ出した。


 そんとき、下の扉を鍵で開け、車の中で待機してた俺のダチに彼女を任せてまた鍵をかけ、俺は上に戻って何食わぬ顔で鍵をボックスに戻しておいた。


 でも清掃員の格好でマスクをしてたから、防犯カメラに映っていたとしても顔は見られていませんよ。


 後の一人は帰り道で脅し程度にカッターでちょっと背中から服を切っただけっす」フフフと笑っている。





「まあ、いいだろう。これ以上俺たちに盾つくと、こういうことになるということが分かっただろうからな。お前らの顔も見られてないし、お前と俺との関連は元々ないからな。もうここには来るなよ」




「分かってるよ。金さえもらえば俺もここには来る必要はないさ。俺だって警察には捕まりたくないからな」


 すると、ほら、といって男は札束を机の上にバサりと投げた。

 作業着の男はそれをごっそり掴むと、懐に入れながらニヤリとした。


「じゃあな」と、また帽子を深く被り直すとプロデューサー室を出ていったのだった。







 作業着の男がドアから出ていったのを見届けると、牧田は電話をかけ始めた。


「あ、もしもし、赤羽あかばね社長、僕です、牧田です。ええ、指示された通り、先に芽は摘んでおきました。誰も僕達の仕業とは思わないでしょう。


 彼女らの家族にも、番組が終わるまでは合宿が続きますと連絡を入れていますからね。

 こっちにはアリバイもあります。ええ、そうです。金で雇ったあいつらに全部やらせました。女たちだって、俺らの仕業とは分かっていないはずですよ。


 雇ったやつらも僕らとはなんら無関係の闇アルバイトのヤバいやつらですから。金さえやればもう二度と現れません。


 監禁している2人ですか? ああ、ある女にディレクターのケータイへ彼女らのフリで無事だという電話をさせましたから、まさか誰も誘拐されたとは思ってないでしょう。


 それに、どうやら彼女らは最初からこの番組で問題を起こす計画をしていたようなので、それを逆に利用させてもらっただけですよ。

 彼女らは時期を見てあの女に解放させます。明後日の最終収録さえ無事に終わればね。


 彼女たちも訴えようにも、まさか僕と社長が指示して拉致させたなんてことは分からないわけですから、警察も証拠がなくて捕まえられないでしょう。

 たまたまテレビ局にいた見知らぬ男らに拉致されたというだけですからね。


 いやあ、それにしても、まさか彼女たちが5年後に僕の前に揃って姿を現すとは……皆大人になっていて初めは気づかなかったですよ。


 名前も変えて敵陣にやって来るとはいい度胸だ。あのとき、MCの佐々木が、「彼女たちは以前皆同じ事務所出身でしたよね?」と気づきさえしなければ分からなかったことです。


 あのままだと番組を乗っ取って僕を告発しそうな気がしましたからね。

それに最後に選ばれるのは部外者の天音美羽の方だ。アイツらも残念だったな。


 ──それにしても偶然あの4人がこの番組に推薦されるのも奇妙な話だな。

 誰か他にも彼女たちに裏で協力してるやつがいるんですかね。


 ……彼女らを選抜推薦したディレクターが怪しいなあ。あの女に訊いてみますか?」






 美羽以外の4人を推薦して、極秘選抜させたのは岩井優子いわいゆうこという女性ディレクターだった。

 彼女はテレビ局でバラエティなどの演出などを担当していたが、『独身貴族』の恋人候補を選ぶにあたって、数々のオーディションや面接などの責任者となっていた。


 その彼女が今までの女性達を見てきて、どうしても推薦したい4人がいるということで選ばれたのがアンたち4名だった。


 しかし、その彼女こそ、アンたちが5年前所属していた悪徳芸能事務所で、当時、事務の仕事をしていたのだった。


 岩井は、アンたちが社長のずさんな事務所経営によってレッスン代などの金銭を不当に請求されたり、仕事を得るために酷い待遇や接待までさせられていたのを知り、アンたちが事務所を辞めたのを切っ掛けに彼女も事務所を退所していた。


 その後新しい仕事を始め、今ではテレビ局の番組制作や演出を任せられるまでになっていたのだが、最近になってアンたちから連絡があり、この復讐劇の話を持ちかけられたのだった。

 そして、故意にアンたち4名が恋人候補に選ばれるように誘導していたのだ。


 また、牧田は、岩井が当時十数人もいる事務職員の1人として働いていた事などとうに忘れている様で、アンたちを選出することに対して何の疑問も湧かなかったようだが、彼女たちを知るMCのたった一言で、あの当時のタレントたちが名前を変えて参加していたことに気付いたのだった。



 当然、そうなると、その意図を勘ぐる事になる。つまり、最初の打ち合わせの段階から、牧田はアンたちの行動を怪しみ、抜かりなく見張っていたということだろう。


 そして、一人ずつ姿を消し、あたかもそれが本人たちの意思であるかのようにそ知らぬふりでカモフラージュしたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る